正しい答え -01
イムディーナ侯爵家の庭園は、夜でも昼間のように明るくいくつもの照明で照らされていた。
等間隔で上から吊るされたランプの灯りが、緩やかなカーブを描く大理石の敷かれた小道を柔らかく照らしている。
テラスから続く芝の上には、真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブルが行儀よく並び、美味しそうな香りとともに軽食が何種類も並べられていた。
夜風がバレッタの髪をいたずらに乱すのをそっと片手で押さえながらアーチをぬけて会場の中へと入る。
イムディーナ家はラウドが懇意にしている商工会の中でも中心メンバーだ。当主と仕事の話があるとのことで、ひと足早く入っていると聞いていたラウドを探すと、既に会場の真ん中で注目を集めていた。
いつものように老若男女問わず囲まれて穏やかな笑みを浮かべている。しかしその隣には見目麗しい令嬢が寄り添うように立っていた。
(やっぱり、そういうことよね。)
ぱちりとその令嬢と視線が交差する。相手は大きくひとつ瞬きをすると、ラウドに寄せていた腕を密着させ、その瞳を見上げるようにしてラウドに話しかける。
胸の奥がきゅっと痛む。しかしそれには気が付かないフリをして、そのまま数人の顔見知りに挨拶をすることにした。
「まぁバレッタがパーティーにくるなんて珍しい!」
「ビビ!久しぶりね。」
ビビは小さく笑いながらバレッタに近寄る。緩くハーフアップをした亜麻色の髪に、よく映える真紅のリボンがふわりと揺れる。
ビビは学生時代を共にすごしたバレッタにとって数少ない友人のひとりだ。ヒエラルキーの強い学内でも同じ伯爵家の出でということもあり、物怖じしないそのサッパリとした性格は出会って直ぐにうちとけた。
「またラウド様囲まれてるわよ。そこは本妻としての実力を見せつけるべきじゃない?」
「…いいの。きっとラウド様だって色んな方とお話されたいんだわ。」
ビビがイタズラげにこそりとバレッタに耳打ちする。いつもであれば軽口と流せるところが、一瞬言葉に詰まってしまう。
「なぁに。もしかして喧嘩でもしたの…?」
「喧嘩なんて。ただ…やっと現実に気が付いただけ。」
「…また何か言われたんでしょう。」
ビビが心配そうにこちらを見つめる。婚姻の話が出た時も、周囲の令嬢達の騒ぎ方はそれは凄かった。
卒業まであと少しというタイミングでラウドから婚姻申し込みを受けたこともあり、バレッタに対して厳しい言葉をかける周囲の様子をビビは度々目にしていた。
「あのね、あなたは何も気にしなくていいのよ。それにそんなこと言ってるのほんとに一部の人間たちだけなんだから。ただの僻みよ。」
「…ありがとうビビ。」
ビビの優しさは、今のボロボロの心にじんわりと染み渡る。しかし、再び目線を向けたラウドと1人の令嬢の仕草に思わず固まる。




