追放大魔法使いウタロ3
さて個室に移動してニジュさんとウタロさんが侃々諤々しているところでふと気付く。
いつの間にかウタロさんに新着情報がついていた。個室への移動中だろうか?
私と年が近そうなチゴさんへ近付いて、私が見たものについての確認事項を耳打ちすると、彼女は目を見開いた。
「そうです。あー間に合いませんでしたか。でも仕方ないです」
「そのような事情なら、一刻も早く向かわせるしかないですねぇ」
全く仕方のない人だ。
「ウタロさん」
「なんだアデレード。気が変わったか?」
「ウタロさんはどうして故郷に戻るのを頑なに拒むのですか?」
「それは……あんたには関係ないだろう」
私も故郷に戻らない理由を人に問われたら、問う人から目を背けると思う。
きっと家族は表面上歓迎してくれる。
だけど余所余所しく、私を客として扱い、居心地のいい場所にはしてくれないだろう。
あの人たちにとってもう私は娘や妹ではない。
人のプライバシーを勝手に覗くバケモノだ。
でもウタロさんは違う。
帰ればきっと家族が温かく迎えてくれる。
でもそれが居心地悪いのかな。
ウタロさんが家族に対して引け目を持っているのかもしれない。
「先程の言葉を訂正します。曾孫さんがいるような方の後妻にはなりません。ごめんなさい」
「……ひ、ひまご?」
「先程生まれたみたいです。ウタロさんの家族情報が更新されていました」
「間に合わなかったか……俺たちはウタロの息子から頼まれていたんだ。初曾孫の誕生に父さんを立ち会わせてほしいって」
「真っ直ぐ帰っていれば間に合ったはずだったんだけど、ウタロが遠慮しそうだから目的を知らせずにって息子さんのお願いが裏目に出ちゃったね」
「すぐ帰ってあげてください。息子さんたちが待ってますよ」
パーティーメンバーの畳み掛けに、ウタロさんは渋い顔をする。
「今更、どの面さげて……俺はアイアの死に目に会えず、命日ですら戻らない男だ。息子たちにとっては憎々しい相手だろう?」
高ランク冒険者には多い話だ。
故郷に置いた家族を顧みずにいたくせに、いざ家族を失ってからウジウジしはじめ、残った家族とも距離を置く。
中には一言も責められていないのに、被害妄想に陥ってしまう人もいる。
ずっと前ばかり見て、気付けば後ろに誰もいなくなっている。
やり直しのきかない年であればあるほど、人を弱くする出来事らしい。
あと彼の場合は、見た目の問題もあるのかな。
妻よりも息子よりも孫よりも若々しい見た目でいる自分を、家族の中に置きたくないのかもしれない。
息子や孫が魔法使いでも彼と同じくらい才能に溢れてなければ、確実に彼より先に死ぬ。
不死ではないから必ずいつか死ぬけれど、家族の中で一番最後が自分かもしれないというのは、真正面から見たくない現実だろう。
「ウタロさんは、家族から恨まれたくらいで怖気づく人なんですか?」
「それは……」
「恨まれているかもしれない、より、恨まれてる、ってはっきりさせたほうがきっとスッキリしますよ。はっきり恨まれているなら今後帰らない理由にもなりますし」
実際私は気味悪がられているとはっきりしているので故郷に帰らない。
故郷を思うとどうしても口の中に広がる苦さを感じるけれど、はっきりしているから私は囚われずに前を見ることができている。
「それでも怖いならひとりで帰らず、パーティーメンバーと行けばいいじゃないですか。ウタロさんのために遠いパネまで来てくれた大事な仲間でしょう?」
「……そうか、手紙にはウタロひとりでなんて書かれてなかった。俺たちがついて行けば良かったのか」
ニジュさんが悔しそうに顔を歪ませた。
ひとりで行かせなくてはと思い込んでいたようだ。
「これは私たちにも非がありますね。ウタロさん、私たちも故郷に連れて行ってください。立ち合いに間に合わせられなかったことをご家族に謝りたいです」
「そうだな、これはパーティ全体の責任だ。シュウも行くだろ?」
「勿論。今までウタロがなかなか帰れなかったのだってパーティのためなんだから、恨まれるならみんな一緒に恨まれるよ」
「お前たち……」
なんというか、普段から非常に仲の良いパーティなのだと窺える。
高ランクだと仕事上の付き合いみたいな関係になりがちなパーティが多いけれど、彼らはきっとお互いを大事に思っているんだろう。
故郷に帰ったらと言われて引退勧告だと思ってしまうくらい一緒にいるのが当たり前で、離れることなんて考えられない関係を築いている。
少し羨ましい。
結局彼らはそのままウタロさんの故郷へ向かうことにしたらしい。
代わる代わる礼を言われ、落ち着いたら手紙を出すと言うウタロさんを見送って、再び仲間と同じ道を歩く後ろ姿に安堵した。
あるべき場所に落ち着いた、というのはこういう状態なのだろう。
少し寂しさも感じるけれど、大きなトラブルにならずに良かった。
ただ高ランク冒険者の求婚を断ったから副ギルド長には嫌味を言われるのだろうなあ。
パネにはまだ高ランク冒険者が似合わないからこれでいいと思ってるけれど。
今造ってるダンジョンが完成したら、この町の冒険者のレベルが大幅に上がる予定だ。
この町出身の高ランク冒険者も夢じゃない。
そのような方向で副ギルド長には諦めていただこう。
しばらく経って、シューの消印が押された封筒が私宛に届いた。
彼らは元の街に戻ったらしい。
家族は誰もウタロさんを恨んでいなかったこと。
ウタロさんの稼ぎで育ったのだから感謝していること。
亡くなった奥さんも最期までウタロさんを愛していたことを聞いたようだ。
それから頼まれて曾孫さんの名前をウタロさんがつけたらしい。
女の子だったから奥さんの名前を付けたと。
シューへ戻る際に、連れ合いを早く亡くした息子さんのひとりがウタロさんについてきて今は一緒に暮らしているそうだ。
少しぎこちないながらも、家族と過ごす幸せを味わえていると書いてある。
絵にかいたような顛末に胸が温かくなる。
物語ではないのでこれで終わり、とはならないだろうけれど。
あの仲の良いパーティにいる限り、きっとウタロさんはそこまで不幸にならないだろう。
おや、最後の便箋に追伸がある。
『いずれまた、アデレードに求婚する』
今度は……どう断りましょう。
恋愛じゃなくて知的好奇心からの求婚だとしても、相手として考えたときにそんなに悪くないのがネックなのよね。
ストック尽きました。
しばらくお待ちください。




