第21話 風の、その先
─いつもの食堂で、六人の笑い声が、いつもより少しだけ弾んでいた。
「……あの頃はなぁ…。ただ転がるだけだったのに…」
カイルがぽつりと呟く。
「ズズズって…。音も可愛かったなぁ」
「って、親バカかよ!」
エリオットが即座に突っ込む。
「……浮ついているな」
セリウスが、「ふん」と鼻を鳴らす。
「……そういえば、お二人とも、宿舎に引っ越されると聞きましたが」
「……うん。冬休みの間に」
サラが問いかけ、セリアが嬉しそうに頷いた。
「もうすぐ、冬休みかぁ…!」
クラリスがしみじみと呟き、
「えっ、引っ越してくるの!?」
カイルが驚きの声を上げる。
「……今後の連携のためだ」
セリウスが、ぶっきらぼうに言い放つ。
「今後といえば、そろそろ進路の話しも出ますわね」
その一言で、空気がほんのわずかに落ち着いた。
「進路かぁー!そういや、ガレスのアニキはどうすんのかな?」
年が明けて、しばらくすれば三年生は卒業になる。
「あとで、先輩がたに聞きましょうか」
それぞれが頷き、朝食をとり終えると教室へと向かった。
─始業の鐘が鳴り、セドリックと─
三年生たちも、教室に入ってきた。
「お兄ちゃん……!」
思わず声を上げるクラリスに、ルイが視線で微笑みかける。
セドリックが教壇に立つ。
「……そろそろお前たちも、進路を考える時期になった。
──今日は、三年生に今後について話して貰う。……まずは、マーセル」
「……はい」
セドリックが左奥に移動し、教壇にマーセルが立つ。
「私が操るドラゴンは、水。進路としては、王宮内での水質管理や、地方での治水工事なんかもあるわ。
──でも、私が選んだのは…」
ここで、チラッとルイを見た。
「──黒ドラゴンと共に、“裂け目”を閉じるサポートをします」
その言葉に、教室の空気がわずかに張り詰めた。
ルイは、何も言わない。
ただ、その視線だけが、まっすぐ前を見据えていた。
クラリスは、思わず息を呑んだ。
──あの場所へ、行くのだ。
「……次、コレット」
マーセルが左側へと退き、コレットが教壇に立った。
「私のドラゴンは、風です。……進路としては、霊峰を観測し、災害を予測して、研究所で情報を集めることがメインです」
ここでひと息、小さく震える声で続けた。
「私の進路は──その予測を元に、“裂け目”の前兆を調べること……です。
……誰かが、見ていないといけないなら、それは、私がやる」
ざわめきは、起きなかった。
ただ、静かに受け止められていた。
(お兄ちゃんのこと、あんなに慕ってたのに……)
コレットが、戦わないでサポートを選んだことが、クラリスにとって意外だった。
(……でも…それも、“裂け目”に向かう形なんだ)
「……次、ガレス」
コレットが左へ移動し、ガレスが教壇に立つ。
「俺のドラゴンは火だ。進路はまぁ…色々ある。生活全般、必要なところならたくさんあるからな。
……だが俺は、」
腕を組んで、教室を見渡す。
「──“裂け目”の前線に出る」
言い切る。
その声に、迷いはない。
「“裂け目”を塞ぐのは、ルイじゃないとできねぇ。だが、抑えるモンがいなきゃ、無理だ。
……後ろで支えてくれるやつがいるなら、俺たちは前でやるだけだ。
湧いて出るやつらを、ひたすら潰す。
……だから。
まぁ、来るなら覚悟して来い」
最後に、ニカッとルイに笑いかける。
(……怖い)
そう思った。
でも──
ぎゅっと手を握り、前を向く。
(置いていかれたくない)
「……最後、ルイ」
ガレスが左に移動し、ルイが教壇に立つ。
「……俺のドラゴンは、“黒”。
“裂け目”を閉じる役割を持つ。
──数百年周期で生まれるそうだ」
軽く視線を動かして、続ける。
「……基本的な所属は、研究所だ。
立てられた予測を元に、警戒に当たる」
教室を、静かに見渡す。
「……予測は外れる。 崩れることもある」
一瞬、言葉を切る。
「……だが」
視線が、まっすぐ前に戻る。
「必ず、やり遂げる」
その視線が、一瞬だけクラリスを捉えた。
「……以上だ」
セドリックが教壇を見渡す。
「─では、冬休みの間に、自分の進路について考えておけ。
……急ぐ必要はない。
だが、目を逸らすな」
冬の風が、廊下を静かに通り抜けていった。
─夕食の時間。朝よりも少し静かに、六人で食事をとっていた。
「…クラリスは、やはり…ルイ先輩について参られますの?」
気遣わしげに眉を下げて、サラが問いかけた。
「…うん…」
(…怖いけど、お兄ちゃんを追いかけたい…)
「……無理はするな」
クラリスの様子を見て、セリウスが告げる。
「……部隊内に、恐怖する者が居るのは迷惑だ。判断が遅れる」
「…おい、そんな言い方…!」
エリオットが、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がろうとすると、カイルが宥める。
「まぁまぁ、…セリウスも、まだ俺ら一年だし。まだ本決まりじゃないしさ」
「……ふん」
そのやりとりに、クラリスが視線を落とす。
(……そうだよね…。
この先は、子供みたいなワガママじゃダメなんだ…
……でも)
──ゆっくりと、視線を上げた。
(……それでも、
──行きたい。
隣に、並べるように)
──その様子に、セリウスが少し眉を上げた。
何かを言いかけて、口を閉じる。
─やがて、学園は冬休みに入る。
それぞれが、自分の“先”を考える時間が訪れた。




