白金魔巧技師シノマキ2
学生時代、私たちは悪童だったかもしれない。
かたや鑑定スキルが成長し過ぎて、好まない要素が見えた講師の言うことは全く聞かない少女。
かたや創意工夫に溢れ過ぎて、授業も聞かずにひたすら高度な魔道具弄りをしていた少年。
ふたりまとめて問題児扱い、性格は違うのに気は合い、意味のわからない行動に執念を燃やす講師にとっては大変扱いにくい学生であったろうと今なら思う。
ベテランかつ穏やか、それでいて悪戯心も待ち合わせたおじいちゃん先生のゼミに押し込まれなかったら、意欲や力の発散のさせ方を知らない困った大人になっていたことだろう。
気安く寮の部屋すら行き来する男女だったけれど不思議とカップルだと思われなかったのは、間にあった雰囲気のせいだろうか。
あとシノマキが同性愛者で、私に対して全く性的興味を持ってなかったからというのもあるな。性的指向については周囲に隠していたようだが。
在学中に鑑定の白金バッジを取得した私と同じように、彼も学生時代に魔巧技師の白金バッジを取得している。
名実ともに天才と謳われ、私たちに手を焼いていた講師たちはその手を両面焼きにした。
おじいちゃん先生は尊敬し慕っていたけれど、それ以外の講師に対して態度を改めたりはしてなかったからね。
私はそのまま貴族や王族の勧誘を退けるためギルド本部に推薦で所属し、彼は若き天才技師として王都に残った。
今でもこうやって顔を合わせる同級生は彼くらいだし、私にとっては鑑定スキルの実態を知っても態度を変えなかった貴重な友人だ。
さてうず高く積まれたこのガラクタ、もとい宝の山は、世界が今の形になる前、この地にあったと言われている滅びた国の遺跡から発掘されたものだ。
遺跡はダンジョンではないが、既に失われた技術、魔法を求めて定期的に発掘調査が行われている。
調査には主導している貴族か王族付きの鑑定員が付き添ってその場で発掘品の鑑定を行い、有用と鑑定されたものは彼らが持ち帰っているが、無用と鑑定されたものは調査した場所に残され、持て余した騎士たちはシノマキの屋敷に無用品を持ち込むのだ。
自分たちはできなくても天才であるシノマキなら有効活用するかもしれないと。
歴史に対する敬意もへったくれもない。
時を越えて残った遺物を有用かどうかで判断するのはナンセンスではなかろうか。
だがそのお陰で私はここに来るたびに、これらを再鑑定することができる。
調査に参加している鑑定員も貴族付きなら白金バッジの優秀な人だろうが、彼らの見落としを見つける能力が私には備わっている。
山を崩すようにひとつひとつ鑑定して、メモに物品の詳細を書き、仮留めの糊で貼っていく。
名も無きガラクタたちに名前を与えるようでワクワクする。
そして本当の宝は、私をもってしても詳細がわからない、正体不明品だ。
私の鑑定のレベルが足りてないのか、こちらの文明が足りてなくて対応言語が存在しないのか、作った人間すら把握してないなにかだったのか。
この世界で出会える未知は私を高揚させる。
かつて知りたがりの少女だったときの顔になっているかもしれない。
正体不明品は同様の結果だった物品を集めた専用の部屋に移動させる。
ここに来るたびに私が見た未知の集まる部屋だ。
そして部屋の中にある、かつて未知だったものを掘り出していく。
やはり私の鑑定スキルは未だに成長している。昔正体不明だったものの中に見ることができるようになったものがいくつもあった。
少し寂しさを覚えながら、それでも部屋に大量に残る未知の存在に慰められる。
私は世界の全てを見る化け物ではなく、ただの人間なのだと、未知はそれを証明してくれる。
それとは別に化け物になってでもいつか全ての正体を明かしてやるという闘志も燃やし、結局私は小さな頃から変わらぬ生き物なのだと小さく苦笑した。
元不明品の中には魔道具もあったので、見えた回路を紙に書き写す。
私は見たまま書き写すだけなのでなにがどうなっているのかはさっぱりだが、回路図だけでもシノマキは理解してなにかに転用するだろう。
回路を書き写し終わったら不明品以外は歴史学者へ引き渡されるらしい。
明らかに遺品であるものは自分の手で元の遺跡に戻してあげたい気持ちがあるが、私とシノマキのふたりでは遺跡までの道中の戦力が足りない。
自分の足で未開地域を切り開くたくましい歴史学者に任せたほうがいいだろう。
お互い夢中になると時間が飛ぶタイプなので、夕飯の支度にとりかかる頃には空は真っ暗になっていた。
周囲に夜光性の植物が何種類も植えられているので窓の外はそこまで暗くはないけれど。
この幻想的に作られた風景は彼の誘蛾灯だ。
一体何人のお弟子さんがこの風景の犠牲になったのだろう。大体知ってるけれど。
「ちゃんと合意の上だ」
「雰囲気に流されるというのは合意なのかな?」
無理強いをしているわけではないけれど。
お弟子さんの場合だと断りにくいとかあるでしょうに。
私と飲むとき彼は少々饒舌になる。
旧知の気安さと日常のストレスがそうさせるのかもしれない。
来る途中に採取したキノコと塩漬け魚のソテーを味わいつつ、ライラの葡萄酒を飲み進める。
シノマキと飲むと言ったら奥から結構上等なものを出してきて押し付けてくれたので大事に飲もう。
ライラが王都の学院に転入する際シノマキに身元引受人を頼んだので、彼女にとってシノマキは保護者でもある恩師なのだ。
「ところで前回来たときにいたお弟子さんは?」
「……女を作って、未発表の回路図を盗んで逃げた」
「あなたと距離の近い私に嫉妬して睨んでたから、相当好かれてるようだったのに」
「楽なほうへ流れたんだろう。真面目にやっていれば偽物の回路図を盗むなんて間抜けなことはしない筈なんだがな」
私に嫉妬するほどシノマキを好いていた少年と、結局は恋人を信用なんてしてなかったシノマキは、どこかでボタンを掛け違えたのだろうなと思う。
「アデリーはどうなんだ?」
「相変わらず恋すらできてないわね」
「周りは見る目がないな」
「私に見る目がありすぎるのが問題なのよ」
素敵な恋人が欲しい、愛に溢れる結婚をしたいと思っていても、恋すらしたことがないのですっかり恋愛弱者だ。
実際言い寄られたなら多少の瑕疵は目を瞑るつもりだ。だけど私に言い寄る男性の瑕疵は多少ではないんだよなあ。
「いよいよあなたとの偽装結婚が現実味を帯びてきた気がするわ」
「アデリーならいつでも嫁にきていいぞ。家族愛なら築けるだろうし、最後までできるかはわからんが女っぽさを感じないからギリギリ抱けると思う」
「いやそこは無理させる気はないけれど……高齢処女として限界が来たら一度くらいは頼むかもしれない」
流石にそれは最終手段だ。彼も私もまだ諦めてはいない。
「あー……愛が欲しいわねぇ」
「……欲しいなあ」
化け物は人間と寄り添えないとすっぱり諦めることができたら楽なのにね。




