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第一章 灰の契約 12

空を蹴った瞬間。

 景色が消えた。

 音より速い。

いや

空間そのものを飛び越えたような感覚だった。


次の瞬間。

レインは巨大な黒腕の目前へ到達していた。


「――ッ!!」


拳を振るう。

灰炎が圧縮され、一点へ収束する。


  轟音


世界が揺れた。

黒腕が、根元から吹き飛ぶ。

裂け目の奥で、深淵が絶叫した。

それは怒りだった。

今まで虫程度にしか見ていなかった人間に、初めて傷をつけられた。

 空間が軋む。

 裂け目が脈動する。


すると。

無数の瞳が開いた。

裂け目の奥。

闇の中で、赤黒い目が次々と浮かび上がる。

 百。

 千。

 万。

全てがレインを見ていた。

その光景だけで、普通の人間なら発狂していた。


だが。

今のレインは違う。

灰炎が恐怖を焼いていた。

灰の竜が静かに囁く。


『――見えるか。』


レインの視界が変わる。

 深淵の流れ。

 空間の歪み。

 核。

全てが理解できる。


「……あそこか」


裂け目の中心。

巨大な黒い“心臓”が脈打っている。

あれが門の核。

破壊すれば閉じる。


だが。

そこへ辿り着く前に、

深淵が動いた。

空間が裂ける。


次の瞬間。

黒い巨人が現れた。

十メートルを超える異形。

全身が黒い腕で構成され、顔の代わりに巨大な単眼が埋め込まれている。

 深淵の守護体。

 それが三体。

リアが顔をしかめる。


「おいおい……」


ミシェルですら表情を変えた。


「門の守護兵……」


一体だけでも国家級災害。

それが三体。

しかも。

まだ裂け目の奥から現れようとしている。

絶望的だった。


だが。

レインは静かだった。

異常なほどに。

感情が薄れていく。


  怒りも。

  恐怖も。

  痛みも。


代わりに。

頭の中だけが、冷たく澄んでいく。

その変化に、セレナが気づいた。


「……レイン?」


  違う。

  何かが違う。

  目の前にいるのは確かにレインなのに。


  どこか遠い。

  手が届かない。


そんな感覚。

灰の竜が低く告げる。


『――侵食率32%』


レインの瞳が僅かに揺れる。


  <32>


何の数字か、本能で理解してしまう。


  侵食。

  つまり

  自分が“人間ではなくなっている割合”。


「……まだ三割か」


掠れた声。


その瞬間。

リアの顔色が変わった。


「待て。今、お前……」


レイン自身も驚いていた。

怖くない。

普通なら恐怖するはずなのに。

自分が壊れていくことを、どこか他人事みたいに感じている。

それが何より恐ろしかった。


その時。

守護兵が動いた。

  轟音

空気を破壊しながら突進してくる。

速い。

山すら砕ける質量。


だが。

レインの身体は自然に動いた。

灰炎の翼が広がる。

  回避

同時に、守護兵の懐へ潜り込む。

  拳。

  灰炎

  炸裂

轟音と共に、守護兵の上半身が吹き飛んだ。


だが。

  再生。

黒い肉が蠢き、瞬時に元へ戻る。


『――核を狙え。』


竜の声。

レインは視線を走らせる。


  見えた。


単眼の奥。

深く埋め込まれた赤黒い核。


「なら――」


踏み込む。

その瞬間。

二体目の守護兵が横から殴りかかってきた。

空間ごと潰す一撃。


  避けきれない。


そう判断した瞬間。


「《雷槍連閃》!!」


紫電が夜空を裂いた。

無数の雷槍。

ミシェルの魔法。

守護兵の動きが一瞬止まる。


そこへ。


「どけェェ!!」


リアが飛び込んだ。

赤髪を翻し、大剣を振り抜く。

  斬撃

守護兵の腕が吹き飛ぶ。


「レイン!!」


リアが叫ぶ。


「今だ!!」


レインは地面を蹴った。

灰炎が尾を引く。

守護兵の単眼へ一直線に突っ込む。


その瞬間。

守護兵の目が、“恐怖”に染まった。

深淵が。

レインを恐れている。

その事実が、胸へ妙な痛みを生む。

灰の竜が低く囁く。


『――終わらせろ。』


レインは拳を握り締めた。

そして。


「うおおおおおおおッ!!」


灰炎の拳が、守護兵の核を貫いた。

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