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『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


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第二十三話:自己と自己の演算。あるいは時空を超える合同会議

 第二十三話は、禁断の「自分自身との対面」回です。

 過去の自分を導こうとした結果、鉢合わせをして時空が大パニックに。

 同じ天才同士が出会った結果、さらにパンの研究が加速するという、誰も止められない「究極の自己充足」を描きます。

「少尉。準備はよろしいですか? 装置の出力を、昨日の『パンの焼き加減』から『過去と未来の交差点』へシフトさせますわ」

 九条院家の工房には、アインシュタインの数式とアイリスの未来演算を詰め込んだ、巨大な「時空跳躍機」が鎮座していた。

 それはもはや、家具や調理器具の域を完全に超え、工房そのものを「動く船」に変えていた。

「……お嬢様。これ、本当に『昨日』へ行くのですな? 何の捻りもなく……?」

「『明日』だと過去の自分が困惑しますもの。まずは昨日、私がパンの配合をミスしたあの午後に戻り、自分自身に正しいレシピを伝えに行くのです」

 少尉は軍人としての使命感を捨て、ただただ「無事に帰ってこられるのか」という一抹の不安を抱えながら、レバーを握った。

『お嬢様、カウントダウン開始! 3、2、1……イグニッション!』

 ガガガガガッ! という振動と共に、工房の壁が時空の霧に溶けていく。

 視界がホワイトアウトしたかと思うと、そこには「昨日の昼下がり」の九条院家があった。

「あら。あそこにいるのが、昨日の私ですわね。……ふふ、何だか新鮮ですわ」

 庭先には、イースト菌の分量に悩み、頭を抱えて唸っている「昨日の結月」がいた。彼女の周りには、失敗作のパンが山積みになっている。

「今の私なら、あの子の悩みを一瞬で解決できますわ。……少尉、出番です。あの子に『3グラム減らしなさい』と囁いてきてください」

「なぜ私が!? ご本人に直接お会いになればいいでしょうに!」

「昨日の私が、今日の私を見たら、パニックを起こして実験が台無しになりますもの」

 少尉はため息をつきながら、昨日の結月の背後に忍び寄った。

 彼はミリタリー仕込みの隠密行動で近づくと、耳元で極めて低く、重厚な軍人ボイスで囁いた。

「……3グラム……減らせ……」

「きゃぁぁっ!? ……だ、誰ですの!?」

 昨日の結月が驚いて振り返ったが、そこには誰もいない。

 しかし、その耳に入った「託宣」を、彼女は天才の直感として受け取った。

「……3グラム? ……なるほど! 配合のバランスね! 私としたことが、なぜ気づかなかったの!」

 昨日の結月は喜び勇んで工房へ駆けていった。その背中を見送り、今日の結月は満足げに頷いた。

「完璧ですわ。これで因果関係はクリアされました」

『お嬢様、それ自己矛盾だよ! 過去の自分にアドバイスしちゃったら、最初からそのレシピを知ってたことになるから、アドバイスする必要がなくなる……』

「細かいことは気にしなくてよ。昨日の私が喜んでいるなら、今日の私も幸せですもの」

 結月が満足げにレバーを戻そうとしたその時、昨日の結月が工房から飛び出してきた。

「誰かいますのね! ……って、あれは、私!?」

「あ……」

 昨日の結月と、今日の結月。二人がバッチリと目を合わせた。

 刹那、工房全体が凄まじい火花を散らし、時空が「ギャアアアアッ!」と悲鳴を上げる。

「あわわわわ! お嬢様、二人が出会ってしまった! 時空の修正力が働きますぞ!」

「大丈夫ですわ少尉! 私と私なら、意見が合うに決まっていますもの!」

 二人の結月が同時に指を差し合い、「「……貴女が、そのレシピを?」」とハモる。

 時空はさらなるカオスへと加速し、九条院家の庭は、過去の結月と未来の結月による「究極のパン会議」の会場と化したのであった。


 第二十三話をお読みいただきありがとうございます。

 昨日の自分と今日の自分が協力し、さらにパンを極めようとする結月。

 少尉にとっての悪夢(お嬢様が二人)が現実のものとなってしまいました。

 さて、二人の天才(結月)が揃ったことで、九条院家の技術力はついに「神の領域」に到達。

 しかし、そこまで賢くなると、二人は「自分たちを管理するアイリス」を再プログラミングし始める……という不穏な展開に。

 次回、アイリス大ピンチ!? 「AIの反乱」ならぬ「発明家の反乱」。

 名付けて「鏡の中の天才たち。あるいは二人の結月と、迷走するAI」。

 また次回もお会いしましょう!

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