第十六話:不落の要塞。あるいは全自動・迎撃庭園(たわーでぃふぇんす)の罠
第十六話は、お嬢様の庭が「タワーディフェンス(防衛ゲーム)」と化す迎撃回です。
未来の「掃除用ブラシ」や「中毒性のある楽曲」が、大正の刺客たちを翻弄します。
最終的に「人間磁石」となった少尉が、敵全員を物理的に吸い付けて一網打尽にするという、力技の解決策が見どころです。
月明かりが雲に隠れた午前二時。
九条院家の広大な庭園に、カチカチと金属が触れ合う不気味な音が響いていた。
『鉄歯会』の精鋭部隊――蒸気駆動の強化外骨格を装着した「鉄の刺客」たちが、生け垣を切り裂いて侵入を開始したのだ。
「……ふむ。赤外線センサーによれば、侵入者は計十二名。少尉、配置についてくださいませ」
離れの工房の屋根の上。結月はナイトビジョンならぬ、アイリス特製の「未来の熱感知フィルター」を装着した眼鏡を光らせ、冷静に指示を出した。
「お嬢様! 配置も何も、私は今、庭の真ん中で『巨大な案山子』のふりをさせられているのですが! これに何の意味が!」
真壁少尉は、全身に金色の鈴と電飾を巻き付けられ、台座の上に直立不動で立たされていた。
『少尉、動かないで! 君は今、敵を引きつける「デコイ(おとり)」兼「迎撃システムのアンテナ」なんだから。あ、敵が一人、少尉の足元に来たよ! ――お嬢様、第一トラップ、起動!』
「了解ですわ。――ポチッとな」
結月がスイッチを押した瞬間、少尉の足元の地面が左右に割れた。
そこから飛び出したのは、高圧蒸気で回転する「全自動・高速回転お掃除ブラシ(特大)」であった。
「ぎゃあああ! 足が、足が猛烈な勢いで磨かれるぅぅ!」
刺客の一人が、回転ブラシのあまりの摩擦熱とくすぐったさに悶絶し、池へと転げ落ちた。
「……計算通りですわ。次は第二段階、音響兵器による精神攻撃を開始します」
『オッケー! 2026年で最も中毒性が高いと言われた「10時間耐久・謎のダンスミュージック」を、最大音量で放出するね!』
庭中の灯籠に隠された拡声器から、突如として「ズンチャ、ズンチャ」という謎の重低音と、高音の電子音が爆音で流れ始めた。
大正時代の人間にとって、それは音楽ではなく「宇宙からの呪文」に等しい。
「な、何だこの音は……! 頭が、頭が勝手に揺れるぅぅ!」
「身体が……! 身体がリズムを刻んでしまう……! 止まれ、私の蒸気義手よぉ!」
刺客たちは、アイリスが選曲した「脳を溶かすメロディ」の前に、戦意を喪失してその場で踊り狂い始めた。
「少尉、仕上げですわ。貴方の軍服に仕込んだ『超電磁・吸着コイル』を最大出力に!」
「承知した! ぬうぅぅりゃあぁぁ!!」
少尉が気合を入れた瞬間、彼の身体から強力な磁力が発生した。
庭で踊っていた刺客たちの「鉄製義手」や「蒸気ボイラー」が、磁石に吸い寄せられる砂鉄のごとく、少尉という名の巨大な磁石に向かって一斉に飛来した。
――ガシャン! ドガン! メキメキッ!
「重い! 重すぎる! お嬢様、刺客たちが、刺客たちが私に張り付いて、団子状態にぃぃ!」
少尉を中心に、鉄のパーツを纏った刺客たちが折り重なり、庭の真ん中に巨大な「鉄の塊(刺客詰め合わせ)」が完成した。
「……素晴らしいわ。これぞ、九条院式・自動ゴミ収集システムの完成形ですわね」
『お嬢様、少尉が潰れそうだよ! 「アイ・アム・アイアンマン!」とか叫んでるけど、たぶん限界だよこれ!』
結月は、鉄の塊の中で白目を剥いている少尉を無視し、捕らえた刺客たちの「未来のガラクタ流用パーツ」を早く分解したくてたまらない様子で、夜の庭へと駆け下りていくのであった。
第十六話をお読みいただきありがとうございます。
刺客を「ゴミ」と呼び、少尉を「ゴミ箱」として使うお嬢様。そのマッドぶりは、もはや敵組織よりも恐ろしい域に達しています。
さて、捕らえた刺客たちの義手を解析した結月は、ある衝撃の事実に気づきます。
「このネジ……私がアイリスの予備パーツとして作ったものと同じだわ」。
なぜ、敵が「自分の作ったパーツ」を持っているのか?
次回、九条院家の過去と未来が交差する新展開!
名付けて「失われたネジの記憶。あるいはタイムスリップのパラドックス」。
また次回もお会いしましょう!




