追放大魔法使いウタロ2
これはどこの冒険者ギルドでも同じだと思うけれど、高ランクの冒険者が訪れた場合に長期滞在するようにギルド職員は促す、という動きがある。
高ランクの冒険者が長期滞在しているということは不慮の事態への対処がしやすく、またその都市や町にメリットを見出しているのではないかと周囲へ噂や評判となって伝播していく、ありがたい出来事だからだ。
そういうことなのでウタロさんを邪険にしている私は、副ギルド長から説教を受けている。
「ウタロ様が何故かアデレードを気に入っていらっしゃるからいいようなものの、そうでなければ大問題だと」
「現状、彼に滞在してもらうメリットはありませんよぉ?」
「高ランク冒険者は居るだけで価値があるんだ」
「だってそもそも不慮の事態が起きるような町でもなければ、高ランクの人がやって楽しい美味しい依頼もないですからねぇ」
今まで滞在してくれている冒険者さんたちで事足りているのだ。
副ギルド長は目先の名声に目がくらんでいるようだけど。
「それに、未だにシューの所属のままですよウタロさん。どちらかというと滞在することのデメリットのほうが浮かぶのですよねぇ」
抜けたと口で言いつつ他の街に所属したままの高ランク冒険者。
トラブルの気配しかないのは副ギルド長も多少は気付いていたのか口ごもる。
「……遠信機の使用を許可する。シュー支部へ問い合わせをしてほしい」
「わかりましたぁ」
なかなか許可が出ないからコールリング経由でシノマキに頼んでシューに問い合わせてもらおうかと思っていたけれど、大っぴらに使う魔道具じゃないしギルドの遠信機の使用許可が出て良かった。
遠信機は冒険者ギルドの支部に必ずひとつ設置されている通信魔道具だ。
他の支部への救援依頼や問い合わせを文章で送ることができる優れた魔道具だけれど、通信費用がバカ高い。
しかも返信分も送信側が払わなくてはいけない。
というわけでパネの遠信機は常時埃をかぶっている。
使い方がわからない職員ばかりだと有事のときに困りそうだけれども、パネには有事のときが存在しなかったわけだからそれでもいいのだろう。
ウタロさんがパネに滞在していることと、所属を抜けたと言っていること、未だ所属はシューのままであることをしたためて、シュー支部へ問い合わせを送る。
どれだけ長文を送っても一定料金なのはありがたいね。
返信は思いのほかすぐにきた。
そこまで忙しくない時間帯だったしすぐに確認してくれたのだろうか。
返ってきた内容は、ウタロさんはシュー所属を抜けていないし、パーティから脱退もしていない。
行き違いがあるようだから彼のパーティメンバーが直接パネに赴くとのこと。
彼らがパネ着くまでウタロさんを引き留めていてほしい、か。
やっぱり予想通りじゃない。
ただ思ったよりは面倒じゃない事情のような気がする。
なお返信内容を副ギルド長に伝えるとあからさまにがっかりしていた。
清々しいほど現金だ。
「ウタロさん、ダンジョンについて詳しいですかぁ?」
「攻略ならかなり経験が多いと思うが」
「今パネに人工ダンジョンを建設していまして、他の地域の人工ダンジョンについてどんな特色があったとか教えていただきたいのですが」
という名目で彼を引き留めることにした。
「人工ダンジョン? そんなものを現代に造ろうなんて不可能だと思うが」
「もう既にあるダンジョンも数年前に造られた人工ダンジョンですよ」
「なんだと? 試しに入ったがあれはほぼ自然発生のダンジョンのようだった。一体どうやって」
そういえば他の人工ダンジョンって遺跡型か塔型ばかりで、地中を潜っていくタイプの人工ダンジョンって見かけないな。
ということはパネの初心者向けダンジョンは正確には人工ダンジョンではないのかもしれない。
マルゼンさんとセンコさんの力作だけども。
「工事規模は? 作業員人数、日数は?」
「言える範囲だと……今あるダンジョンはふたりで、工期は半年くらいでしたねぇ」
「はあ?」
呆れた声を出しながら懇々と現代の権力者たちが人工ダンジョン造りを計画して、私財を投じ失敗していったことを並べ立てられる。
その辺りは知っているけれど、誰も成功していなかったのか。
きっと必要条件を満たしていなかったのだろうな。
突っ走るように話し続けて肩で息をしながら話し終えたウタロさんは絞り出すような声で言う。
「頼む、そのふたりと会わせてくれ……」
よし食いついた。
高ランク冒険者になるような人は未知に対する好奇心が旺盛だ。
人工ダンジョンの成功例を出せば興味を示すだろうと思っていた。
建設技術を非公開にはしていないし、そのうち周囲にも広まると思うけれど、ダンジョン建設中に誘拐されてしまうと困るので実際会わせるとなると誓約書が必要かしら。
「それは向こうに確認してみないとわかりませんねぇ。数日待っていただければ確認しますけれど」
「頼む。対価や誓約が必要ならいくらでも飲むから!」
おお太っ腹。でも多分対価はいらないかな。
ふたりのことだから会うのは渋らないと思うけれど、造るほうだけってことだからプリヴェさんの存在は隠しておくように言い含めて渡りをつけるか。
数日後、マルゼンさんたちと存分に言葉を交わしたウタロさんはご機嫌だった。
シューからの人はまだ来ていない。
「まさか全く有用ではないとされるスキルを組み合わせることで、あんな素晴らしい成果になるなんて思いもしなかった。俺もまだまだ不勉強だったな」
「まだ学問として確立していないものですから」
「まだ、ということはアデレードはいつか学問として確立させるつもりなのか?」
「そうですね。わかりやすく有用であるとされるスキルが持て囃されるのは仕方のないことですが、授かったスキルを有用無用だと人間が判断すること自体間違っていると思いますので。体系を詳らかにして、人の可能性を広げられるなら、そうしたほうが人を幸せにできると思いません?」
これはわりと本心だ。
私が見つけたスキルの組み合わせは他の場所でも使えるものが多いし、普及すれば活躍の場を増やす人もいるだろう。
いつかは論文にまとめ、発表するつもりでいる。
無用なスキルなどどこにも無く全てのスキルが有用であるとされたなら、絶望しながらパネにやってくる人も減るはずだ。
「決めた。この町は俺が骨を埋めるに値する町だ」
「普通の町ですよ」
「いいやあんたがいる。それだけで理由には充分だ」
なんだろう。鼻息が荒い。
「結婚しようアデレード。俺が必ず幸せにする」
……いやいやいや。
そうはならないでしょう。
どういう変換がおきたのよその脳内で。
「お断りします」
「どうして」
「お孫さんが成人している方の後妻に入るのはちょっと……」
そもそも恋愛感情抱いてないし。
どちらかというとお孫さんを紹介していただきたい。
みんな既婚者っぽいけれど。
「後生だ。俺と結婚してくれ!」
「なにやってるんだウタロ!」
結構な声量だったせいだろうか。
ギルドの扉を乱暴に開いて数人の冒険者が雪崩れ込んできた。
こちらを気にする職員たちの視線が痛い。
「えっ、ニジュにショウにチゴまで? 一体なんの用だ」
「なんの用だもなにも、どうして故郷に帰ってないんだよ」
「そうだよ、忙しかったし故郷に帰ってゆっくりしてきたらって送り出したのに」
重戦士の男性がニジュさんで、スカウトの女性がショウさん、女性僧侶がチゴさんか。
全員強者揃い。高ランク冒険者パーティだからリミッター強めでも勝手に流れ込んでくる情報量が多い。
「遠回しに年寄りは引退しろってことだろう?」
「違います。ただ少し休憩してもいいのではと」
つまり、里帰りを促したパーティメンバーと、引退勧告だと思って出てきたウタロさん、という構図か。
そこの認識に齟齬があるなんて思っていなかったのだろうなパーティメンバー。そりゃ直接パネにくるわけだ。
「あの……シューの街からいらした方々で間違いないですよねぇ? 私パネ支部鑑定員のアデレードと申します」
「ああ、あなたがシュー支部に知らせてくれた人ですか。感謝します」
そう言ってニジュさんは丁寧に頭を下げた。礼儀正しい。
シューの街でも人気のあるパーティなのだろう。
「とりあえず、奥の部屋でお話しされたらいかがでしょう? ほらここは人目がありますし」
可能であれば私は逃げ出したいけれど、そうも言っていられないだろう。
今できることは当事者を連れて個室に移動することだけ。
好奇に染まった数多の視線がこちらに向いたままでは、落ち着いて事情も聞けないわ。
コールリング→トランシーバー
遠信機→ファクシミリ くらいの違い




