表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第2章:再会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/112

102話 空での決着

焦土と化した窪地に、青白い怪光が爆ぜ続けていた

ショウの全魔力を注ぎ込んだ「ライトニングボルト」は、グラウンド・エッジの先端で制御を失う寸前のエネルギー体となり、バチバチと不気味な稲妻の帯を周囲に放っている。杖を握るショウの手は、あふれ出る魔力の熱で皮が焼け、白煙を上げていた。


(みんなが稼いでくれた時間だ……無駄にはしない。絶対に……外さない!)


ショウは激痛に耐え、隻眼の赤龍へと杖を向けた。

奴は、先ほどの極大魔法「焦土の審判」で仲間たちを蹂躙したあと、天からショウを睨みつけていた。ショウの手元にある雷光が自分を殺しうる力だと本能で察したのか、その隻眼には、これまでにない警戒の色が浮かんでいる。


「ギャォォォォォォォンッ!!!」


赤龍は咆哮を上げ、地上へ向かって急降下した。だが、真っ直ぐには突っ込んでこない。奴は爪で大地を裂き、巨大な岩塊をショウへと蹴り飛ばしながら、左右に激しく蛇行して接近してきた。


「くっ……!」


ショウは、迫り来る岩塊を紙一重でかわす。


「ドゴォーン! ドゴォーン!!」


岩が背後の崖に激突し、凄まじい土煙が舞い上がった。


(あいつ……この魔法を警戒している! 知性が高い……!)


砂埃が視界を遮る。隻眼の龍は、その霧を利用し、死角からショウを仕留めようと、さらに機動力を上げた。

どこだ……? 上か、右か、それとも――。

その時、背後から圧倒的な「圧」を感じた。


(しまった……後ろッ!?)


ショウが振り返った瞬間。

視界の全てが、赤龍の巨大なあぎとによって塞がれた。

奴は砂埃に紛れ、音もなくショウの背後に回り込み、距離を縮めていたのだ。


「ガァァァァァァァンッ!!!」


ショウは喰われそうになった瞬間、機転を利かせ、グラウンド・エッジを横にして龍の口内にねじ込んだ。

龍の強靭な顎が、杖を噛み砕こうと閉じる。


「ギシギシギシギシギシッ!!!」


グラウンド・エッジが悲鳴を上げた。ショウは両手で杖を支え、龍の牙が体に食い込むのを死に物狂いで防ぐ。

だが、奴はショウを咥えたまま、強引に天へと羽ばたいた。


凄まじいG(重力)がショウを襲う。彼は杖を噛ませたまま、龍の口から振り落とされぬよう、必死に杖にしがみついた。

赤龍は、さらに上へ、上へと、勢いよく上昇していく。

天を切り、風を切り、雲を突き抜ける垂直上昇。


「喰われて……たまるか、大トカゲ野郎ォォッ!!!」


ショウの視界からは、もう地上が見えないほど高高度に達していた。酸素が薄く、冷たい風が牙のように肌を切り裂く。

ギシギシと、杖が限界を告げる音が、ショウの心臓の音よりも大きく響く。


(……くっ、落ちたら即死。でも、こいつに喰われてもおしまいかよ。どっちみち死ぬなら、お前を倒してからだ!!)


ショウは覚悟を決めた。彼は杖を支える両手のうち、左手を強引に離した。片手で龍の顎を支える。重圧が一気に増し、右腕の骨がきしみ始める。


ショウは空いた左手を、龍の額へと向けた。狙う場所は、さっきガルドが「十字真空斬」を放ち、鱗を剥がして傷をつけた、あの眉間。


「――ウォーターランスッ!!!!!」


至近距離。限界まで魔力を込めた水の槍が、赤龍の剥き出しになった傷口へと、真正面から突き刺さった。


「ズバァァァァァァンッ!!!!!」


「ギャァァァァァァァァァァァァーーーーーーンッ!!!!!」


脳を貫かれたような激痛に、赤龍は悲鳴のような咆哮を上げ、激しく首を振った。

その衝撃で、ショウは龍の口から、弾き飛ばされた。

ようやく、死の顎から免れることができた。


だが、そこは天空。

ショウは、重力に従って、逆さまに墜落し始めた。

そして、隻眼の龍は、ショウを逃がすまいと、上空から急降下してきた。


「ギャーーンッ!!!」


血走った隻眼でショウを捉え、その爪で、落下する彼を切り裂こうと迫る。

落下するショウ。上から迫る紅蓮の暴君。

死のカウントダウンが、始まる。


(……これで、俺もお前も、終わりだ)


ショウは、落下しながら、仰向けに身を翻した。

彼の視線の先には、自分を殺そうと迫り来る、隻眼の赤龍。

そして、ショウの手元には、エマたちが命を懸けて守り抜いた、最大出力を超えた「青白い雷光」。


(……みんな。……ありがとう)


ショウは、グラウンド・エッジを、迫り来る龍の胸元へと向けた。

そして、全ての魔力を、解放した。


「――ライトニングボルトォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」


その稲妻は、一閃の青白い光の帯となって、天空を貫いた。

ショウの手元から放たれた最強の雷撃は、急降下してくる赤龍の胸元へと、寸分の狂いもなく着弾した。


「――ドドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!」


凄まじい雷鳴。

それは、奴の硬い鱗を砕き、肉を焼き、骨を貫通し、その背中へと風穴を開けた。

龍の体内に凝縮された雷撃が、その生命力を、根こそぎ焼き尽くしていく。


「ギャァァァァァァァァァァァァーーーーーーンンッ!!!!!」


赤龍は、断末魔の咆哮を上げ、その隻眼から、光が消えた。

奴は力を失い、その巨躯は、落下するショウを追い越して、地面へと向かって墜落していった。


(……た、倒した)


ショウは、魔力を使い果たし、杖から手を離した。

体は限界を超え、指一本動かす力もない。視界が霞んでいく。

自分を追い越して落ちていく、動かなくなった赤龍の巨躯を見つめながら、ショウは、安堵と共に、静かに目を閉じた。


(……でも、俺も落ちて、死ぬな。……まだまだ、地面までは距離があるけれど、もう、どうしようもないか……)


天空から焦土へと、孤独に墜落していくショウ。

勝利の余韻と、死の予感が、彼を優しく包み込んでいた。

天空から、死の加速がショウを襲っていた。

空気が耳元で鋭い悲鳴を上げ、視界の中の地表が、まるで自分を飲み込もうとする巨大な口のように迫ってくる。


(あーあ……ここまで上手くやってきたのにな。レンの居場所、もうすぐ聞けると思ったのに)


死の予感は、不思議と恐怖よりも脱力感を運んできた。


(また俺は死ぬのか。……てか、前世でも死んだのか? まあ、どうでもいいか……)


諦めが脳裏を支配し、意識が遠のきかけたその時、指先がローブのポケットの中にある「なにか」に触れた。


(ん……?)


手繰り寄せると、それは一枚の「葉」だった。

思い出がフラッシュバックする。ガイスト大陸へ渡る際、エーテルフォレストで救ったコロンボ族のロロから貰った、呼び笛の葉。


(……藁にもすがる思いってやつだな)


ショウは震える手でそれを口元に持ち運び、限界まで息を吹き込んだ。


「ピィィィィィィィィィィィン!!!」


澄んだ高音が空気を震わせた瞬間。空中に、音もなく一つの歪みが生まれた。


「ポン!」


小気味良い音と共に、それは現れた。コロンコロンと愛嬌のあるどんぐりのお面を揺らし、宙に浮く小さき影。


「あ、ヴェンクスくん……って、おおおおおいいいいい!! なんで君は空の上にいるんだい!?」


お面の下でロロが目を丸くし、空中に浮かんだまま慌てふためく。


「おちてるー!!!! なんていうところで呼んでるんだい君は!!」


「ヴェンクスじゃない、ショウだ! そんなことはどうでもいい、今はそれどころじゃないんだ! ロロ、なんとかならないか!?」


ショウの悲痛な叫びに、ロロは小さなカバンから、まるで獲物でも取り出すかのように巨大な葉を引っ張り出した。


「わわわわわわ! なんとかならないかって、君ねぇ……! これならどうだ!!」


ロロが葉を空へ放り投げた。

「バサァッ!!」と音を立てて、その葉は瞬時に数倍にまで膨れ上がり、まるでパラシュートのように風を孕んだ。


「掴まるんだ!!」


ショウは咄嗟にその葉の両端を掴んだ。

急激にブレーキがかかり、落下速度がガクンと鈍る。ショウの体が宙に浮き、風の唸りが収まった。


「はぁっ……はぁ……助かった。マジで死ぬところだった……ありがとう、ロロ!」


「ふん、僕だって巻き添えを食らうところだったよ! 空の上で呼ばれるなんて思ってもみなかったんだからねぇ。ヴェンクスくん、何をしてたんだい?」


「ショウだって! ……ちょっとね、いろいろあって。地上に降りたら説明するよ」


ショウはロロと共に、ゆっくりと、しかし確実に大地へと向かっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ