第二章 王立魔導学園編 2
「……でかいな」
レインの呟きが、朝の風へ溶けた。
隣でセレナも、涙の跡を残したまま学園を見上げている。
<王立魔導学園>
白亜の校舎群。
幾重にも重なる尖塔。
空を飛ぶ使い魔。
空中回廊を行き交う学生たち。
そして。
都市全体を包む超大型結界。
まるで一つの王国だった。
だが。
レインたちへ向けられる視線は、決して歓迎のものではない。
ひそひそ声が聞こえる。
「あれが深淵門を……」
「特級監視指定って本当?」
「人間なのか……?」
恐怖。
警戒。
好奇心。
その全部が混ざっている。
レインは無意識に右腕を隠そうとして。
途中で止めた。
隠せない。
灰色の鱗は、もう肩近くまで広がっている。
その時。
学園長が静かに歩き出した。
「こちらへ」
レインたちは後を追う。
広場を抜けるたび、学生たちが道を開けていく。
その空気は、英雄への敬意ではない。
災害を見る目だった。
セレナが悔しそうに唇を噛む。
だが。
レイン自身は妙に冷静だった。
傷ついているはずなのに。
どこか遠い。
感情が薄い。
そのことに、自分で恐怖する。
学園長が振り返らずに言った。
「感情鈍化も侵食症状の一つです」
レインの足が止まる。
「……読心術?」
「顔に出ています」
淡々とした返答。
リアが眉をひそめる。
「侵食って、結局なんなんだ」
学園長は少しだけ沈黙した。
そして。
「竜の力は、“世界の外側”に近すぎる」
その言葉に、ミシェルが反応する。
「深淵と同質か」
「半分は」
学園長は続ける。
「深淵は“終焉”」
「竜は“循環”」
レインの瞳が揺れる。
循環。
魂を還した力を思い出す。
あれは偶然じゃなかったのか。
学園長はレインを横目で見た。
「あなたは既に、普通の契約者ではありません」
その言葉が妙に引っかかる。
既に?
まるで。
前例を知っているみたいな言い方。
レインが問いかけようとした時。
突然。
上空から轟音が響いた。
爆発
次の瞬間。
何かが空から降ってきた。
「うおおおおおッ!?」
金髪の少女だった。
箒。
制御不能。
一直線にレインたちへ突っ込んでくる。
リアが顔をしかめる。
「は?」
少女は涙目で叫んでいた。
「避けてぇぇぇぇ!!」
轟音
激突
レインは反射的に前へ出る。
灰色の竜腕で、箒ごと少女を受け止めた。
地面が砕ける。
土煙。
静寂。
数秒後。
少女がゆっくり顔を上げた。
年齢はレインと同じくらい。
金髪。
翡翠色の瞳。
整った顔立ち。
だが。
どこか子犬みたいな雰囲気。
彼女はレインの腕の中で固まった。
そして。
灰色の竜腕を見た。
「……ひゃ」
顔が青ざめる。
周囲の学生たちも悲鳴を上げた。
「竜化した!」
「危険だ!!」
一気に空気が緊張する。
だが。
金髪の少女だけは、レインを見上げたまま瞬きを繰り返した。
そして。
なぜか。
ぽつりと呟く。
「……綺麗」
場が止まった。
リアが「は?」という顔をする。
セレナも目を丸くした。
レイン自身も固まる。
少女はハッとして真っ赤になる。
「ち、違っ! 腕じゃなくて!? なんかその灰色の炎が……!」
完全にパニックだった。
その様子に。
レインは一瞬だけ、小さく笑いそうになった。
本当に。
ほんの少しだけ。




