表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

第一章 灰の契約 2

<王都レグナス>へ到着したのは、夕暮れ時だった。


都市を大きく囲う、高く巨大な白壁

都市からまばらに、空へ伸びる尖塔

どこまでも広がる、石造りの街並み


リュンベル村しか知らなかったレインにとって、それは初めて見る別世界だった。

広い街路には露店が並び、魔導灯が橙色に輝いている。


至る所から聞こえる人々の喧騒

笑い声

美味しそうな焼いた肉の匂い


活気に満ち、生きている街の空気だった。


「すごい……」


隣でセレナが目を輝かせる。

同じ感想が声に出そうになったレインは小さく頷いた。

だが同時に、胸の奥に奇妙な疎外感もあった。


  ここには、自分の知らない世界がある。

  そして、自分はもう“普通”ではない。


「ほら、ぼーっとしてると置いていくよ?」


「……ああ」


2人は人混みを抜け、中央区へ向かう。

目的地は<王都冒険者ギルド本部>

王国最大の冒険者組織であり、深淵門討伐を専門とする者たちの拠点だった。

広い都市の建物群から、やがて巨大な建物が見えてくる。


5階建ての

黒鉄と白石で造られた重厚な建築

入口上部には、交差する剣と竜の紋章


「ここが……」


レインが呟いた瞬間――

中から大柄な男が吹き飛んできた。


「ぐはぁっ!?」


レインの目の前の地面に、勢いよく転がる。

周囲の冒険者たちは見慣れた様子で避けていた。

<<バンッ>>――続いて扉が乱暴に開く。


「次は誰だ!!」


怒鳴り声だ。

そして現れたのは、赤髪の少女だった。


スラっとした長身に金属の胸当てが輝く。

ポニーテールの髪が腰まで伸ている。

鍛え抜かれた腕に、引き締まった身体

腰には大剣が下がっていた。


鋭い金色の瞳が周囲を睨みつけている。


「弱いやつばっかりか、このギルドは!」


冒険者たちが一斉に顔をしかめた。


「またリアかよ……」


「新人潰しやめろって……」


「王国騎士団の天才様は怖ぇな……」


<リア>

その名に、レインは僅かに反応する。

王都へ来る途中、何度も耳にした。

若くして王国騎士団に所属する天才剣士。

魔物討伐数は既に一流冒険者級。

だが性格に難あり、と。


リアは鼻を鳴らしながら周囲を見渡し――レインと目が合った。

数秒――視線が止まる。


「……お前」


見開いた目と共に、低い声。

レインは無意識に身構えた。

リアの瞳が細められる。


「妙な魔力をしてるな」


その言葉に、空気が張り詰める。

レインの背中を冷たい汗が伝った。


  見抜かれた!


そんな感覚があった。


  魔物と間違えられるか、それとも・・・


だが次の瞬間――


「まぁいい」


リアは興味を失ったように視線を外す。


「死にたくなければ深淵門には近づくな。以上だ」


それだけ言い残し、少女は去っていった。

残された空気が一気に緩む。

レインたちは、騒音が去ったギルドの中に足を踏み入れた。


「……なんだったんだ」


レインが呟くと、聞こえていたのか、受付嬢が苦笑した。


「気にしないでください。リア・ヴァルフェルトさんは、ああいう人なので」


彼女はレインの体を見つめ、書類を差し出す。


「冒険者登録ですね?」


話が早く、親切な受付嬢にレインは頷いた。

そして、簡単に書き方を説明された用紙に名前を書く。

<レイン・クローヴィス>

その文字を見つめた瞬間、

ふと、不安になる。


  もし、いつか自分の名前すら忘れたら


その考えを振り払うように、止まっていたペンを置いた。


「大丈夫です。これで登録完了です。ランクはFからになります。」


用紙を確認しながら、受付嬢は続ける。


「本来、王都所属の冒険者には簡易実技試験があるのですが……」


彼女の視線が、レインの腰に向く。

そこには、深淵門災害の生存者証が下がっていた。


「深淵門を生き延びた方なら、最低限の実力は保証されていますので」


妙に静かに響いたその声に、周囲の空気が少しだけ変わる。


<哀れみ> <畏怖> <あるいは恐怖>


聞くところ、深淵門の生存者は少ないらしい。

だからこそ、生き延びた者は “普通ではない” と思われる。

下がった空気に、レインは視線を伏せた。

その時だった――

ギルド奥の掲示板前で、騒ぎが起きる。


「嘘だろ……」


「またかよ……」


「Eランクが全滅したって……?」


ただでさえ下がった空気が、一層重くなる。

受付嬢の顔色も変わった。


「どうしたんですか?」


状況が読めないセレナが尋ねる。

すると近くの冒険者が低い声でささやいた。


「西の廃坑だよ」


壁をジッと見つめ、男は苦々しげに吐き捨てる。


「最近、魔物の動きがおかしい。討伐隊が何組も戻ってきてねぇ」


「騎士団は?」


「他の深淵門対応で手一杯だ」


その言葉を聞いた瞬間――

レインの胸の奥で、<<ドクンッ>>――灰色の力が脈打った。

まるで “そこへ行け” と言うように。


『――近い。』


灰の竜の声が響く。


『――深淵の匂いがする。』


声に、レインは無意識に拳を握り締めた。

王都へ来たばかりだというのに、運命は、休む暇すら与えてくれないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ