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第一章 灰の契約 15

融合体が崩れていく。

黒い肉が灰へ変わり、夜空へ溶けていく。

無数の顔たちが、静かに消えていった。

苦痛ではなく。

安堵の表情で。


騎士たちは呆然としていた。

誰も理解できない。

深淵に取り込まれた魂は、もう救えない。

それが常識だった。


なのに。

レインの灰炎は、彼らを“解放”した。

ミシェルの瞳が揺れる。


「……浄化?」


  あり得ない。

  灰の力は破壊の権能。

  救済ではない。


その時。

灰の竜が低く呟いた。


『――違う。』


レインの周囲で、灰炎が静かに揺れる。


『――これは“還す力”だ。』


レインは眉をひそめる。


「還す……?」


『――深淵へ呑まれた魂を、世界へ戻す。』


その声には、どこか驚きが混じっていた。


『――なぜ使える。』


レイン自身も分からない。

ただ。

悲しいと思った。

苦しいと思った。

救いたいと願った。

それだけだった。


すると。

裂け目の奥で、巨大な瞳が歪む。

 怒り。

 明確な殺意。

深淵が理解した。

レインは危険だと。

単なる契約者ではない。


  “循環を壊す存在”。


その瞬間。

空間が裂けた。

裂け目の奥から、黒い槍が放たれる。

 速い。

認識すら困難な速度。

ミシェルが叫ぶ。


「避けろ!!」


だが。

間に合わない。

レインの身体を、黒槍が貫いた。

 轟音

灰炎が弾ける。

セレナの悲鳴。


「レインッ!!」


空中で、レインの身体が止まる。

胸を貫かれていた。

 黒い槍。

そこから深淵の瘴気が広がっている。

リアの顔が青ざめる。


「おい……!」


レインはゆっくり傷口を見る。


  痛みは。

  ……ない。


その事実が怖かった。

感覚が消えている。

灰の竜が静かに告げる。


『――侵食率58%。』


セレナが泣きながら首を振る。


「やだ……」


レインの指先へ、灰色の鱗が広がっていく。

首筋まで。

呼吸するたび、灰炎が漏れる。


もう。

人間には見えなかった。


その時。

深淵が嗤う。

勝利を確信した笑い。

侵食された契約者は、いずれ深淵へ落ちる。

今まで全員そうだった。


だが。

レインは空を睨み返した。


「……まだだ」


掠れた声。


その瞬間。

胸を貫く黒槍を、自分で掴んだ。

ミシェルの目が見開かれる。


「待て……!」


普通なら死ぬ。

深淵の槍は、魂を侵食する。

触れただけで終わりだ。

なのに。

レインは槍を握り締める。

灰炎が噴き上がった。

深淵の瘴気と、灰炎がぶつかり合う。

世界が震える。

レインは歯を食いしばる。


  怖い。

  寒い。

  意識が飲まれそうになる。


その闇の中で。

誰かの声が聞こえた。


『たすけて』


小さな声。

子供だった。

闇の中で泣いている。


『くらいよ……』


レインの呼吸が止まる。

この槍の中に。

喰われた人たちがいる。


  まだ。

  消えていない。


その瞬間。

レインは理解した。

深淵は、命を完全には消化できていない。

だから。

まだ間に合う。

灰の竜が叫ぶ。


『――やめろ!!』


初めてだった。

竜がここまで焦るのは。


『――その先は戻れなくなる!!』


レインは苦しげに笑う。


「……最初から、戻れないだろ」


そして。

黒槍を、自分の胸から引き抜いた。

 鮮血が舞う。

同時に。

黒槍の中から、

無数の光が溢れ出した。

 魂。

 人々の残滓。

それらが夜空へ昇っていく。

 暖かな光。

 静かな涙。

騎士たちは言葉を失った。

セレナは泣きながら、レインを見上げている。


その時。

裂け目の奥で、深淵が怒号を上げた。

今までにない激しい怒り。

 世界が揺れる。

 空が割れる。


そして。

巨大な“何か”が、裂け目から出ようとしていた。

灰の竜が低く呟く。


『――まずい。』


レインは空を見上げる。

 巨大な指。

 黒い爪。

 山ほどの質量。

深淵本体が、こちら側へ侵入しようとしている。


その瞬間。

世界中の魔力が悲鳴を上げた。

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