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『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


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第十七話:時空のネジ穴。あるいは自分自身との追いかけっこ

 第十七話は、物語の根幹に関わる(かもしれない)タイムパラドックスを、「パンのレシピ」という極めて日常的な結論で解決(?)する回です。

 お嬢様のルーツと、アイリスがなぜ彼女の元へ来たのか……という謎が、少しだけ(斜め上の方向に)明かされます。


「……おかしいですわ。このネジ、ピッチの刻みが一ミリの百万分の一の狂いもなく、私の『九条院式・超精密旋盤せんばん』で削り出したものと一致しますわ」

 月明かりの下、結月は刺客の残骸から抜き取った小さなネジをピンセットで掲げた。その表面には、結月が自分自身の作品にのみ刻む、あの「歯車と百合」の紋章が刻まれていたのだ。

『お嬢様、ちょっと待って。そのネジ、私が2026年のジャンク屋で買った「超高性能トースター(絶滅危惧種)」に使われてたネジと、電子署名しぐねちゃが完全に一致するんだけど……』

「……なんですって?」

 少尉の脳内で、アイリスの声が裏返った。それを聞いた少尉は、頭に巻かれた「磁力除去用のアフロ風アンテナ」を揺らしながら、困惑顔で尋ねた。

「つまり、なんですな。そのネジは、お嬢様が今作ったものであり、同時に未来から来た『パン焼き器』の一部でもあると? ……支離滅裂しりめつれつであります!」

「いえ、少尉。これは理論上、**『鶏が先か、卵が先か』**という因果のループ……すなわち『親殺しのパラドックス』をネジ一本で体現していることになりますわ」

 結月の瞳が、かつてないほど妖しく光り始めた。

「アイリス。もし私の作ったネジが未来に渡り、それが再びこの時代に戻ってきたのだとしたら……今、この瞬間に『未来からのメッセージ』を受信できるはずですわ!」

『えっ、お嬢様、何する気!? タイムトラベルなんて、私の演算能力でも無理だよ!』

「いいえ、アイリス。貴女という『未来の魂』と、少尉という『大正の頑強な受信体』、そしてこの『過去と未来を繋ぐネジ』を直結させれば……理論上、時空の壁に風穴を開けることができますわ!」

「……な、嫌な予感しかしないであります! お嬢様、その巨大な『蓄音機のラッパを百個繋げたような機械』はなんですな!?」

「九条院式・時空反響受像機クロノ・スコープですわ。さあ少尉、その機械の真ん中の椅子に座って、このネジを奥歯で噛んでください」

「奥歯で!? 硬いですぞ、これ!」

 無理やり椅子に固定された少尉。結月が巨大なゼンマイを巻き上げると、屋敷中に「ギギギギ……」という、時空が軋むような音が響き渡った。

『少尉、くるよ! データの逆流バックストリームだ! ――3、2、1……再起動りぶーと!』

 ――ドォォォォン!!

 少尉の口から、虹色の光が溢れ出した。次の瞬間、広間の空間にぼんやりと「未来の光景」が映し出される。そこには……。

「……あれは、私? いえ、私によく似た、おかしな格好をした女性が……」

 映像の中にいたのは、2026年の秋葉原で、エプロン姿で**「大正ロマン風パン屋」**を営む一人の女性だった。彼女の手には、結月のものと同じ紋章が入ったトングが握られていた。

『あーっ! あれ、私の前の持ち主だよ! お嬢様、あの人が2026年にアイリスを開発……というか、組み立てたんだ!』

「……驚きましたわ。未来の私は、パンを焼いているのですか?」

「お嬢様……。映像の中の貴女(らしき人物)が、今、こちらに向かって何か言っていますぞ!」

 少尉が必死に耳を澄ませる。未来の女性は、カメラに向かって(あるいは時空を超えて)こう叫んだ。

『――あー、マイクテスト。100年前の私、聞こえる? 「イースト菌の配合、あと3グラム減らした方がもっとふわふわになるよ!」 以上!』

 プツン、と映像が途切れた。

 静まり返る広間。少尉はネジを口から吐き出し、呆然と呟いた。

「……パンの、配合……。時空を超えてまで伝えることが、それですか……」

「……ふむ。3グラム、ですか。……アイリス、すぐにメモを取りなさい。これは歴史を変える重大な知見ですわ」

『了解、お嬢様! 2026年からの「神の託宣パンのレシピ」、記録完了!』

 お嬢様とAIは、世紀の発見をしたかのように握手を交わした。

 少尉だけが、「私は一体、何のために雷に打たれたり、ネジを噛んだりしているのだ……」と、夜空を見上げて遠い目をするのであった。

第十七話をお読みいただきありがとうございます。

 未来の自分からのアドバイスが「パンの配合」だったことに、一切の疑問を抱かず心酔する結月。彼女にとって技術とは、それがパンであれ兵器であれ、等しく愛でるべきものなのです。

 さて、未来の自分との通信に成功(?)したことで、結月の野心はさらに加速します。

 「未来でパンを売っているなら、今のうちに『九条院印のパン』を帝都中に広めれば、資産が無限に増えるのでは?」

 次回、九条院家がパン業界に殴り込み!?

 名付けて「全自動・移動式製パン戦車。あるいは銀座大行列の悲劇」。

 また次回もお会いしましょう!

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