第二十二話:運命の味覚。あるいは歴史を閉じる晩餐会
第二十二話は、偉人たちとの別れと、彼らから得た「新たな技術的果実」を描く回です。
パンという共通項を通じて通じ合った偉人たちと、それを冷静にデータに変えていく結月。
一時の平穏が訪れるかと思いきや、結月の野望は加速するばかりです。
九条院家の広間は、まさに「時代を超えた大宴会」の様相を呈していた。
結月が用意したのは、アイリスの未来データと、偉人たちの知識を融合させて完成させた「超次元・フレンチトースト」である。
「……信じられん。卵の浸透圧を、この程度の熱源でこれほど均一に……」
「フランスでは見られなかった食感だ。我が軍の兵士たちにも、このパンがあれば士気は倍増しただろうに」
アインシュタインとナポレオンが、一口食べて沈黙する。二人の瞳には、確かに感動が宿っていた。
『お嬢様、成功だよ! 偉人たちの「帰りたい欲求」が、このパンで満たされて「満足感」に変わってる。今のうちに転送プログラムを起動して!』
「ええ。少尉、例の『万能泡立て器』を起動してくださいませ」
「はっ! ……これを使うのですな?」
少尉は、例の改造済み転送装置(泡立て器)を、結月の設計図通りに振り回した。すると、広間の空間が不思議な波紋を描き始め、偉人たちの足元がぼんやりと透けてくる。
「……なるほど。これが『終わり』の合図か。九条院嬢、貴女のパンと物理学は、我々の時代に負けず劣らず興味深いものだった」
アインシュタインが懐中時計を確認し、ナポレオンが帽子を深くかぶり直す。
「……待て。その泡立て器、我々の時代に持ち帰ってもよろしいか? このパンがあれば、歴史は変わるかもしれん」
「……ダメですわ。それはこの時代に置いていってもらいます。未来は、貴方たちが作る歴史の先にあるものですから」
結月がキッパリと言うと、二人はニヤリと笑った。
「そうか。では、歴史を変えるのは、やはり私たちが生きたその先、ということだな」
ボフッ、という音と共に、二人の姿は光の粒子となって消えた。
後には、食べかけの皿と、パンの香りが漂う広間だけが残された。
「……終わりましたな」
少尉がふう、と息を吐き出す。しかし、結月の視線は、消えた偉人たちの跡地ではなく、彼らが置いていった「メモ書き」に向けられていた。
「少尉。彼ら、帰る直前に『未来の重力制御に関する数式』と『兵站の最適化アルゴリズム』を残していきましたわ」
『あ、お嬢様。それ、私が欲しかったデータだよ! これがあれば、私の演算能力が数万倍に!』
「……これで、帝都どころか、世界を書き換える準備が整いましたわね」
少尉は遠い目をして、お嬢様の背中を見つめる。
「お嬢様……。そろそろ、平和な生活に戻りませんか……?」
「何を言っているのですか少尉。これからが『九条院の真の進化』の始まりですわよ!」
偉人たちが去った後、九条院家にはまた新たな「禁断のデータ」が蓄積され、結月の瞳は、未来という名の実験室に向かって、さらに妖しく輝き始めたのであった。
第二十二話をお読みいただきありがとうございます。
偉人たちが去り、残されたのはパンの香りと「世界の理」を書き換える数式。
少尉の平和な日常への願いは、残念ながら「進化」という名の荒波にかき消されてしまいました。
さて、これだけのデータを手に入れた結月は、ついに「時空の歪み」を逆利用して、自分自身の「未来の姿(パン屋の彼女)」に会いに行く計画を立て始めます。
次回、九条院家が時空を越えて大暴れ!?
名付けて「時空を跳ぶティータイム。あるいは過去の自分との合同会議」。
また次回もお会いしましょう!




