分岐した道の先で -03
言葉の真意がわからなかった、マルクは慈しみさえ感じさせる笑みを浮かべる。
「ザミット家は古い家系です。それはご存知ですよね?」
「…ええ。」
マルクの言うように、ザミット家は長い歴史を持つ1家だった。
しかし貴族界で特に大きな力を持つ訳でもなく細々と続いているだけだ。
「やはりご存知ないか。しかし知っているものの中では有名な言い伝えがある。その一族には人を癒し、願いに寄り添う力を持つと。」
「…知らないわ。そんな話。」
初めて聞く話にバレッタは愕然とする。
父や母からもそんな話は聞いたことがなかった。
「知らないのも当然です。今の時代ではずいぶんと薄れていますから。でも、完全に消えてはいない。」
マルクは神台に目を向けた。
「その力を儀式によって引き出すことができれば、民衆の心に働きかけることができる。人々を操ることができる。そうすれば、失ったものを全て取り戻せる。」
「…そんな力、私にない。」
「あなたがそう思っているだけです。」
マルクはバレッタをまっすぐに見つめた。
その瞳には憎しみでも怒りでもなく、長年にわたって積み上げてきた執念のようなものが宿っていた。
「始めましょうか。そのための準備も整った。」
「いやっ!!」
マルクはそのまま軽々とバレッタを抱き上げると、祭壇の前へとバレッタを連れていく。
そしてそのまま拘束していた腕を別の拘束具へと繋いだ。
近くで静かに控えていた、先ほどの男が祭壇の上の器に手を突っ込む。
取り出された手には真っ赤な血が付いていた。バレッタから抜き出された血だ。
そして白い床の上に描かれた紋様を、その血でなぞるように描く。
「この服じゃ邪魔だな。」
「離して!!」
「おっと、お願いだから暴れないでくれよ。」
監禁させられている間に着替えさせられていた、簡素なワンピースの裾が気に入らないらしく、マルクは足元からその服をたくしあげる。
必死に抵抗するバレッタに対し、マルクは面倒くさそうな表情を浮かべると仕方がないと言った仕草で手を振りあげる。
──パンッ
「っ……!!」
叩かれた頬がみるみると熱を帯びる。
生理的に浮かんだ涙が頬を一筋伝った。
静かになったバレッタにマルクは満足したようだった。
「僕だって手荒な真似はしたくないんだ。…それとも快楽に落ちてからの方がよっぽどいいのかな。」
「ぃや…!」
そう言ってたくし上げられていた隙間から、マルクの指が侵入する。
合わせになっていた上掛けまでも、肩から胸元までずり下げられられる。
「よく噂で聞いてたよ。ラウド様が気に入ったのは’’具合がいい’’からだって。最期に楽しませてもらうのもいいかもな。それに、お前か死んだだけじゃなくて、俺に手をつけられたと知った時のあいつの顔を見るのも面白そうだ。」
「離して…!!」
身体をよじっても、押さえつけられた腕はビクともしなかった。ただただ涙だけが頬を伝う。
酷く悲しかった。
「ラウド様…」
口から思わず助けを乞う声が漏れる。胸元に口付けていたマルクは顔を上げてつまらなそうに言う。
「他の男の名前を呼ぶなんて興が削がれるな。」
「っう…!!!」
ガリッと噛まれた皮膚から僅かに血が滲む。
しばらくの間、引っ切り無しに叫び声をあげたような気がする。
そのうちに暴れようとした身体を息ができないほどに押さえつけられて悲鳴を上げることさえできなくなる。
頬を伝った涙が、叩かれた頬の上をなぞりぴりりと痛みをもたらす。
ただ目の前で自身の服を暴いていく男のことが恐ろしかった。
助けを求めるように周りを見渡しても、信者らしき者たちは一言も発することなくただそこに立っているだけだった。
マルクがバレッタに手を付けようとする姿を、まるで儀式の一部を眺めるように、何の感情も乗らない顔でただ静かに見つめている。
「っ…ゃ…!」
「暴れんなってば。」
たくし上げられた裾から冷気とともに男の指が肌に触れる。
もう諦めるしかないのかと、身体から自然と力が抜けていく。




