正しい答え -02
先程の令嬢がラウドの耳に何かを囁き、それに対してラウドが眉を下げながら甘やかすように頷いて、彼女の手を取ってどこかへ向かおうとしているのだ。
「っ…!!」
心では分かっていても、まだその手を取る姿を目にはしたくなかった。口から漏れそうになる声を手で押えてのみこむ。
すると──、一瞬、ラウドと目が合った。ラウドが驚いたように目を見開く。
「ごめんビビ。」
「あ、ちょっとバレッタ!」
こちらにやってこようとするラウドと話す余裕が持てず、バレッタはそのまま逃げるように人混みの奥へと引っ込んだ。
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人混みに紛れ、ここならば見つからないだろうという会場の裏手にあった廊下のベンチに腰を下ろすと、ようやく大きく息を吐くことができた。
ぼんやりと壁を見つめていると、しばらくしてひとつの足音が聞こえてくる。
「バレッタ…。」
静かに隣に座ったのはビビだった。その目元は先程と違って赤い。
「ビビ、泣いてるの?」
「だって…バレッタが…。」
「どうしてあなたが泣くの?大丈夫よ!」
「大丈夫じゃない!」
ビビはきっぱりと言った。
「いつもそうやって無理して!笑って!少しくらい言いたいこと言えばいいじゃない!」
バレッタは何も言えなかった。
そのまま何も言えないでいると、ビビはぎゅっとバレッタを抱きしめる。
「ありがとうビビ。」
「……なんでこんなに生きにくいのかしらね。ただ好きな人を好きだと言うだけなのに。」
「……ほんとね。」
彼女自身もきっとこの社会に思うことが沢山あるのだろう。
ただ好きなものを、好きと言うそれだけの事。──それだけのことがこの貴族社会ではとても難しい。
ぽつりと呟いたビビの言葉に、バレッタの瞳からも1粒涙がこぼれた。久しぶりに流れた涙は、ひとつ出ると止まることなくほろほろと頬を伝っていく。
しばらくふたりで鼻をグズグズと鳴らして抱き合っていた。しかし、再びひとつの足音が聞こえ、ふたりで慌てて目元を拭う。
「バレッタ様…!!探しておりました!!」
やってきたのはマルクだった。あちらこちらを探し歩いたのか、膝に手をついたゼエゼエと息を吐く。
あまりに慌てた様子にバレッタは立ち上がり手元にあったハンカチを差し出す。
「マルク、どうしたの?」
恐縮しながら受け取った丸くは額の汗を手で拭いつつ息を切らしながら言う。
「実は…バレッタ様のお姉様…ローザ様がお怪我をされたとの報告が入りまして。すぐにお伝えしなくてはと…!」
「お姉様が!?」
バレッタは思わず詰め寄るようにマルクに言う。
「既に病院に運ばれているようで、容態は分かりませんが…」
「直ぐに向かいます。」
「私も行くわ。」
すかさずビビが言う。
「分かりました、既に馬車は外に待機させております。向かいましょう。」
要約息を整え、大きく息を吐いたマルクが来た道を戻りつつバレッタを案内する。裏の庭まで回ってきたのでここから馬車止めまでは屋敷をぐるりとまわらなければいけない。




