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嵐の前触れ -01

領地の中でも東の端に位置する農村を視察していたラウドがその日帰宅した時には既に夜はとっぷりと更け、間もなく12時を越えようとしているところだった。


「おかえりなさいませ。」


恭しく頭を下げて出迎えるイリスからいくつかの報告を受けつつ明日の予定を確認しながら階段を上る。


「明日も早いだろう、もう遅いから今日は下がれ。あとは自分でできる。」


「承知いたしました、では何かありましたらいつでも。」


扉がパタリと閉まり自室に1人になると無意識に固まっていた力が抜ける。いくつかの書類と封筒類に目を通し、明日手をつけるべき内容を確認しようとデスクに近寄ると、ここ最近で見慣れたものが目に入り思わず口元が緩む。


「今日は青か…」


置かれていたのは庭から摘み取ったであろう青い小さな花と一言「今日もお疲れ様でした」と添えられたメモだ。柔らかく美しい線で描かれた文字の横には、いつも小さな絵が添えられている。


「これは…りんご、か…?」


気ままに描かれた絵には脈絡はなく、おそらくバレッタが思いついたものを書いているのだろう。その可愛らしいタッチに心が和む。


ラウドの帰りが遅い日々が続く中、習慣のように届くメモを見るために帰宅するのを楽しみにしている自分がいた。その中にいつからか愛おしさのようなものを感じ始めていることにも気がついていた。


記憶は思い出せなくとも、彼女に好意を抱き始めている。なぜ彼女と結婚したのかも、理由は思い出せなくとも彼女をほかの男になど、──絶対に、渡したくないと思うほどには。


しかし周囲は放っておいてくれないようだ。先日の事件が尾を引いていた。新婚であるにも関わらず、バレッタがもともと社交界にあまり顔を出さないタイプだったこともあり、裏で男をとっかえひっかえしているから表に出てこれないのだというあらぬ噂が立っていた。


幸い、バレッタの耳には届いていないようだが、いつ誰が噂彼女の耳に入れるかわからない。できるだけ早く解決したかった。それに、王太子から頼まれていることも早急に解決したかった。


そのためにも、今は思いを伝えるよりもすべきことがある。


「早くどうにかしないとな…。」


くしゃりと髪を乱し、ついたため息は思ったよりも大きく響いた。



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