追放大魔法使いウタロ
「アジャスタースネーク、破損大、体内になにもなし、倒してから数日経ってますねぇ。すぐに持ち込まれていたら銀貨1枚追加できたんですがぁ」
「状態保存魔法はかけていたはずだが?」
「状態保存魔法は完璧に腐敗の進行を止めるものではなく、遅らせるものですので」
「そんなことはない。俺の状態保存魔法は完璧だからな」
今日のお客様はなかなか頑固だ。
見た目は幼い少年のようだけど……お年は棺桶の中にいてもおかしくないご老人である。
魔法使いの人は全身に魔力を流している関係なのかあまり老けず、年齢より若く見える人も多いけれど、ここまで実年齢との差が大きいのは初めてだわ。
どれが先天スキルか後天スキルかわからないほど魔法系スキルが入り乱れているので、大魔法使いと呼ばれる人なのだろう。
「このアジャスタースネークはシューの街近辺に生息していた個体で、4日前の夕方に倒されていますね。確かに腐敗はしていませんが、鮮度は落ちています」
王都からほど近い街の名前を挙げると、魔法使いは片眉を上げた。
正解を述べられたのが意外だったらしい。
『なんだこの女。田舎町の鑑定員のくせに生意気な』
おや帝国語。
『老眼でこの白金バッジが見えないんですか? 帝国語で悪態なんて失礼な』
「……お前は何者だ? 白金鑑定員がいるような町ではないだろ」
そう言いながら鑑定阻害魔法を使ったらしい。さっきまで見えていた情報がぼやけて判別できなくなったので、いつもよりリミッターの出力を下げる。
これで問題なく読めるけれど、鑑定阻害魔法のレベルもかなり高レベルのようだ。
「ただの田舎町の鑑定員ですのでお気になさらず、シュー所属のウタロさん」
つい煽ってしまったけれど、私は悪くないよね。
悪態に反応しただけだし。
まさか鑑定阻害を突き破られるとは思ってなかったのか青い顔をしているけれど、周囲から私が幼い男の子を虐めているようには見えてないわよね?
恐らく自分で採取しないと手に入らないような巨大赤竜眼石をはめ込んだ杖を持っているので、ただのお子様ではないと周囲も気付いているだろう。
杖部分も希少素材の気配がする。メイン素材は普通の黒檀だけど……世界樹の葉を粉にしたものを塗料に混ぜてるのかな?
となると原材料費だけでとんでもない金額になる。
赤竜眼石に貯め込まれてる魔力はかなりのもので、この人が魔力切れを起こしても全回復できるくらいはある。格上相手の切り札みたいなものだろう。
杖そのものの効果は増幅メインで、適性のない魔法でもアシストが入るみたい。アシストは塗料に混ざった世界樹の葉の効果か。なにか他に触媒も入っていると思うけれど混ざり合って変化しているのでよくわからない。
この魔法使いさんに対する印象は悪いが普段見ることのない珍しい装備を見られたので少し嬉しい。
シューはかなり大きい街だし、天然のダンジョンも近くにあるから素材を集めやすいのかしら。
王都とシューを結ぶ飛竜の定期便でダンジョン素材を運んでるのは知ってるけれど。
「おい」
「なんでしょう?」
「鑑定結果については納得した。今度は鮮度がいいものを持ってくるからこの辺りで狩れるものについて知りたい」
ふむ。
しばらくパネに逗留するのかな?
この人はすでに地位も名誉もあるみたいだからここに留まる理由はなさそうだけど。
「はぁい。魔法使いさんなら、地図のここからここに流れてる地脈沿いがおすすめですよぉ。遠距離から狙える的の大きいモンスターが多いので」
数日後、状態の良い琥珀狼の毛皮を持ってウタロさんが鑑定カウンターにやってきた。
結構枚数があるがどれも傷が少なくて高く売れそうだ。
「なんなんだ、あの地脈は」
などと開口一番に言われたけれど。
やはり大魔法使いともなると違和感に気付くようだ。
「なにか変なところでも?」
「実際の地脈の規模に対し、上級のモンスターが集まっていて、それらがみんな魔力に飢えて弱っていた。仕組みはわからないが人工的になにかしたんだろう?」
あら大正解。
紹介した辺りのモンスターはパネの冒険者でも討伐が問題ないように弱体化を狙っていたけれど、それが地脈由来だと気付くものなのね。
「ウタロさんは正解を開示しないと掘り返してしまいそうですねぇ。ご高察のとおり地脈は多少いじっています」
「仕組みは?」
「地脈針はご存じです?」
「ああ、地脈が集落の下に移動したときや、そもそも集落を作る場所が地脈の上にしかないときに地脈の進路を整える道具だな。だが地脈の方向を変えたり流れを変えるだけだったと思うが」
「前文明の資料から、地脈針の刺し方によって実際の地脈より大きい地脈に見せたり、地脈そのものを隠してしまう技術を見付けまして、ご紹介した場所は実際より大きな地脈だとモンスターが錯覚するように刺しています」
「それで上位モンスターを引き寄せて、魔力に飢えさせているのか……効率的だな」
この辺りの冒険者でも問題ないくらいまで弱らせているし大魔法使いには物足りなかったかもしれないわね。
人工ダンジョンが完成してたらそちらを案内していたのだけど。
「今は実証実験中、といったところか」
「そうですねぇ。効果は確認できましたのでそう遅くないタイミングで公表されると思いますよぉ」
「やはりこの町はただの田舎町ではないな。町に見せかけた実験場か?」
それは深読みしすぎ。
地脈の実験は私の独断ではなく、なにかあっても被害は少ないだろうと上から押し付けられたものだ。
ちょっとむかついたから絶対に失敗がないように指定範囲外もいじったけれど。
その辺りの事情はどうでもいいと思うので黙って微笑んでおく。
向こうも私がこれ以上漏らすことはないと見切りをつけたのか追及は諦めたようだ。
「そういえばまだあんたの名前を聞いてなかった」
「アデレードと申します」
「俺は知ってると思うがウタロだ。シューで冒険者をしていたが、今は抜けてフリーだ」
おや?
まだ彼はシューに所属していることになっている。
事務処理が済んでいないのだろうか?
いや、シューからここまでの距離と滞在期間を考えたらもうとっくに終わっているはずだ。
しかし彼が嘘を吐いている様子はない。
「ウタロさん、まだシュー所属になってますよ。手続きしてきました?」
「いや、きっとあいつらがしているはずだが」
「パーティーメンバーですか?」
「元、な」
「よくありますからねぇ、パーティー解散」
途端に彼の目が泳ぐ。
触れてはいけない部分だったかもしれない。
それでもまだシュー所属のままだし、パーティーメンバーの人も手続きしてないのでは。
なんとも不思議な話だ。
なにか行き違いがあって、彼がパーティー解散したと思い込んでいるだけではないのだろうか?




