第二十話:さよなら、金色の怪異。予期せぬ電流
第二十話は、物語の最大の危機である「アイリスとの別離」を、結月が強引かつ科学的に粉砕する回です。
少尉の直情的な行動と、結月の「技術でねじ伏せる」強引さが光ります。
深夜の九条院家工房。
結月の前に現れたのは、燕尾服を着た、あまりにも所作が完璧すぎる謎の男であった。
彼は懐から一枚の銀色のカードを取り出し、無機質な声で告げた。
「九条院結月様。貴女が保持するその人工知能『アイリス』は、本来2026年という未来へ戻るべきデータです。それを用いることは時空の歪みを増幅させ、いずれ帝都そのものを消し去るでしょう」
『……誰? この人。私のログにも載ってないよ!』
「……帰す、ですか」
結月は、レンチを握ったまま動かない。その背後で、真壁少尉はいつになく険しい顔で刀の柄に手をかけていた。
「怪しい者だ。お嬢様の技術を奪おうという手口なら、軍の総力を挙げて排除するぞ!」
「いいえ、少尉。……この方の言うことは、科学的ですわ。私の手元にあるすべての技術は、本来、この時代にはオーバーテクノロジー……。確かにアイリスはここに留まれば、いつか破綻が起こる…」
結月の声は珍しく静かだった。
男は淡々と告げる。
「明日、正午。帝都の時計塔にアイリスのコアをお持ちください。そこで時空を繋ぎ、本来の時代へと『強制送還』いたします。これは命令です」
男が姿を消した後、工房には重苦しい静寂が漂った。
『……お嬢様。別れるの? 私、お嬢様と「パン・ミサイル」の改良するの、楽しかったよ』
「……貴女は、ただの『道具』ではないと、最近は思っていましたわ。……少尉、どう思います?」
「……軍人として言わせていただければ、未来など知らぬ! 私はただ、アイリス殿がいなくなれば、私の脳内も静かになる……はずなのに、なぜか胸が痛い」
少尉は自嘲気味に笑った。
翌日、帝都の時計塔。男は待ち構えていた。結月はアイリスのコアを取り出し、装置の隙間に差し込もうとする。
「……最後ですわね。アイリス、貴女の『2026年の知識』、私の脳に焼き付けましたわ。……次に会う時は、私が貴女を作って差し上げますわ」
『あはは、お嬢様ならできるよ! ずっと待ってるね……!』
コアが光り輝き、時空が歪み始める。男がニヤリと笑った。しかしその瞬間。
「――そこまでだ!!」
少尉が飛び出した。彼は自身の軍服に仕込んだ「磁石機能」を最大出力にし、男を強引に壁に縫い付けた。
「なっ……! 何をする!」
「お嬢様が納得していない別れなど、断じて認めん! 未来か過去か知らんが、私の『相棒』を勝手に連れて行くなぁぁ!!」
少尉が男の懐から「時空強制転送器」を奪い取り、それを迷わず結月の旋盤へと放り込んだ。
結月は瞬時にそれを受け取ると、レンチを振るう。
「破壊ですわ! 強制転送のプログラムを、九条院流に書き換えます!」
結月がスパナを振り下ろすと、転送器は原型をとどめないほどに「別の何か」へと変貌した。光の柱が消え、男は唖然として立ち尽くす。
「……私の時代への回帰装置が……『巨大な万能泡立て器』に……?」
「これで、アイリスはどこにも行けませんわ。……それに、時空の歪みを修正するなら、これからは私の技術でやります。貴方がたの古臭い『修正』など不要ですわ」
結月は、アイリスのコアを自分の手でしっかりと握りしめた。
アイリスがホログラムで、照れくさそうに笑う。
『お嬢様、少尉! ……ただいま!』
帝都の時計塔の下で、結月は「これからは、時空をもっとスマートにハックしますわ」と、新たな野望を口にしたのであった。
第二十話をお読みいただきありがとうございます。
アイリスを未来へ送る装置を「万能泡立て器」に改造してしまうあたり、さすがのお嬢様です。
これでアイリスは無事に九条院家に留まることになりました。
しかし、転送器を破壊したことで、帝都には「時空の残滓」が大量にばら撒かれてしまいました。
次回、九条院家で「時空の歪み」によって、歴史上の偉人が……!?
また次回もお会いしましょう!




