表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの声を聴いた者たち 〜王立操者養成学園の記録〜  作者: 灯吉郎
第一部:ドラゴンは還る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/32

第19話 風の衝突点

─食堂で、いつもの六人が朝食をとっていた。



「……うーん、やっぱりあの岩のところが難しいよね…」


「…スタミナの配分が、想像以上に難しいですわ」


レースを控えているとはいえ、いつものように和やかな空気だった。

クラリスが首を傾げ、サラが頷く。


「……もっと高度を上げたらどうだ」


「お兄様のルクシオンのように、安定して上昇できれば叶いますが…」


それぞれの個性が違う以上、最適解もまた一つではなかった。


「ま!頑張るしかねーな!」


「ふはっ。それな!」


エリオットが元気に立ち上がり、カイルが笑った。



─翌日も、霊峰を周回する。



「いくぞー!ボル!!」

「がおがお!!」


エリオットを乗せたヴォルカンが、勢いよく双牙の狭間を迂回していく。


「……それが最適か」


セリウスはさらに上空を通過し、それよりやや低く、セリアとサラが通過していった。


「…うっ、風が…!」


『……軟弱』


クラリスたちも通過する中、テラが入口で一瞬、翼を絞る。


左岩にしっぽをフックし、体が振り子で内側へと流れる。

巻きつけたしっぽをすぐに解放し、右岩へ連結フック──しようとしたが、浅かった。


「──テラ!」


辛うじて墜落は免れたが、翼が岩をかすめた。


「テラ……! 大丈夫か!?」


『……違う…』


突如、脳裏に声が聞こえた。


(──いまの、)


「──テラか!?」


クラリスがピクッと反応し、カイルが驚きに声を上げる。


テラは、低く息を吐いた。


風が、ざわりと揺れる。


先ほどまで乱れていた気流が、ほんのわずかに“形”を持ったように、肌に触れた。


「……今のは……」


クラリスが空を見上げる。


視線の先、霊峰の稜線に沿って流れていた風が、一瞬だけ、歪んだ。


『……ふん。行くぞ』


クラリスを乗せた六花は、ペースを崩さず岩山を後にした。




『……掴み、そこなった』


テラが、小さく唸る。


「掴むって……お前、風をか?」


カイルの問いに、テラは答えない。


ただ、翼を一度大きく広げた。


さっき掠めた箇所から、じわりと鈍い痛みが走る。


──それでも。


『……もう一度…』


「テラ、無理は──」


『無理じゃない』


きっぱりと、遮る。


その声は、先ほどまでとは違っていた。


迷いが、なかった。


テラは旋回し、もう一度“双牙の狭間”へと挑む。

風が、再び渦を巻く。


『……いま』


翼を打つ。


先ほどと同じ軌道──しかし、ほんのわずかに角度を変える。


左岩を、しっぽで絡める。


その瞬間、風が背を押した。


「──っ!」


体が、前へ出る。


振り子の軌道が、ぶれない。



そのまま、右岩へ。


今度は、深く、確実にフックがかかった。一連の動きが、淀みなく繋がる。


「……今の……」


カイルが、息を呑む。


『……見えた』


テラが、静かに呟いた。


「……見えた、じゃないだろ」


低く、抑えた声。


『……カイル…?』


「その翼で、ゴールまで飛べるのか?」


視線が、テラが掠めた翼へと落ちる。

にじんだ赤が、風にさらされていた。


『……問題ないよ』


テラが答える。


「ダメだ、テラ」


即座に、切り捨てた。


「今日はここまでにしよう。飛行は中止。岩山越えたら、高度落とせ」


『……え、カイル…』


『今、掴みかけたのに…!』


「中途半端な状態で、もしお前になにかあったら…どうすんだよ…!

……くそ、」


(俺がちゃんと、もっと早く止めてれば良かったのに…!)


カイルは、拳を強く握った。


ひやりとした空気が流れる。


──誰も、口を開かなかった。


『……』


テラは視線を逸らしたまま、翼をゆっくりと畳んだ。

掠めた箇所が、じわりと熱を持つ。


「……いい判断だ。無理をさせる段階じゃない」


霊峰の中腹で監視していたセドリックが頷き、手当てするべく離陸した。



─やがて、テラと共にドラゴン舎へと戻った。


セドリックが、慣れた手つきで傷を診る。


「……ふむ。傷は浅いが、範囲が広い。…熱は出ないだろうが、安静にしろ」


「……はい。…ありがとうございます」


鉄柵の向こう側に控えていたカイルが、頭を下げる。


「……本番まで、飛行は禁止だ。休め。

 “掴みかけ”で焦るのが一番危ない」



セドリックが重ねて言うと、テラが唸った。


『やだ! もう一回やったら、絶対上手くいくのに!』



「……テラ!完治するまで、一緒に飛ばないからな」



『……!』



カイルの辛そうな声に、テラは何かを言いかけて…何も言えなかった。




─夜。


ガチャ、と小さな音を立てて、ドラゴン舎の大門が開く。


「……」


(──テラの様子見たら、すぐ帰る…)


カイルが、自分に言い聞かせながら歩き、テラの前に立った。


「……起きてたか」


『……うん』


なら、と、そっと鉄柵を開けて中へと入る──傷に触れないように、壁に背を預ける。


『……あの風さ、ホントに分かった気がしたの』


「……ああ」


頷きはするが、釘も刺す。


「……でも、まだだぞ」


『……わかってる』



『──ねぇ、カイル』


「……んー?」


『“卵”の頃も、こうやって来てくれてたよね』


「まぁな…。なんか、めっちゃ気になるじゃん?」


『……うん。…ふふ。…いつもありがと、カイル。

……おやすみ』


「……ああ。おやすみ…テラ」


ふたりはそのまま、目を閉じた。


外では夜風が、静かに峰をなぞっている。



─テラが、ゆっくりと呼吸する。

カイルもまた、深く呼吸した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ