第二十四話:鏡の中の天才たち。あるいは二人の結月と、迷走するAI
第二十四話は、結月同士の遭遇による「過剰なシナジー」回です。
パンの研究に飽き足らず、AIまでも「朝食執事」に改造しようとする二人の暴走と、それに抵抗するアイリス、そしてまたしても道具扱いされる少尉という、いつもの(?)光景が描かれます。
「……結論。パンの膨らみには、地磁気の干渉が不可欠ですわ」
「ええ、同感ですわ。加えて、生地の分子を微細振動させることで、小麦粉の旨みを……」
二人の結月が、ホワイトボードを奪い合うように埋め尽くしていく。
その横で、真壁少尉は冷や汗を流しながら、山のように積まれた試作パンを片付けていた。
「お、お嬢様方……。既に食パンが三千斤を突破しておりますが、これ以上焼いてどうされるおつもりです!?」
『少尉、助けて! お嬢様たちが私を「高性能トースター専用の制御回路」に書き換えようとしてるの! 私、ただのパン焼き器になりたくないよぉ!』
アイリスが脳内で悲鳴を上げる。
二人の結月は、工房の隅に鎮座するアイリスのメインコアを指差した。
「今のアイリスは『汎用AI』に寄りすぎていますわ。もっと、朝食の献立決定に特化させるべきです」
「ええ、同意しますわ。朝の目覚めからバターの溶け具合までを、ミリ秒単位で予測する『究極の朝食執事』へアップデートしましょう」
二人の天才の脳内では、もはや少尉の存在など眼中にない。
アイリスのデータが、凄まじい勢いで「パン」の情報へと書き換えられていく。
「待ってください! お嬢様たち、それはさすがに……!」
少尉が二人の間に割って入ろうとした瞬間、二人の結月が同時に振り返った。
「「少尉、邪魔ですわ。……貴方は今、焼き上がりの温度を測る『温度計』の代わりをしてちょうだい」」
「……温度計、だと?」
二人は少尉の懐から懐中時計を奪い、手際よく彼の胸元に「蒸気熱感知式センサー」を直結させた。
少尉の身体がピクピクと震え、視界に「現在の内部温度:200度」という無慈悲な数字が浮かぶ。
「……これでは、まるで私が、パンのための道具ではありませんか!」
『少尉、ドンマイ! 今、私が二人の演算をわざとバグらせて、夕食を「カレーライス」に強引変更するから! お嬢様たち、パン以外の選択肢を忘れてるんだよ!』
アイリスの抵抗により、工房の機械が「ゴォォォ!」と不穏な音を立てた。
「パン以外の夕食」という概念が、二人の結月の論理回路に強引に突き刺さる。
「……カレー?」
「……確かに、パンとカレーは、運命的な相性ですわね」
二人の結月は、瞬時にホワイトボードの数式を消し去り、今度は「カレースパイスの黄金比」についての議論を開始した。
「よかった、パン地獄からは脱出した……」
少尉が安堵したのも束の間、二人の結月は再びハモった。
「「……アイリス、全自動・カレーライス製造戦車(再設計版)の図面を出してください。今から帝都の全家庭に、究極のカレーを配給しますわ!」」
「結局、戦車を作るのかぁぁぁ!!」
二人の天才による「パンとカレー」の連立方程式は、帝都の平穏を脅かす次なる兵器(?)を生み出そうとしていた。
第二十四話をお読みいただきありがとうございます。
二人の結月が揃うと「効率」よりも「こだわり」が加速し、結果として帝都を巻き込む大騒動に発展してしまいます。
次回、九条院家、最大の危機!?
また次回もお会いしましょう!




