愛おしい記憶 -09
今の自分の力だけでは、できることは限られている。
親の力を頼らなければ何も出来ない、非力なただの子供だ。
ーーー
その夜、ラウドは執務室にいる父に頭を下げていた。
「…町にいる賊を一掃してほしい?」
夜が更けても執務机に向かう父に正面から向かい合う。
自身と似た瞳が机上から自分を捉えた時、普段あまり表情を動かすことのない父はめずらしく驚いた顔をしていた。
「…何かきっかけが?」
「…言えません。でも必要なことなんです。」
「というのは?」
「…自分は、自分の事ばかりに精一杯で、この街のことを本当の意味で知ろうともしませんでした。…お父上がなぜ私に跡継ぎとして自信を律するように言うのかも。」
「ラウド。」
執務机から立ち上がると、そっとラウドの手を引いてソファーに座らせる。
そして自身は足元にしゃがみ込みながらラウドの両手を握り、正面から顔を見つめる。
その顔は、いつになく優しい笑みをしていた。
「ラウド、お前が隠れて下町に出ていたことは知っている。」
「…。」
「何か…いい出会いがあったのかな。」
「…はい。」
「いいかい。何かを守るには、それだけ自分が強くならないといけない。自分の身を守れるだけの知識と力をつけて、ようやく他者を守れる。」
「今の僕には…力が足りません。」
「その通り。お前が息苦しい思いをしているのも分かっている。だが、今お前が守りたいと思っているよりも、はるかに多い人数の領民を守るためにしなくてはいけないことがあるのはわかるだろう。」
父の言葉はもっともだった。正論だからこそ心が痛かった。
「まずは、自分の身を自分で守れるようになりなさい。」
「…はい。」
「私も報告を受けて早急に対応しなくてはいけないと思っていたんだ。すぐに対処するよ。…君の大切な人たちのこともね。」
「…!!」
父はどこまで知っているのだろうか。いや、もしかしたら何もかもお見通しだったのかもしれない。
驚きに目を丸くしたまま見つめると、眦に僅かな悪戯げな笑みを滲ませた父と目が合う。
「ありがとう…、ありがとうございます…!」
ただその瞳はすぐにいつもの厳しいものに変わる。
「その代わり、高等学校を卒業するまでこうして抜け出すことは禁止だ。
「…。」
「学校が始まればこれまでよりももっと息苦しい毎日がやってくるだろう。…悪意を持って狙う者たちもね。」
「…わかりました。」
今自分があの場所に戻ることでバレッタ達に与える影響を考え、瞼を静かに閉じる。
次に会うときは、バレッタを自分の力で守れるように──。心の中で決意を固める。
こうして、つかの間の幸せな日々はあっけなく終わった。




