第二章 王立魔導学園編 1
光が弾けた。
浮遊感。
身体が引き裂かれるような感覚。
転移特有の不快感が、レインの意識を揺らす。
次の瞬間。
景色が変わった。
巨大な白亜の城壁。
朝焼けに染まる尖塔。
空中を巡回する魔導灯。
そして。
山ほど巨大な魔法陣が、都市全体を包み込んでいた。
<王立魔導学園都市アストラ>
王国最大の魔導研究機関。
同時に。
世界でもっとも危険な“異端”たちが集う場所。
転移広場へ降り立った瞬間、周囲が騒然となった。
「おい、学園長だ」
「帰還したのか……!?」
「待て、あれ」
視線。
全部。
レインへ集まっていた。
灰色の鱗。
異形の右腕。
身体から漏れる灰炎。
隠しようがない。
人間ではない何か。
ざわめきが広がる。
「……竜化?」
「いや、侵食型契約者だ」
「まさか本物か……?」
敵意。
恐怖。
好奇。
様々な感情が刺さる。
レインは僅かに顔をしかめた。
感情が薄れているはずなのに、こういう視線だけは妙に分かる。
その時。
学園長が前へ出る。
「彼は私の保護対象です」
静かな声。
なのに。
空気が変わった。
周囲の教師や魔導師たちが一斉に口を閉ざす。
絶対的な威圧感。
リアが小さく呟く。
「……あの人、相当ヤバいな」
ミシェルが淡々と返す。
「王国最強クラスだ」
レインは学園長を見る。
やはり。
何かがおかしい。
彼女を見ていると、
胸の奥がざわつく。
懐かしいような。
怖いような。
そんな感覚。
その時。
学園の鐘が鳴った。
重厚な音色。
朝を告げる鐘。
すると。
広場の上空へ、巨大な魔法スクリーンが展開される。
そこへ映し出されたのは。
<王国議会の紋章>
同時に、老いた男の声が響いた。
『緊急布告を発令する』
空気が張り詰める。
広場の学生たちも足を止めた。
『昨夜未明、北方山域において“深淵門”の発生を確認』
ざわめき。
動揺。
当然だ。
深淵門は国家級災害。
滅多に起きない。
だが。
次の言葉で、広場は完全に凍りついた。
『門は撃退された』
静寂。
誰も信じられない顔をする。
深淵門を?
撃退?
あり得ない。
そして。
老いた声は続ける。
『確認された討伐者は一名』
その瞬間。
巨大スクリーンへ、一枚の映像が映し出された。
灰炎。
竜腕。
黄金の瞳。
空で深淵と対峙する少年。
レインだった。
広場が騒然となる。
「おい……」
「嘘だろ……」
「一人で深淵門を……?」
恐怖と畏怖が入り混じる。
その時。
議会の男が低く告げた。
『対象を“特級監視指定”へ認定する』
空気が凍った。
学生たちの顔色が変わる。
<特級監視指定>
それは。
“国家が危険存在と認定した者”に与えられる称号。つまり。
英雄ではない。
怪物扱いだ。
セレナが顔を青ざめさせる。
「そんな……」
リアが舌打ちする。
「クソ政治家ども」
だが。
レイン自身は不思議と驚かなかった。
当然だと思った。
自分は危険だ。
実際。
もう普通の人間じゃない。
その時。
頭の奥で、また何かが軋む。
断片。
血。
炎。
泣いている誰か。
『また怪物になるの……?』
激痛。
レインは思わず頭を押さえた。
「っ……!」
その瞬間。
周囲の魔力が暴走する。
灰炎が漏れ出した。
地面へ亀裂が走る。
学生たちが悲鳴を上げる。
「危ない!!」
学園長が即座に前へ出る。
銀光。
結界。
灰炎が封じ込められる。
だが。
彼女の表情は険しかった。
「……早すぎる」
ミシェルが低く聞く。
「何がだ」
学園長はレインを見つめたまま答える。
「侵食速度が、予測より遥かに速い」
その言葉に。
レインの背筋へ、冷たいものが走った。




