第二章 王立魔導学園編 10
静寂が長く続いたあと、学園長が静かに歩き出した。
「行きます」
それだけだった。
命令でもなく、説明でもなく。
ただ事実の提示
レインはその背中を見ながら、ゆっくりと後を追う。
<隔離区画>
その言葉は妙に冷たく響いた。
セレナがすぐ後ろにつく。
「私も……」
リアが肩をつかむ。
「お前はまず寮行け。巻き込まれるぞ」
セレナは振り払う。
「嫌だ」
短い言葉
でも強かった。
リアは一瞬だけ黙る。
そして舌打ちした。
「……勝手にしろ」
フィアナも慌てて後を追う。
「私も行きます! なんか放っておけないです!」
ミシェルはその様子を見て、小さく息を吐いた。
「騒がしくなるな」
だが誰も止めなかった。
やがて一行は、学園の奥へと進む。
人の気配が薄れていく。
壁の魔法陣が増え、空気がわずかに重くなる。
やがて
巨大な扉の前で止まった。
黒い金属
無数の封印刻印
見るだけでわかる。
ここは“普通の場所ではない”。
学園長が手をかざす。
魔法陣が解錠される。
重い音
扉が開く。
中は――白かった。
部屋というより、巨大な無色の空間。
家具は最低限。
ただ、中央に円形の魔法陣が刻まれている。
レインはそこへ視線を向ける。
「……牢屋じゃないか」
リアが即答する。
「だな」
学園長は否定しない。
「安定化区画です」
レインは少しだけ考える。
「安定……?」
学園長は静かに説明する。
「あなたの魔力は現在、一定周期で暴走しています」
「この空間はそれを抑制するためのものです」
レインはゆっくり足を踏み入れる。
その瞬間
空間がわずかに反応した。
魔法陣が淡く光る。
レインの中の灰炎が、少しだけ落ち着くのが分かる。
「……抑えられてる」
セレナが不安そうに見つめる。
「レイン……寒くない?」
レインは首を振る。
寒さはない。
ただ
どこか“遠くなる”感覚があった。
感情が薄くなるというより、輪郭がぼやける。
その時
頭の奥で、また声がした。
『――ここは嫌い。』
はっきりとした声。
レインは思わず顔をしかめる。
「……またか」
フィアナが心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?」
レインは答えようとして、言葉に詰まる。
<大丈夫>
その基準が分からない。
すると
空間の中央にある魔法陣が、微かに明滅した。
学園長の目が鋭くなる。
「……反応?」
ミシェルが即座に分析する。
「外部干渉ではない。内部共鳴だ」
リアが眉をひそめる。
「おい、何だそれ」
学園長はレインを見る。
その瞬間
レインの視界が揺れた。
白い部屋が歪む。
魔法陣が広がる。
そして
“そこに誰かが立っていた”。
銀色の髪。
泣きそうな顔。
レインは息を呑む。
セレナでもない。
フィアナでもない。
誰か。
確かに知っているはずの誰か。
その少女は、静かに口を開いた。
「――遅いよ。」
レインの心臓が跳ねる。
「――ずっと、待ってたのに。」
その瞬間
空間全体が強く脈打った。




