俺とヤンデレと枢機卿8
「なに、ただのしがない会社員だった。そして死因は過労だよ。倒れてそのまま、な」
ヌイグルミを抱き、皮肉な笑みを浮かべて語る。
確かに、現代日本で過労死は問題になっていた。
「死んで会社から逃げられたと思ったら、今度は主に捕まった。転生者の取りまとめなど、他に適任者がいるだろうに」
ぶつぶつと愚痴をこぼすアルメリアの手の中で、ウサギのヌイグルミが潰れていく。
だが、彼女はすぐに力を抜いた。ヌイグルミはよれよれになっている。
「ドゥーン、お前にはジャスミンと共にわたしの手足となって動いてもらいたい。勿論、お前の身の安全はアルメリア・リラ・ロベルタの名において保証しよう」
――うわ……。
何だか、物凄く面倒なことになった。
アルメリアのいう、主とは聖教会の神だろうから、そいつが俺たちを転生させたのだろう。
転生者を集めて何がしたいのか。その目的がさっぱりわからない。
ひっかかることが多いが、きっと拒否権はない。
そもそも、ジャスミンとラウラが助けに来なければ俺は翼竜に殺されていたのだ。
「考えさせてくれ」
俺がそう答えると、アルメリアの表情が少し変わった。
読み取れるのは僅かな苛立ち。
「聖教会の聖女、ジャスミン。あの子とお前は一緒に死んだから、魂の結び付きが強いんだ。だから、ジャスミンと巡り会う前にお前の記憶が戻った」
確かに俺は、榊原茉莉花と一緒に死んだ。
でも、それを望んでいた訳じゃない。
――死にたくなんてなかった。
「何を被害者面している? 確かにお前はジャスミン……茉莉花に刺されただろうさ。それに関しては同情する」
アルメリアは穢れなき少女の瞳で俺を見据えていた。
視線は刺すように鋭く、少女らしさはない。
「しかし、お前は決して被害者じゃない。茉莉花を道連れにしたのはお前の罪であり、この世界への転生が罰なんだよ」
少女の……アルメリアの姿を借りた何者かが、そう言っている。
きっとアルメリアの言う『主』なのだろう。
「俺の罪……」
「そして、この世界で贖罪を行うこと。それがお前の魂を救う唯一の方法なんだ」
無我夢中で、悔しくて、茉莉花を突き飛ばしたあの時……思い出しただけで、刺された腹部に焼けるような痛みが蘇る。
じわりと脂汗が全身に浮かんだ。
「なに、ジャスミンと一緒にわたしの元で聖教会の業務を行ってくれさえすれば良い。人々を助けることで自分も救われるのだ。悪くはないだろう」
不敵な笑みを浮かべるアルメリア。
俺には拒否権も選択肢も、何もかもがなかった。




