第13話 王都の流儀
「──短いが明日から一週間、夏期休暇に入る。各自、英気を養うように」
セドリックの一言に、教室がざわめく。
その中で、セリウスがゆっくりと立ち上がった。
「王都を案内してやる」
「急だな!?」
カイルが笑うと、エリオットが手を挙げる。
「行く行く!!」
「楽しみですわ」
サラも頷き、
「王都…...!」
クラリスは、初めての王都見学の期待に胸を弾ませた。
─翌朝、食堂にいつもの六人が集まっていた。
ひとつのテーブルは四人掛けなので、セリウスとセリアが合流してからは男子と女子で分かれて座っている。
「...へー!王都歩くときも、制服のままがいいのか!」
朝食をとりながら、エリオットが尋ねる。セリウスは頷いて、
「......ああ。王都内には、ドラゴン向けの食材や操者向けの雑貨もある。
......学生証を提示すれば、割引になる店もある」
襟に留めてある、入学の儀で受け取った銅のピンに触れる。
「今のうちから、御用達を決めておくのも良さそうですわね」
楽しげにサラが続けて、クラリスが「なるほど...…!」と頷いた。
(……でも、「御用達」はまだ先かなぁ……)
─やがて朝食をとり終えると、一行はドラゴン舎へと向かう。
「おはよう、テラ!......なんか、岩食ってから長くなったか?」
......ズリ、ズリ。
「......あー。なんか、ますます重く...」
──バシン!
「うぉっ......!?膝...カックン...!」
「......いい加減、学べ」
崩れ落ちるカイルに、セリウスが冷ややかに告げる。
─そして王宮前。
白い石畳の先に、静かな噴水広場が広がっていた。
水音が、やわらかく響いている。
「……これから王都を案内する」
一度、全員を見渡し──
「……目指すのは市場だ」
両拳を合わせて、エリオットが気合いを入れる。
「よっしゃ!行くか!」
「がおがお!」
みんなで移動する中──
『……騒がしいところには行かん』
──足が止まる。
「あ……」
「...まぁ。.....六花、動きませんの?」
振り向いたクラリスを見て、サラが首を傾げる。
「...では、わたくしたちはこちらでお待ちしておりますわね」
噴水前にあるベンチを指すと、セリアも踏み出した。
「……わたしも、残る」
(……セリアも来ないのか)
セリアの決断に、一瞬だけセリウスの眉が動く。
「……そうか」
セリウスが頷き、クラリスは六花を撫でる。
「終わったら、すぐ戻るね」
『......構わん。ゆっくりしろ』
こうして、一行は二手に分かれた。
─王宮を背に、綺麗に整った石畳の大通りへと足を踏み入れる。
石畳は磨かれ、行き交う人々の衣服もどこか上質だった。
「うわ、なんか『王都来た!』って感じだな…」
エリオットがキョロキョロしていると、ヴォルカンも真似してキョロキョロする。
「お前ら、ほんとソックリだな!」
......ズリ、ズリ。
「なんでカイルは、そんな余裕なんだよ!...って、そっか。お前、王都育ちなんだっけ?」
「まぁ、一応俺も貴族だからな」
エリオットとカイルのやり取りが落ち着いた頃合をみて、セリウスが口を開く。
「ここは王宮近くの商業地区だ。
......品質は保証されているが、その分値も張る」
大通りに面した、白レンガ造りの立派な店のショーウィンドウ。
その中には、ドラゴン用と思われる派手な装具、ラッピングされた箱に入っている高級志向の餌などが飾られている。
「......以前入ったことがあるが、悪くない」
「...もう、入ったことあるんだ...」
「......一生使わねぇかも...」
セリウスの言葉にクラリスは驚き、エリオットがショーウィンドウを覗きながらしみじみ呟く。
カイルも「俺も使わない派だな」と頷いた。
通りを一本外れると、空気がわずかに変わる。
「あ、なんか落ち着く...」
人通りはあるが、先ほどよりも雑多な雰囲気に、エリオットがほっと息をつく。
気が緩んだところに、ガラの悪い男たちが近づいて来た。
「......おー!兄ちゃんたち!いい服着てんなぁ?」
クラリスがびっくりして身を引くと、前に出ようとするエリオットをセリウスが制した。
「……離れろ」
男たちの前に、セリウスが立ちはだかる。
「......身の程を弁えろ」
──ヒュッ、と鋭い風が走る。
「誰に声をかけているか、理解していないようだな」
「......!!クソ!銅ピンのくせに...!!」
「...お、おい...!こいつの髪...!」
「クソ!高位貴族が...!こんなとこウロついてんじゃねぇ!」
セリウスがさらに睨みつけると、ガラ悪い男たちはじりじりと後退していく。
「い、行こうぜ...!」
そのまま走り去っていった。
「......ふん」
「あー。そうだよな。忘れてたけど、公爵サマだったわ…」
カイルが、くしゃっと髪をかき上げながら苦笑する。
「今の、めっちゃカッコよかったぞ!」
「がおがお!」
エリオットとヴォルカンの素直な賞賛に、セリウスは
「......当然だ」
と、振り向いて頷いた。
「……ここからが本題だ」
─人の声と香ばしい匂いが、風に乗って流れてくる。
「うわっ、いい匂いしてきた!」
「がおがお!」
思わず小走りになるエリオットたちを、クラリスたちが追う。
─やがて、市場の入口である、屋台が並ぶエリアにやって来た。
「ボル、あれ食おうぜ!」
「がおがお!」
店主に銅貨を渡して、焼き串を頬張るエリオット。その横で、ヴォルカンも満足そうに火の吐息を漏らす。
「ほんと分かりやすいな、お前ら」
隣の屋台で売っていた、パンに挟まれた肉料理を頬張りながら、カイルが笑う。テラは、道端の石を食べている。
クラリスは、賑やかな屋台を眺めていた。
セリウスは少し離れた屋台に目を向け、足を止める。
「……これを」
店主にぽつりと告げて、可愛らしい焼き菓子の包みを受け取った。
「サラたちのお土産、買おうかな」
何がいいかな、と呟くクラリスに、セリウスが告げる。
「……セリアの分なら、もう買ってある」
食べ終わったカイルが、楽しげに指をさす。
「さっきのだろ?」
「......ついでだ」
ニヤニヤしているカイルを振り払うように、ぶっきらぼうにそっぽを向く。
「そっか……喜ぶね、きっと」
クラリスも、サラと食べようと焼き菓子を買った。
賑やかな屋台の並びを抜けると、さらに奥へと続く通りが広がっていた。
そこには、より庶民向けの露店や、小さな店が立ち並んでいる。
「ここから先は、より実用的な店が多い。
ドラゴン用の餌や装具も、この辺りが主流だ」
大通りで見たものよりも、さらに簡素な餌袋が置いてある露店に、手作りらしい素朴な装具が並んでいた。
露店では値切り交渉など、賑やかな声が上がっている。
「……そろそろ戻るか」
ひと通り眺めると、セリウスが提案した。
「あいつら待たせてるしな」
カイルが頷くと、エリオットが惜しむように伸びをした。
「もっと、のんびりしたかったけどな!」
「がお〜!」
「……うん。でも─次は、みんなで来ようね!」
クラリスの言葉に、名残惜しい雰囲気が、ふっとやわらいだ。
「おっ!いいなそれ!」
エリオットが頷くと、セリウスが
「……好きにしろ。
……また案内してやる」
と、呟いた。
「お!言ったな?」
カイルが笑顔を見せると、エリオットが拳を握る。
「よっしゃ、次も決まりだな!」
─王都の喧騒を背に、四人は軽やかな足取りで歩いていった。
続く




