第二章 王立魔導学園編 11
白い空間が、ひとつの“音”を立てた。
――ドクン。
魔法陣が波紋のように揺れる。
学園長の表情が、初めて明確に変わった。
「……共鳴強度が上昇しています」
ミシェルが即座に視線を走らせる。
「外部干渉じゃない。これは“記憶核の自発反応”だ」
リアが舌打ちする。
「意味わかんねぇけど、ヤバいのは分かる」
セレナはレインの腕を掴もうとする。
「レイン、戻ってきて!」
だが
レインの視線は動かなかった。
<銀髪の少女>
そこにいる“はずのない存在”。
その姿だけが、現実と断絶したように浮いている。
レインは小さく呟いた。
「……誰だ」
その声は、さっきよりも確かだった。
少女の瞳が揺れる。
悲しそうに。
それでも、どこか嬉しそうに。
「――また、その言葉。」
彼女は一歩だけ近づく。
白い空間なのに、足音がした気がした。
「――忘れるの、上手になったね。」
レインの胸が締め付けられる。
痛い
理由のない痛みではない。
これは“知っている痛み”だ。
学園長が低く言う。
「レイン、視線を切りなさい」
その声は命令に近い。
だがレインは動かない。
少女から目が離せない。
フィアナが震えた声を出す。
「これ……幻覚じゃないですよね?」
ミシェルが短く答える。
「違う。これは“残留記憶の具現化”だ」
リアが眉をひそめる。
「つまり、どういうことだ」
ミシェルは一瞬黙り
そして言う。
「レインの中にある“失われた記憶”が、外に出てきている」
空気が重くなる。
セレナの顔が青ざめる。
「そんなの……」
少女はさらに一歩。
レインとの距離が縮まる。
そして――
指先が触れそうになる位置で止まる。
「――ねぇ。」
少女は笑った。
泣きそうな笑顔で。
「――今度は、ちゃんと覚えててくれる?」
その瞬間
レインの頭の奥で“何か”が弾けた。
視界が白くなる。
炎。
夜。
崩れた街。
誰かの手を握っている感覚。
そして――
『生きて』
はっきりとした声。
胸の奥から、熱が込み上げる。
レインは息を詰めた。
「……っ」
膝が揺れる。
その瞬間
学園長が手を振り下ろした。
「封印」
魔法陣が一気に発光する。
空間が“切り取られる”ように収束する。
少女の輪郭が揺れる。
消えていく。
『――やっと、気づいた?』
その声だけが、最後に残った。
そして
完全に消えた。
白い空間に戻る。
ー静寂ー
レインはその場に立ち尽くしていた。
呼吸が乱れている。
胸が痛い。
なのに
名前が出てこない。
セレナが駆け寄る。
「レイン!」
肩に触れようとした瞬間。
レインは小さく言った。
「……今の」
声が震えている。
「今のやつ、知ってる」
学園長が静かに答える。
「知っている、というより」
・・・
「あなたが“失ったもの”です」
その言葉が落ちた瞬間
レインの世界が、少しだけ傾いた。




