第二十一話:偉人たちのティータイム。あるいは歴史修正(リライト)のティーバッグ
第二十一話は、時空の歪みで歴史的偉人が召喚されてしまう回です。
天才物理学者と皇帝が、お嬢様の「パン焼き要塞」に感銘を受け、大正の庭園で壮大な研究討論を始める…
九条院家の庭で、結月が「時空の残滓」を掃き集めていた時だった。
庭の真ん中にある古い桜の木の下で、空気が歪み、二人の人影が「ボフッ」という音と共に現れた。
「……ここは? 素晴らしい、この庭の設計……黄金比に限りなく近い!」
「いや、そんなことより、私の懐中時計が動かないんだが、どうなっている?」
白髪の老紳士と、チョビ髭の小柄な男。
結月が目を丸くする傍らで、アイリスが絶叫する。
『お嬢様、大変だよ! 歴史の教科書の表紙に載ってる人たちだ! 右が「あの天才物理学者」で、左が「あのフランスの皇帝」!?』
「ナポレオンとアインシュタイン……? なぜ、我が家の庭に?」
少尉は腰の軍刀に手をかけたまま、硬直した。
「お、お嬢様、どちらも教科書で見た顔……。敵国の刺客か!? それとも幽霊か!?」
ナポレオンと名乗った男は、結月の「全自動製パン要塞」を見て目を輝かせた。
「ほう、この鉄の塊はなんだ? 兵站の概念を覆す素晴らしい輸送手段ではないか! これでロシアまで行けば、征服も……」
「皇帝よ、止めたまえ。物理法則がこの時代と合致していない。……それよりも、貴女、この機械で『熱力学』の実験をしているのかね?」
アインシュタインは結月の手元のレンチに興味津々で近づいてきた。
「ええ。正確には『時空の歪みをパンの焼き加減に変換する研究』をしておりますの」
「素晴らしい! 質量とエネルギーの等価性に、パンの香りが加わるのか! 私も手伝おう!」
『あ、お嬢様! 二人が勝手に「時空安定化装置」を改造し始めてる! このままだと帝都が巨大なパンの惑星になっちゃうよ!』
「少尉、すぐに二人を止めて! ……いえ、待ってください。この二人の知識と、アイリスのデータ、そして私の技術を合わせれば、帝都のエネルギー問題が解決するかもしれませんわ!」
少尉は頭を抱えた。
「軍の会議で『アインシュタインと軍議を練った』と言っても、誰も信じぬぞ!……いや、これはこれで『九条院の奇跡』として伝説になるやもしれん……!」
結局、その日の九条院家は、アインシュタインが「特殊相対性理論を用いた効率的な小麦粉の研削」を説き、ナポレオンが「パンをいかに速く配給するか」という戦術会議を展開する、人類史上最もカオスなティータイムと化した。
お茶菓子として出された「焼きすぎたパン」を一口食べたナポレオンが「我が辞書に不可能という文字はない……だが、このパンの硬さは不可能だ!」と絶叫し、アインシュタインが「それは時空の歪みが原因だね」と大笑いする。
結月はその光景をビデオカメラ(もちろん特製)で録画しながら、満足げに微笑んだ。
「歴史を変えることは、案外、パンの焼き加減ひとつで決まるようですわね」
帝都の歴史は、誰にも気づかれぬうちに、確実に「パンと物理学の道」へと逸れ始めていた。
第二十一話をお読みいただきありがとうございます。
アインシュタインとナポレオンを「パンの助手」にしてしまう結月の度胸、もはや恐ろしいですね。
さて、偉人たちを元の時代へ戻さなければなりませんが、彼らが「この時代のパンの味」にハマってしまい、なかなか帰りたがりません。
次回、偉人たちを帰すための「究極の晩餐会」を開催!
名付けて「歴史を食す宴。あるいは帝都を揺るがす物理的パン」。
また次回もお会いしましょう!




