嵐の前触れ -02
姉のローザからの手紙を受け取った際にその手紙に気がついたのは偶然だった。
地方の伯爵家に嫁いだローザは、なかなか王都に来る機会がないこともあり、もっぱら手紙でやり取りしていた。嫁いだばかりの頃は1代前の当主──姉の旦那様のお父様だが──の統率力が弱く、栄えているとは言いがたかった土地は、旦那様と姉の力によって活気を取り戻しつつある。
「あら?このお手紙ラウド様宛だわ。」
姉からの手紙の他に、幾人かの友人やパーティーへの招待の手紙に混じっていたのはラウド様宛のものだった。
「申し訳ありませんバレッタ様!私の方で持っていきます。」
焦った様子の侍女は、最近入ったばかりの新人のラウラだ。通常はイリスが振り分けたものを受け取るのだが、今は家の一連の流れを学ぶために、イリスとともに仕分け作業も手伝っている。
「気にしないで!ちょうどラウド様に今度のパーティーについてお伺いしなくちゃと思ってたところなの。」
恐縮するラウラに微笑みつつ椅子から立ち上がり、サッと身だしなみを整えてラウドの部屋に向かう。この時間であればまだいるだろうか?
ラウドの書斎はエントランスを挟んで西側の棟にある。執務をしやすいようにイリスや統治に関連するものは全てその周辺に配置してあり、私室のある東棟に比べると仕事場らしいすっきりとした調度品でまとめられている。
扉を叩くといつも聞こえるラウドの返事はなかった。代わりに出てきたのは、ラウドの執務周りの手伝いをしているマルクだった。
「バレッタ様!今日は自室で過ごされているとお聞きしておりましたが!」
「お仕事中ごめんなさい。間違ってラウド様宛のお手紙が混ざりこんでたみたいで届けに来たの。」
「ありがとうございます。…私の方で代わりに受け取りますね。」
なぜか慌てた様子のマルクはそそくさと扉の前に立ち、中を覗くのを拒もうとする。
「ラウド様はお出かけ中?」
「ええ、なので私がここで受け取ります!!」
「……何か隠してる?」
「いいえ!そんな滅相もない!!」
イリスの下で執事業務を学んでいるマルクだが、イリスのどんな場面でも冷静沈着さを保った姿とは違い、ワタワタと慌てる姿はまだまだ見習い感満載だ。
「んー、ちょっと入らせてもらうわね。」
「あ、バレッタ様──!!」
悪戯心も相まって、するりとマルクが閉じようとしていた扉の間に身体を滑り込ませて室内に入る。執務机に近寄ると、いつもと何ら変わりない整然としている机の上に、見慣れない封筒があった。




