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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第2章:再会編

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109話 再会

ロジカの剣がレンの首を刈り取ろうとしたその刹那、ショウの杖から迸ったのは雷光だった。


「ライトニングボルトッ!!」


轟音と共に放たれた閃光が、ロジカの剣の軌道を強引に弾き飛ばす。不意を突かれたロジカは、優雅な足取りで数メートル後ろへと飛び、レンとの距離を確保した。

ショウはすかさず駆け寄り、レンの前に立ちはだかる。


「助けに来たぜ、レンッ!」


「おまえ……だれだ……? ま、まさか……ショウか……?」


「やっと会えたな……!」


「な、なんでお前がここに……てか、お前、その格好……」


レンは泥と血に汚れながらも、信じられないものを見る目でショウを見上げた。しかし、感傷に浸る時間は一秒たりとも残されていなかった。


「……誰だお前は? そいつの仲間か。まあいい、殺して二人とも標本サンプル行きだ」


ロジカは冷淡に告げると、手にしたレイピアのような細剣を正眼に構えた。

ショウが愛杖『グラウンドエッジ』を構え、その魔力を直視した瞬間、全身が総毛立った。


(こいつ……っ。向き合うと、より冷たく重たい戦気と魔力が肌を突き刺してくる……!)


この世界では、剣士と魔法使いの道は、魔力と戦気のどちらに偏っているかで決定される。だが、目の前の男は違った。魔力も戦気も、どちらもが規格外の高さで融合している。


「倒れている人間、お前がここにいるということは、この塔にソフィア・アルカディアの遺産の一つ『予言の石』があるんだな。……言わなくてもいい。すべて切り裂いて中身を抉り出せば見つかるはずだ」


ロジカが剣先を向ける。その所作一つひとつに、一切の無駄がない。


「ショウ、逃げろ……っ。俺でも敵わなかったんだ……お前じゃ、無理だ……」


「レン、再会できたのに一緒にまたお陀仏なんて勘弁だろ。俺が、なんとかしてやるッ!」


「おしゃべりは済んだか? ……死ね」


冷気と共にロジカが踏み込む。その速度は目にも止まらぬ速さだ。

ショウは即座に無数の火矢を放つ。


「ファイヤーアローッ!」


しかし、ロジカは迫り来る火矢の弾幕の中へ、迷うことなく飛び込んだ。


スバパババーンッ!


正確無比な剣捌きで、すべての火矢を斬り裂き、弾き飛ばす。その鋭い剣先が、ショウの喉元へと一直線に突き刺さる。


「ショウ、危ないッ!」


ロロがバックから飛び出し、小さな手を広げると、そこから無数の木の根が蛇のように飛び出した。


ズルルルルッ!!


木の根がロジカの剣を力任せに押し返す。


「なんだ、その生き物は……」


ロジカが初めてわずかに眉をひそめた。だが、追撃は止まらない。ロジカは距離を取り、剣を空中で鋭く振るった。


ギシンギシンギシンッ!


床から突き出た巨大な氷の柱が、地を這うようにショウへと殺到する。


「――なっ、氷だと……!?」


ショウは咄嗟に跳躍しながら、脳裏で高速に情報を整理した。

この世界の魔法体系は、基本的に火・水・風・土・雷の『五大属性』で構成されているはずだ。エリシオンのクレア教授が氷の魔法を使えたのは、彼女が『氷華神レイラ』から授けられた特別な力であったからだ。


(魔族は生まれつき氷も扱えるほど特別なのか? それとも……)


未知の能力への困惑は、一瞬の隙を生みかねない。しかし、氷の柱は容赦なくショウの足元を凍らせようと迫っていた。


「なら、これで相殺するッ! バーンフレアッ!!」


ショウが放った灼熱の火球が氷の柱と正面から激突し、凄まじい轟音とともに水蒸気が部屋を覆い尽くした。


(くっ...凄まじい魔力だ!)


白煙が晴れる中、ショウは冷徹な魔族の気配を追い、杖を握り直した。ロジカは霧の向こうで、無表情のまま静かに剣を構え直している。その青い瞳が、獲物を値踏みするようにショウを射抜いた。


「貴様……なかなかの魔力をしているな。ただの魔法使いではないようだ。何者だ?」


ショウはグラウンドエッジを握りしめ、冷徹な敵に視線を合わせたまま問い返す。


「……答えたら、見逃してくれるんですか?」


「残念ながら、それはできない」


ロジカの返答は即座だった。迷いも慈悲もない、あまりに事務的な宣告だ。


「この研究所の存在を知られた以上、ここから生きて返すわけにはいかない。貴様らには、最高の実験材料として機能してもらう」


(交渉決裂か……。それに、今の短い剣戟で痛いほど分かった。こいつはレテ島のナレッジ以上だ。今の俺たちじゃ、真正面からの力押しでは勝てない……)


ショウが内心で危機感を募らせていると、足元で血を流していたレンが、震える体を無理やり起こして叫んだ。


「ショウッ!! お前、何を勝手に交渉なんて……!」


レンは荒い息を吐きながら、血の混じった唇で笑った。


「あの石があれば、未来が見える……。お前やサクラと再会できる未来が見えるかもしれないと思って……ずっとそれを追っていたんだ。それに.....元の世界へ戻る手がかりもあるはずって.......」


「ふん……残念ながらお前らは、ここで死に予言の石もあの人も物となる。」


ロジカが踏み込む。その重圧が、部屋の空気を軋ませる。


「くっ……!」


ショウが奥歯を噛み締めたその時、背後で力強く地面を蹴る音が響いた。


「おい、ショウ……。相手もそう言ってるんだ、やるしかねーぞ!」


見ると、レンが満身創痍の体を引き摺りながら、剣を構えて立ち上がっていた。その瞳には、諦めではなく、再び宿った闘志の火が揺らめいている。


「……おいレン、その傷で無茶しやがって!」


「お前にだけ遅れを取るような真似は、しねーよ!」


「いつだって俺はお前より先にいるんだぜ!」


レンの迷いのない背中を見て、ショウの口元が自然と緩んだ。

再会して早々、地獄のような状況。だが、これほど心強いことはない。


「……そうかよ。じゃあ、この世界で初の共闘といこうぜ!」


「ああ!」


2人は拳をぶつけ合い、ショウは杖を、レンは折れかけた剣を構える。


「死ぬ覚悟は決まったようだな。研究所を荒らした罪は重いぞ。大魔族『混血のベサリズ』の配下、血霜のロジカ。貴様らを葬ってやる」


ロジカの冷酷な宣告が響くと同時に、空気が凍りついた。


「来るぞ、ショウ!」


「ああッ!」


レンが前に躍り出ると同時に、ロジカが細剣を軽く振るった。


「セクト・ニウェル」


その一振りから放たれたのは、目にも止まらぬ鋭さを持つ無数の氷の刃だ。レンは咆哮を上げ、壊れかけの剣でそれらを迎え撃つ。


ズババババンッ!!


火花と氷の破片が飛び散る中、ショウは追撃を仕掛ける。


「ブラストレイヴッ!!」


広範囲を切り裂く風の嵐を放つが、ロジカは霧の中を蝶のように舞いながら、剣先でその風の奔流を霧散させた。


「遅い」


ズバーンッ!と風を切る音と共に、ロジカが懐に潜り込む。


「死ね」


「はああっ!」


レンが間一髪でその斬撃を受け止める。激突の衝撃で床がひび割れ、二人を飲み込むように粉塵が舞った。


「これで終わりだ――グランドスパイクッ!」


ショウが地面に杖を叩きつけると、ロジカの足元から鋭利な岩の刃が突き出た。だが、ロジカは一瞬の迷いもなく空中で身を翻し、それを紙一重で回避する。

その着地と同時に、ロジカの細剣がしなった。


「――っ!」


狙いはショウを庇おうとしたレンだった。凄まじい衝撃と共にレンが壁へと吹き飛ぶ。


「がっ……!」


シューーーーン……ドォーーーン!!


爆音を立てて壁に埋まるレン。その隙を一瞬も見逃さず、ロジカは瞬時にショウの目の前へと現れた。


「や、やばい……ッ! ロックウォール!」


ショウが咄嗟に岩壁を築くが、ロジカはそれを嘲笑うかのように、まるで紙を切るように岩を両断した。


「ぐわあああーーーっ!!」


腹部に鋭い痛みが走る。ショウは激しい衝撃で吹き飛び、床を転がった。

腹部の傷からは鮮血が噴き出し、しかもその周辺は瞬く間に凍りついていた。冷気が傷口から内側へと侵食し、魔力の循環を阻害する。


「シ、ショウ……っ、大丈夫……?」


ロロの震える声が聞こえるが、返事をする余裕すらない。

ロジカは冷淡な瞳で、地面に這いつくばるショウを見下ろした。


「貴重な実験材料だ。血は無駄にできん」


視界が揺れる。レンは意識が遠のき、自分もまた指先から感覚がなくなっていく。


(まじで……やばい……。勝てる気がしねえ……)


このままでは、ここで二人とも標本として処理される。死の気配が、冷酷な霜となってショウの心臓をじわじわと締め上げていた。

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