愛おしい記憶 -06
それからの数日間、ラウドは花屋の手伝いをして、手作りのコマで競い、子供たちに混じって走り回った。
不恰好なクッキーも何度か一緒に作った。
頬に粉をつけたまま笑うバレッタの隣で、ラウドも笑った。いつもの自分では一度も出したことのない笑い声だった。
「…バレッタ、また付いてる。」
「わっ…!…ありがと。」
バレッタの頬についた粉をそっと指先で拭う。
ハンカチを出して渡してあげればいいだけなのに、その柔らかそうな頬に無意識に手が伸びていた。
わずかに頬を赤らめたバレッタはごまかすように言う。
「ラスって、何で下町に来るの?」
「…ここにくると、楽しいから。」
「そう!よかった、私も楽しい。」
しかし続いた言葉には少しだけ寂しさがにじんでいた。
「…ほんとはね、いつかお花屋さんになりたかったの。」
叶うことのない夢だとわかっているのだろう、
下唇を小さく噛みながら、ささやくような声で秘密を打ち明けるようにバレッタがいう。
内緒ね、と言って悪戯気に唇に指をあてたバレッタは、はっとするほど美しかった。
「…バレッタはお花が好きだよね。」
「うん!大好き!」
「じゃあいつか、僕がプレゼントするよ。抱えきれないくらいのを。」
「ラスが?それはすっごくうれしい!」
バレッタが嬉しそうに笑う。
「うん、…待ってて。」
きっと求めているのは同情でも意見でもないだろう。
横にいる彼女が発した言葉に寄り添いたいと思っているうちに、勝手に口から将来を約束するような言葉が飛び出していた。──まるで求婚のような。
この時ばかりは、ラウドの言葉を深読みしない、バレッタの天真爛漫な笑みにほっとする気持ちと、残念に思う気持ちが押し寄せていた。




