分岐した道の先で -07
「随分とゆっくりだったな。」
「裏で手を回していた貴族たちの対処をしていたんだ。」
ラウドが王太子相手にかかわらず親し気な口調で返す。
当の王太子も慣れた様子で肩をすくめる。
しかし、何かを続けようとしたラウドの声を遮るようにひとつの乾いた笑い声が響いた。
「まさか王太子様とも親しいとは。…恵まれた環境で優秀な仲間に囲まれて。何もかも最初から持っていた人間はさすが違う。」
「……。」
拘束され、膝を付いた姿勢でもマルクは臆することなく続ける。
何も言い返すことのないラウドに代わって、王太子はマルクに近づき諭すように言う。
「ラウドが不正を正したのは民のためだ。それを奪ったと言うのなら、お前の父親が奪ったものの方がよほど多い。…それに、友として、ラウドの苦悩を知らない者にそのようなことを言われるのは気に食わないな。」
「黙れ…!!お前に何がわかるんだ!!」
マルクが叫ぶ。王太子に食いかかるのを騎士が抑え込む。
「あともう少しだったんだ…!あともう少しで、全部取り戻せた。民を操れれば、誰も僕を蔑むことができなくなる。誰も僕を見下すことができなくなる。やっと…やっと、幸せになれたのに…!!」
広間にマルクの声が響いた。
あまりにも悲痛な声なその声は、自身の行いが全て正しいものだと信じて疑わないものだ。
ラウドの腕の中で事の顛末を見つめていたバレッタはマルクを見つめる。
(幸せに、なれたのに。)
マルクの発したその言葉が、じわりと胸に刺さった。
ラウドが治める領地の人々は幸せそうだった。
穏やかな領主に比例するようにいつも穏やかな笑みで幸せそうに暮らす人々の姿が思い浮かぶ。
いつかラウドに連れられて行った村で、村人たちが口々にラウドへの感謝を述べる姿をバレッタは見ていた。
「…ねえ、マルク。」
ふらつく身体を叱咤してバレッタは一歩前に出る。
ラウドが支えようとするのを制して自らの足でマルクに近寄る。
「幸せって、そういうものじゃないでしょう。」
「なっ…。」
「人を傷つけて、奪って、それで手に入れたものを幸せって呼ぶの?」
マルクが何か言いかけた瞬間、バレッタの手が飛んだ。
──パン、と乾いた音が広間に響いた。
バレッタが力の限りに張った手はマルクの頬に赤い跡を残す。
「幸せになりたいなら他にやるべき事があるでしょう!」
「うるさい!!お前に何がわかるんだよ!!」
「知ってるわ!嬉しいことや悲しいことがあるとすぐに顔に出てしまう、純粋で分かりやすいマルクという人間を!」
「っ…!」
「少なくとも、トラッド家にいた時の貴方が全て繕ってたとは言わせないわ!幸せになりたいなら自分の力で幸せになりなさい!!!」
バレッタの頭にマルクの執事としての姿が浮かぶ。
嫁いできたばかりで不安げなバレッタの様子を細かく気にかけていた姿や、ラウドやイリスに褒められて嬉しそうにはにかむ姿も。




