嵐の前触れ -03
それも一通だけではない。丁寧に重ねられた封筒は、ざっと数えても十を超えている。明らかに公的でないデザインと、持ち上げるとふわりと香る甘い香水の香り。
「…これは、何?」
「奥様、それは──」
「マルク。これはなあに?」
「えっと……」
バレッタはマルクを振り返ってにこりと微笑む。言葉に詰まるマルクの表情を見るに、なんとなく察しはつく。
「…開けるわね。」
「バレッタ様、どうかそのままに──」
泣きそうなマルクは小さく頭を下げる。しかし、バレッタは制止の声を無視して一通手に取って中を開く。
繊細なデザインの紙に丁寧な字で綴られた文章は、季節の挨拶から始まりパッと見た限りではただの手紙のように見えた。
──しかし内容は明確だった。ラウドへの想い。そして、結婚関係を疑問視する言葉。はては、バレッタの根も葉もない噂を書き連ねては、どれだけラウドに相応しくないかが便箋いっぱいにかきつらねられていた。
二枚目も同じような内容だった。しかもそれはラウドと懇意にされている仕事相手からだ。ラウドを案じるような言葉に加え、取引への影響がないか心配する内容も含まれていた。
「…全部、こんな感じ?」
「旦那様は全て根も葉もない噂だと一蹴されております。女性からのお手紙には一度もお返事を出されたことはございません。」
「そう。」
封筒を机に戻す。
手が、少し震えていた。
「決して見られてはいけないものでした。本当に申し訳──」
「謝らないで。大丈夫よマルク。」
バレッタは笑った。うまく笑えているかどうかはわからなかったが安心させるように笑ってみせる。それでも居た堪れずそれだけ言って執務室を出た。
廊下に出た瞬間、ふうと息を吐く。誰もいない廊下で、バレッタはしばらくそのまま壁に背をつけて立っていた。
(わかってた。そんなことわかってた。)
ラウドの周りにそういう女性たちがいることはずっと前から知っていたはずだ。
それに自分が恋をしていると気づいたのはつい最近のことなのに、もうこんなにも痛い。
我ながら現金だとも思った。
でも、こうして目の前に積み上げられると。
(こんなに、遠かったんだ。)
嫉妬だとわかっていた。
こんなことで心を乱すなんて、みっともないともわかっていた。でもラウドとの間にある距離は、自覚してみると想像よりもずっと遠かった。
それに、記憶を失った今のラウドに選ばれたわけでもない自分が、こんな気持ちになる資格があるのかどうかもわからなかった。
それでもただひたすらズキズキと痛む胸と、込み上げそうになるなにかに、必死で気が付かないフリをした。
3月中には完結しそうです。
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