表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの声を聴いた者たち 〜王立操者養成学園の記録〜  作者: 灯吉郎
第一部:ドラゴンは還る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/32

第17話 声の届く距離

─カーニバルの翌日。


食堂に現れた三年生たちを、みんなで囲んだ。


「昨日の、すごかったっす!」

「おう、見てたか!」


エリオットが興奮気味に告げると、ガレスが笑顔を見せる。


「アニキって呼んでいっすか!?」

「がはは!いいぞ!」


二人は、ガシッと拳を合わせた。


「マーセル先輩、とてもお見事な演舞でしたわ。コレット先輩も、風の軌道が綺麗でした」


「ふふ。ありがとう、サラさん」

「ありがとー!」


サラの言葉に、マーセルとコレットが嬉しそうに頷く。


「…お兄ちゃん、凄かっ…!」

「見ていてくれたのか! ありがとう! クラリス!!」


クラリスが言い終わる前に、ルイが抱き上げてくるくると回転する。


「……」

(……杞憂か)


セリウスは一瞬だけ眉を寄せ、何かを測るように、クラリスへ視線を向けた。


「…仲良しなんですね」


賑やかな様子に、セリアが微笑んだ。



─そのとき、ふと。


ざわめきの向こうで、風に混じる声が、確かに届いた気がした。


─冷たいようで、優しいなにか。


(……六花?)


(─呼ばれた?)



振り向いた先には、何もない。


─それでも、さっきの感触だけが残っていた。




─始業の鐘が鳴る。セドリックが教室に入ってきた。


「……昨日の演舞は見たな?

…お前たちも、いずれあのぐらいは出来るようになれ。

竜の“声”を聞け。聞けなければ、飛べないと思え。


…午後から、演習場にて“飛行訓練”を行う」



─いつもの食堂で、今日も六人で昼食をとっている。



「…いよいよ、ペア飛行か…!」


「午後は、プロテクター装着して行くんだよな?」


エリオットが拳を握りしめる横で、カイルが確認する。


「…ええ。各部屋に備え付けてありますわ」


「ちょっと早めに部屋戻らないとね…!」


サラが補足し、クラリスが頷いた。


─ふと、ひやりとした風が、あのときと同じように触れた気がした。


クラリスは、わずかに視線を落とした。


(……さっきの、あれは)


「そういや、セリウスたちはまだ王宮から通ってるんだよな?遠くね?」


「……装備はドラゴン舎に置いてある」


(……確かに、頃合か)

カイルの疑問に答えつつ、セリウスが顎に手を当てる。


操者同士の連携も必要だ。


─宿舎に移るのも、悪くない。



「じゃあ、準備しよ!」


クラリスが立ち上がり、それぞれ準備に向かった。



─部屋に戻ると、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かだった。



肘のプロテクターを当て、キュッとベルトを締める。


膝下まで覆う装備は、思ったより重い。

それでも──外せば、危ないのだろう。そう思いながら、しゅるりとベルトを回し、カチッと金具を留める。


─遠くで、風が鳴いた気がした。



金具を留める音の合間に、ふと、あの“感触”がよぎる。


(……届いた、気がするけど…)



ゴーグルは、まだ額の上に。

使うのは、空に出てから。


準備を整え、クラリスは部屋を出た。



─ドラゴン舎へ向かう。



「最近どうよ?声、分かるようになった?」


「んー…なんとなく?腹減ったー、とか、機嫌いいとかはわかる」


カイルの問いかけに、エリオットが応える。


「おー!相変わらず仲いいじゃん」


「でもなー。まだ細かいのは無理だな。

訓練も、結局ノリで合わせてる感じだし」


サラが、二人の間にある鉄柵を開けながらゼフィラに話しかける。


「…ふふ。ゼフィラ、何かアドバイスはありまして?」


『……さぁな。理解しているつもりか?』


「…あらまぁ。…確かに、言語化は難しいですわね」


その様子に、カイルが羨ましげにする。


「サラたちは自然な感じするよな!…おっ。…テラ?」


…ズリ…スリ、スリ。


カイルの肩の力が、わずかに抜けた。



「結局さー、近くで見てないとわかんないよな」


エリオットのぼやきに、クラリスが違和感を覚える。



(……違う。さっきは、離れてても──“届いてた”)



『……騒がしい』



六花の呟きが頭に響く。


─それが、誰に向けられたものなのかは、わからない。


クラリスが「ふふっ」と笑った。




─生徒たちが演習場へ集まる。


始業の鐘が鳴り、セドリックが告げる。


「…騎乗訓練の説明をする。

各自、順番に飛行し、赤い旗が立てられている岩でカーブして戻って来い。


速度よりも、安定性を重視しろ。


継続が困難であると判断した場合は、自己判断で中断することも許す。

─では、開始する」



まず先頭に立ったのは、エリオットとヴォルカン。


期待に弾む心のまま、グイッとゴーグルを下ろし、鐙に足を掛けてヴォルカンに跨った。


ここしばらくで、また大きくなったようだ。立派な体躯に、赤い鱗が陽光に光る。


「─いくぜ、ボル!!」

「がおがお!!」


ヴォルカンが羽ばたくと、熱を帯びた風がブワッと広がる。


そのまま上空に上がると、さらに力強く羽ばたいた。


──ボッ!─ゴウッ!


「ぅおっ!?ボ、ボルーー!ちょ、ぉぉぉ!?」


ぐん、と体が後ろに引かれる感覚に、エリオットが慌てて手網を短く持ち替える。


「がおがお!!」


初めてのペア飛行に興奮したらしいヴォルカンが、楽しげに飛ぶ。


「ボル…!ヴォルカン!!カーブ!カーブ!!」

「がお…!!」


タイミングを逃し、赤旗を大きく行き過ぎてからカーブし、折り返してきた。


危険を察して、地上の生徒たちが一斉にゴーグルを下ろした瞬間、着陸の余波でさらに熱風が舞い上がる。


─頬が焼けるような熱だった。


『……騒がしい』


クラリスは、思わず目を細めた。



「……悪くない。だが、曲がるのが遅い」


セドリックの評価に、エリオットは、短く頷いた。


(俺とボルなら、次はもっと上手くやれる…!)


─今度は、ちゃんと曲がる。



確かな手応えを感じて、エリオットは拳を握った。


「次、カイル」


セドリックの号令で、カイルとテラが前に出る。


カイルの身長よりも長くなった体躯は、ゴツゴツした見た目よりも柔らかい。


「……いくぞ、テラ」


テラは、わずかに首を傾けた。



……バサッ


テラの翼が、ゆるりと風を掴み─力強く叩きつける。


ゴウッと重い音を立てて、カイルを乗せたテラが空へ上がった。


エリオットたちよりも高度は低いが、安定した飛行。



「……曲がろう、テラ」


─言葉にするより先に、テラがわずかに傾いた。


……バサッ



赤旗に沿うように翼を旋回させると、綺麗なターンを見せて戻ってくる。



─やがて、ズン、と地面が鳴るような重い音を立てて着陸した。



カイルは、軽く手綱を緩めた。


テラは何も言わず、静かに息を吐く。

風が、わずかにやわらいだ。



「……悪くない。だが、もう少し高度が必要だ」


セドリックの評価に、カイルが頷いた。


─もっと高く…!



「次、サラ」

「はい」


呼ばれて、サラとゼフィラが前に出る。風ドラゴンは成体でも、さほど大きくはならない。

ゼフィラは、サラと同じくらいの目線だった。


「…では、参りましょう」

『…あまり気が乗らないな』


しぶしぶといった様子を見せながらも、サラに促されて空に舞い上がる。


秋の風を纏わせながら、軽やかに飛んでいく。


「…そろそろですわ」

『…仕方ない』


─言葉より先に、風が揺れた。


赤旗ギリギリでカーブする。


─チリ、と翼が旗をかすめた。


「…!危ないですわ!」

『…バランスは崩していない』


一瞬、ヒヤッとしたものの、その後の着地は優雅だった。


─ヒラリ、と風を纏わせながら降り立った。


「……悪くない。だが、切り詰め過ぎるのは改善しろ」


セドリックの評価に、サラが頷く。


─もう少し、ゼフィラと“絆”を深めないといけませんわ…



「次、セリア」

「…はい」


セリアとルミナが前に出る。ゼフィラと同じ風ドラゴンだが、ルミナの方がさらに小さい。


ルミナにそっと騎乗し、セリアが告げる。


「…見てきたこと、活かそう。ルミナ」

『うん。セリア』


ルミナの翼が、の翼が、ふわりと空気をすくい上げる。


派手な音は出なかったが、軽やかに上空へと昇り、真っ直ぐ赤旗を目指す。


「…ここ」

─言葉にする前に、ルミナは応えた。

『うん』


─風が二人を中心に巻きつく。


そのまま赤旗を中心に渦を巻くようにターンし、軽快に戻ってきた。


ふわり、と風を持ち上げながら着地する。


「…良い」


セリアは、静かに頷いた。


「次、クラリス」

「…はい!」


クラリスが、ドキドキしながら前に出る。


『……緊張のしすぎだろう』

「だって…」


いよいよ、ドラゴンと空を飛ぶ日が来たのだ。


(ドキドキするなっていう方が無理…)


『…わからんな』


(心の声まで……聞こえてるの!?)


慌てた様子のクラリスに、六花が『ふん』と鼻を鳴らす。

水ドラゴンは、風ドラゴンよりも背が高い。六花はクラリスを見下ろすと


『…行くんだろう』


騎乗を促した。


「…うん。行こう、六花」

『……承知した』


六花の足元に霜が降り、周囲に氷の結晶が舞う。


翼をはためかせ、六花が空へと舞い上がる。


「んん…!高い…!!」

『…落ち着け。落ちぬ』


強ばるクラリスに、滑空しながら六花が告げる。


(みんな平気そうだったのに…!)

『…知らん』


気づけば赤旗が見えていた。


『…曲がるぞ』

「お願い!」


─六花の翼が、結晶を纏って弧を描く。


赤旗の立つ棒を凍りつかせながら、

綺麗なカーブを見せて戻ってくる。


─周囲が一瞬、静まり返る。



まだ霜が降りたままの地面に、結晶と共に着地する。



「……良い。だが、もう少し連携を鍛えろ」


セドリックの言葉に、クラリスが頷く。


─しっかりしなきゃ…!



「最後、セリウス」


呼ばれて、セリウスが前に出る。


「……ふん」


─一歩も迷いなく、前に出る。



六花が残した霜が、ルクシオンの風で散っていく。


─痕跡すら、残さない。



ルクシオンはセリウスよりも少し背が高い。風ドラゴンの幼体としては、大きい方だった。


「……行くぞ。無駄を無くせ」

『…了解した』


セリウスの言葉に、ルクシオンが応える。


ルクシオンの翼が風を纏い、叩きつけるように地面に放ち─一気に上昇した。


ルクシオンが最適な高度まで上昇すると、次は滑空に入る。

時折翼で風を操りながら、赤旗を目指す。


「……今」

─言葉と同時に、呼吸が一致する。

『…御意』


赤旗が渦巻き、先ほどの氷が割れて散る。


─緑の風になって、ルクシオンが華麗にターンした。


また翼で風を操り、戻ってきて、ぶわりと風を纏いながら着地した。



「……悪くない。だが、上がりすぎている」


セドリックの言葉に、セリウスが一瞥する。


─誤差の範囲だ。



風が、静かに収まっていく。


─だが、クラリスの中だけは、まだ“声”が残っていた。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ