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第二章 王立魔導学園編 9

笑い声は一瞬だった。

まるで、水面に落ちた雫の波紋みたいに

すぐに消える。

なのに

レインの胸の奥には、はっきりと残った。


  “知っている音”だった。


セレナが不安そうに見上げる。


「レイン……?」


その声で、現実に引き戻される。

レインはゆっくり息を吐いた。


「……大丈夫だ」


自分でも驚くほど、頼りない声だった。

だがセレナは、それでも少しだけ安心したように頷く。

その様子を見て、フィアナが小さく呟く。


「やっぱり……変ですね」


リアが振り向く。


「何がだよ」


フィアナは少し考えてから言った。


「さっきの声」


レインの動きが止まる。

フィアナは続ける。


「誰かを呼んでるみたいなのに、呼んでる“相手”がいない感じがして」


その言葉に、ミシェルの目が細くなる。


「空白の記憶に対する反応か」


学園長が静かに頷く。


「契約核が反応している可能性があります」


レインは眉をひそめる。


「契約核……?」


学園長は一瞬だけ躊躇したあと、淡々と答える。


「あなたの体内にある、“灰の竜との契約の核”です」


レインは自分の胸に手を当てる。

そこにあるのは心臓だけだ。

でも


  確かに“何か”がある気がする。


脈とは違うリズム

もう一つの鼓動。

学園長は続ける。


「契約は本来、力と代償の均衡で成立します」


「しかしあなたの場合」


そこで一拍置く。


「均衡が崩れている」


リアが眉をひそめる。


「崩れてるってのは?」


学園長はレインを見た。


「“代償が先に消えている”」


空気が止まる。

セレナが小さく息を呑む。


「それって……」


学園長は静かに続ける。


「記憶、感情、存在の連続性」


「それらが契約の“代償領域”に割り当てられていた可能性があります」


レインの胸が僅かに冷える。

つまり


  自分が失っているものは

  全部

  “力の対価”だということか。


フィアナが小さく呟く。


「じゃあ……そのままだと」


学園長は短く頷く。


「最終的には“自己同一性の崩壊”に至ります」


セレナの顔が青ざめる。


「それって……レインがレインじゃなくなるってこと?」


学園長は否定しない。

ー沈黙ー

その重さが答えだった。

レインは少しだけ視線を落とす。

怖いはずの話だ。

でも

不思議と実感が薄い。

自分が“消える”と言われても、どこか遠い。


その時

また声がした。

今度ははっきりと。


  『――違うよ。』


レインの瞳が揺れる。

声は続く。


  『――消えるんじゃない。』


  『――“戻るだけ”。』


視界の奥に、誰かの影が見えた気がした。


  銀色の髪。

  泣いている顔。

  手を伸ばしている。


  『――ねぇ。』


  『――まだ、覚えてるでしょ?』


レインは無意識に一歩踏み出す。

セレナが慌てて手を伸ばす。


「レイン!」


だがその瞬間

学園長が強く魔力を放った。

空間が固定される。

レインの身体が止まる。

銀色の影が、霧のように崩れていく。


「今のは危険です」


学園長の声が低くなる。

初めて、明確な警戒色が混じった。

レインは荒い呼吸のまま呟く。


「……見えた」


セレナが震える。


「何が……?」


レインは答えられなかった。

ただ

胸の奥だけが確信していた。


  “あれは嘘じゃない”。


そして

その記憶に触れることは、今の自分を壊すことになると。

学園長は静かに命じる。


「あなたは今日から隔離区画で生活します」


リアが顔をしかめる。


「マジかよ」


ミシェルは冷静に分析する。


「合理的だな」


セレナは即座に反応する。


「待って!」


だが

学園長は視線を変えない。


「彼は今、“記憶の境界が崩れています”」


「放置すれば、現実と記憶の区別が消えます」


その言葉に、誰も反論できなかった。

レインはゆっくりと拳を握る。

 <隔離>

 <監視>

 <排除候補>

それでも

頭の奥ではまだ、あの声が残っている。


  『――ねぇ。』


  『――まだ、ここにいるよ。』


レインは小さく呟いた。


「……お前は誰だ」


その問いは

誰にも届かず、静かに学園の中へ消えていった。

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