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第一章 灰の契約 9

灰炎が爆発した。


  轟音


夜が灰色に染まる。

レインの身体を中心に、暴風のような魔力が渦を巻いた。

地面が砕ける。

結界が軋む。

騎士たちが息を呑んだ。


「なっ……」


リアですら言葉を失う。

灰色の炎が、

まるで“生き物”のようにレインへ絡みついていた。

 右腕を覆う鱗。

 肩から伸びる灰色の紋様。

そして。

レインの瞳。

その片方が、竜のような黄金色へ変わっていた。

セレナの手が震える。


「レイン……」


だが。

レインは振り返らなかった。

振り返れば、迷ってしまう気がした。

灰の竜が低く囁く。


『――委ねろ。』


『――我を解放しろ。』


レインは歯を食いしばる。


「……嫌だ」


『――何?』


「全部お前任せにはしない」


その瞬間。

竜が沈黙した。

レインはゆっくり空を見上げる。

 巨大な黒腕。

 空を覆う深淵門。

 圧倒的な災厄。


  怖い

  本当は逃げたい

  それでも。


「俺がやる」


灰炎がさらに燃え上がる。

同時に。

レインの背後へ巨大な“竜影”が現れた。

 灰色の竜。

 翼を広げれば夜空を覆うほど巨大な幻影。


その瞬間。

黒腕が止まった。

深淵が、初めて“警戒”を見せた。

ミシェルが呟く。


「……深淵が怯えている?」


あり得ない。

 深淵は災厄そのもの。

 恐怖を知らない存在。

なのに。

今。

確かに後退した。

灰の竜が笑う。


『――当然だ。』


『――我は奴らを喰らう側だ。』


次の瞬間。

レインの身体が消えた。

音を置き去りにする速度。

一瞬で空中へ到達する。

黒腕が迎撃に動く。

無数の腕がレインへ殺到した。


だが。


「遅い」


灰炎の斬撃。


  轟音


数十本の黒腕が一瞬で両断される。

裂け目の奥から絶叫が響いた。

人間の声ではない。

世界そのものが軋むような叫び。

リアが息を呑む。


「おいおい……」


騎士団も呆然としていた。

誰も理解できない。

人間の戦いじゃない。


だが。

レインの異変に気づいたのは、

セレナだった。


「……違う」


彼女の顔が青ざめる。


「レインじゃない」


空中の少年は、

感情を失ったような目をしていた。

 冷たい。

 あまりにも冷たすぎる。

まるで。


 “何千年も戦い続けてきた怪物”のような目。


その時。

灰の竜が囁いた。


『――もっと力を使え。』


レインの頭へ、戦い方が流れ込む。


  殺し方。

  壊し方。

  喰らい方。

  知らない知識。

  知らない記憶。


でも身体が理解してしまう。


「っ……!」


レインは頭を押さえる。

その隙を突き、巨大な黒腕が振り下ろされた。


  轟音


地面が吹き飛ぶ。

爆煙。

セレナが悲鳴を上げる。


「レイン!!」


だが。

煙の奥で、黄金の瞳が光った。


次の瞬間。

黒腕が根元から消し飛ぶ。

灰炎の奔流。

まるで竜の咆哮そのものだった。

裂け目が揺れる。

深淵が悲鳴を上げている。


そして。

レインは見てしまった。

裂け目の奥。

そこに。


  “無数の世界”があった。

  滅びた世界。

  燃える世界。

  空が砕けた世界。


その全てに。


  灰色の竜がいた。


レインの呼吸が止まる。


「……なんだ、これ」


灰の竜が静かに告げる。


『――我は何度も世界を救った。』


『――そして。』


低い声。

どこか悲しげな響き。


『――何度も失敗した。』


その瞬間。

レインの脳裏へ、一つの映像が流れ込む。


  幼い少女。

  銀色の髪。

  泣きながら叫んでいる。


  『もう一度……!』


  その隣には。

  血だらけの、“自分”がいた。


レインの瞳が見開かれる。


「……は?」


  知らない。

  こんな記憶は知らない。


でも

胸が壊れそうなほど痛かった。


その時

裂け目の奥で、巨大な“目”が開いた。

今までとは比べ物にならない。

世界ほど巨大な瞳。

それが

ゆっくりと、レインを見た。


瞬間

全身の毛穴が開く。

理解した。


  アレは

  深淵そのものだ。

  世界を喰らう存在。


そして。

それは確かに、レインを“認識”した。

空気が凍る。

次の瞬間。

深淵が笑った。


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