第11話 <帝国の状況1>
今回と次回は帝国側のお話です。
よろしくお願いします
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<side:アナスタシオ帝国陸軍大将ニコライ>
帝都から車で四日の距離にある帝国と王国との国境の位置に当たる町の奥にある森で愛する息子と娘に幼い頃から見守ってきた親友の娘を託して別れを告げて、アリバイ工作の為に他の隊員と合流してモンスターの間引きに加わった。
元々この森から先にある無法地帯のモンスターを間引きすることは、我々の部隊が数ヶ月に一度行っているので、町の住人もいつもの事だと捉え、部隊員数人がいなくなっていても分からないだろう。
今回はこの間引き討伐をした後に緊急事態にならなければ帝国西側にあるウーラサス山脈の麓にあるヴィネスカル湖の西側の陸軍施設で数ヶ月 訓練を行うことになっているから、定期連絡を上手く誤魔化せれば陸軍省所属で近接攻撃部隊員の息子イヴァン、魔法部隊所属の娘ナディア、同じく魔法部隊所属で皇族には[魔法兵士]と呼ばれている亡き親友、元帝国副首相ラーザリ・エピファーノ・イグナチェフの娘セレーナがいなくなった事は何ヶ月かは皇族達にバレずにやり過ごせるだろう。
この国では、5歳になると魔力測定を行い、高い魔力を持った子供が現れると国に報告する義務が発生する。
だいたいこのシステムがおかしい。
他の国では冒険者登録が出来て体力も付きつつ、ある程度 自分の事は自分で考え行動する事ができる様になる十三歳になってから初めて魔力測定をし、そこから魔力の使い方や魔力コントロール、属性などの種類を学ぶのに余りにも幼い頃から小さな身体に負担を掛けている。
ラーザリは娘の魔力が高いと分かり皇族の魔の手から必死に隠し守ってきたが、結局は見つかって奪われてしまった。
*○*○*
十二年程前
木枯らしが吹き冬の到来が近づき始めたころ、
「ニコライ、久しぶりに夜 飲まないか?」
「よし。いつものとこに行くか?」
「いや、出来たらウチに来てほしい。」
「分かった。」
そんな会話を交わした仕事上がりの夜、ラーザリの家を訪ね、食前酒で乾杯をして夕食をご馳走になる。
食事の間は、互いの仕事の近況や子供の可愛さの話をし楽しい時間を過ごした。
食器が下げられて食後のドリンクが出されたころ、
「ニコライ、聞いてほしい」
「何だ」
「先日、娘セレーナの魔力測定をしてきた。」
「おう、どうだったんだ?」
「SSSの判定後、魔力測定不可能。」
「は?」
真剣な面持ちで頷くラーザリを見て、嘘や冗談を言っていない事は伝わった。
「測定前から兆候はあった。信用できる場所での測定だから皇族にも基準値の範囲の数値で報告している。でも、万が一、皇族に知られて俺達 家族に何かあったらあの子を、セレーナを守ってくれ。」
それ以来、セレーナの秘密が皇族に知られないよう必死に隠していたが、結局は知られてしまい、セレーナは皇族に捕らわれ、ラーザリと奥方、協力者のオレは暗く冷たい地下牢へ入れられた。
食事とも思えぬ少量の残飯を与えられ体力が衰弱していく日々を過ごしながら、ラーザリは声に出すと誰に聞かれるか分かったものじゃ無いので口パクでオレに伝えてきた。
「ニコライ、皇族は捕らえたセレーナに何をしでかすか分からない。我らでは想像も付かない様なこともするだろう。
もしも精霊様のお力をお借りする場合が出て来てしまった場合、帝国 北東の森もしくは北大陸 南西の山脈に眷属様がお見えになるだろう。どういった姿をされているか分からないが眷属様を探してくれないか?
帝国内や北大陸で見つからなかったら最終手段として、セニート王国の王宮には眷属様が滞在されていると聞いた事がある。俺と妻アウロラは反逆者と見做され恐らくこのまま消されるだろう。
セレーナを頼む。」
読唇術で読み取れた内容に頷くと、窶れて頬が落ち窪んだ姿の親友は愛する娘の気掛かりと自分と妻の行く末を思い力のない顔で見つめ返して来た。
陽の光はもちろん電灯の光すらほぼ無い地下牢で過ごしていたある日、ラーザリと奥方のアウロラ・イリイチ・イグナチェフ婦人が連れ出されオレだけが地下に残されたその日、
後に聞いた話では、少女の前で彼女の両親の処刑が行われた後、少女セレーナに[偽りの腕輪]が付けられ更に無理矢理 皇族籍に入れられたとのことだ。
以来、皇族となってしまった少女は5歳という幼さで両親を奪われて、他の親族は国外追放。
本人は枷を付けられ自我まで奪われて小さな身体を酷使して体力作りや剣技と魔法の訓練の日々。
親友も奥方も幼い子供さえも誰一人として助けられず冷たい牢獄で過ごしている間に帝国陸軍大将という民を守るためにいるはずの自分が余りにも無力だと悟り自決も考えたが、牢獄から出されたその日、自分の意思とは関係無く体力が続く限り、ただスイッチを入れて命令通り動くロボットのように厳しい訓練の日々を過ごす幼い彼女の姿を見て、彼女を救い出すまでは死ねないと思い止まり今に至る。
*○*○*
あれから12年の時が流れた。
幼い少女は美しく成長したが、腕輪の影響で表情が無くただ皇族に命令されるがままに日々を過ごしている。
[偽りの腕輪]とはよく出来ていて、腕輪を嵌めた者は表情も感情も思考回路さえも働かなくなり、まさにロボットの様に命令されたことに従うようになる。
それでも人間なので身体の成長もするし、腹を空かせれば食事も取るし睡眠も取る。
ただそのやり方を忘れるので、そういった生活面では誰かが側で補助をしないと食事も着替えも排泄さえも自分で出来なくなる。
なので、その補助をする役目にオレは敢えて自分の娘にやらせた。
幸い娘のナディアは少女と同じ年で魔力も基準値より高かった。
3才年上の息子イヴァンも幼い頃から体付きがしっかりしていて体力もあったから訓練に参加させて兵士に育てた。
国の規程もあるとはいえ、子供の将来を選択肢も与えず兵士や魔法師にさせてしまったオレは悪い父親なのだろう。
皇族に気づかれぬ様に仲間を増やしていき、ラーザリに聞いた様に東北の森や南西の山々で眷属様を探してみたが、やはりどんな御姿をされているのかすら分からないので出会えなかった。
ましてや皇族の目を盗み他国の王族に眷属様に会わせてほしいなどと言えるはずもなく時間だけが過ぎてしまった。
何処の国にも属さない無法地帯。
深い森と険しい山々。
厳しい管理で規制線を張っているから盗賊はいないだろうがモンスターの巣窟を若い3人だけで突破出来るだろうか。突破 出来たとして王国民は帝国から来た彼等を保護してくれるだろうか。
3人に、GPS機能が付いた電子機器を持っていては場所が直ぐに特定されるので、そういったのは持たせていない。
荷物も不思議鞄の最小容量を1人一つなので限りがある。他はともかく食料は山や森の恵みの恩恵に預かるか倒したモンスターを解体して食料確保するしか無いだろう。
一通りのサバイバル技術は教えたし、並のモンスターには負けない体力と戦術も覚えさせた。それでも心配は心配だ。
気掛かりは尽きないが、己の欲しかない皇族を倒し帝国の平和を取り戻す為の針は、既に動き出した。打倒、皇族に向けて進むしか無いのだ。
お読みいただきありがとうございます。
ニコライは、セレーナの両親は娘の前で処刑されたと聞き、そう思っています。(実際は娘の魔法で葬られています)
不思議鞄の最小容量は2立方メートル




