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意天  作者: 安藤 兎六羽
三章 悪神
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八、≪四姐≫と、≪帝≫の兵器と、≪脩神≫の呪い

――≪異気≫――


 あっという間に拡大する≪異気≫。もの凄い勢いで俺の拡げた≪異気≫を押しのけて≪四姐≫の≪異気≫が爆発するみたいに拡がって行く――

 しかも、妹の呪文のせいで、俺たちが≪四姐≫に与えたダメージはほぼ、消えてしまっている。


『今だ!』


――蛟の声に、俺も気づいた。

 つまり、身体を≪つなぐ≫――防御に専念させてた≪異気≫を拡げたってことは、≪四姐≫の防御力は落ちてるはずだ!

 殺したくは無い。だから、俺は一瞬の間を置いて、首筋の横、襟のあたりへと縦に剣を振り下ろす――

 首が弱点なら、肩口を灼き斬り、内臓を傷つける――呪文でも内臓は治せないはずだっ!!



「――いも!!」


 いつのまにか、唱える呪文をヒーリングから別のものへと変えていた妹に、≪四姐≫が呼びかける――

 へたり込んだ体勢から膝立ちになって俺の剣を、さっき生えた左腕と左肩で受け止め、悲鳴を漏らす≪四姐≫。剣がゆっくりと、それでもさっきよりはよっぽど速く、着物の下の身体を灼きながら沈んでいく感触――吐きそうだ!!


「……命を重ね、随風ずいふうと成す――」


 妹のほうからそう聞こえて来た時、相手の身体に沈み込んでいた俺の剣は、≪四姐≫の足許から立ち上った上昇気流に押し返される。



「――尚! そやつの口を塞げっ!! ≪帝≫の祝詛じゃ――」


「――遅えっ!!」


 おひい様の慌てた声を掻き消す、力強い≪四姐≫の言葉。

――産まれた上昇気流は、もう、≪四姐≫を包み込む小型の竜巻になってる!! 小型のくせにぎちぎちいいながら、俺の肌をどんどん傷つける。

 カマイタチに切られながら、竜巻に向かって剣を押し込もうとするけど、ゆっくりと身体が浮き上がる感覚。地面に足をつけていられねえぐらいの風速――


 そんな中、びゅるびゅるいって吹き抜ける風音に妹の気の抜けた声が響いた――


「――我が≪風姓≫を以ってめいず、≪そん≫――≪風杖ふうじょう豪遷ごうせん≫」



――竜巻が萎む。急に押し返してくる力が弱まったせいで俺はつんのめるみたいに、剣を振り下ろした。


……やべえ、ヤっちまう!! 力入れ過ぎた。このままじゃ、≪四姐≫を一刀両断――


 そんなことを考えた俺の身体は、次の一瞬の間に、振り下ろした剣を弾かれながら身体中を切り裂かれ、吹っ飛ばされる――

 回る景色、俺の身体から流れたらしい血しぶきが、宙を飛ぶ中、背中に衝撃。

……俺は建物のひとつに突っ込んだらしい。


 壁の残骸の上に仰向けになりながら、剣の輝きに照らされた室内を見回せば、部屋の隅のほうで、たぶん一家族だと思う三人が固まって震えてる。

 あ、俺らが道路のど真ん中、家の入口の前で闘い始めたから、逃げ遅れたんだね……。



「しゅ、朱蝶!」


 おひい様の声に跳ね起きた――

 幸い、傷は痛むけど深くは無いっぽい。動ける。

 そのまま、外へと跳び出す。

――アイツ――≪四姐≫は、いったい何しやがったんだ?


 外に出ると風は凪いでいた。にも関わらず「びゅるびゅる」風音がしてる。

 無風の中、仁王立ちしてる≪四姐≫の手の中に、その音の源があった。


――棒。棒だ。無色透明の2メートルくらいの細い棒が、≪四姐≫に握られてる。透明なのに、なんで形がわかるのかって言えば、その棒を透かした建物がちょっとゆがんで見えるから。



「千歳ぶりだぞ、≪豪遷≫を使うのはっ!!」


 既に勝ち誇ってる≪四姐≫は肩口に深い傷を負いつつも、微笑んだ。


『朱蝶! あれはおそらく≪帝≫が使う兵器だ! 敵の≪異気≫を乱せ! さすれば消えるはず!!』


――はあっ? なんだそれ?

 ≪帝≫ってのは≪白帝≫しかり、≪神≫の中でもエラいんじゃ無かったのか?

 その≪帝≫の武器をなんで、悪神が使うんだよっ!!


 それでも、俺は蛟の指示通りに、拡げた≪異気≫を同じく拡がってる≪四姐≫の≪異気≫にぶつける。



「おっ! なんだ? その≪異気≫のデカさ!! あたしのよりデケえじゃねえかっ!!」


 ≪四姐≫は驚き、焦りながら、俺にぎしりと一歩詰め寄る。

 俺は≪異気≫で、相手の≪異気≫を押し込み、押しやりながら、≪四姐≫から距離を取る。


「デカさは大したもんだけど、≪異気≫の操り方は荒えなっ!!」


 ≪四姐≫はその透明の棒――≪豪遷≫とやらを、ゆっくり俺に向ける。

 イヤな予感がして、少しだけ俺は身体を捩った。

――その透明な棒の、延長線上にあった俺の右腕が、切り刻まれた!!


「――いっっってえええ!!」


 舞う血しぶきと鱗。蛟の腕と化していた俺の腕は、もう人のものでも、竜のものでも無い。血を垂れ流す肉塊――

 マジかよ! それ、飛び道具にもなんの?



「こいつは、あたしの≪異気≫で支えて、いもの祝詛で整えた結晶だっ! 暴風の固まりだと思えっ!」


 暴風の固まりって、……なんだ、それ!!

 ≪四姐≫がおひい様を見た――


「なあ? お前の身体はギリギリ耐えられるみてえだが、そこの≪竜眼≫持ちはどうだ?」


 にやりって無邪気な笑顔を見せる≪四姐≫――


――俺は、≪四姐≫に突っ込んだ!!


 ついでに≪異気≫を思いっきり、相手の≪異気≫にぶつけて、押しやる!!

 透明の棒が揺らいでる。形がちょっと崩れた。


「果敢じゃねえかっ! 妬けるぞ!」


 ≪四姐≫が俺の右脚を≪豪遷≫で狙い討つ。

 サイドステップで躱す。


――もう、迷えない。

 おひい様の命と、自分がこれから犯す罪の天秤。圧倒的におひい様の命のほうが重いに決まってる!!

 誰も死なせない!!!



「お前を殺す――」


 俺の言葉に≪四姐≫の顔が蒼褪めた。

 そして、なぜか笑う。


「いい、いいよっ! お前っ!! ぞくぞくする!!!」


 歓喜。なぜか≪四姐≫は喜んでる。

 でも、俺にはもう、そんなことも考えてる余裕が無い……。



――接近。振るう剣。≪豪遷≫に触れる前に軌道を変える。相手の足首、斬る。体勢を崩した相手の頸――

 俺は薙ぐ。剣を横に奔らせて薙ぐ。相手の頸骨を断ち切る為に――


「まるわかりだ!!」


 ≪四姐≫が俺の剣を振るった腕を、≪豪遷≫を持ってないほう――左拳で殴った。

 今度は俺が体勢を崩しながら、後方へと圧された。


 着地して、脚を踏ん張って立て直す。だけど。

……気づけば、すぐ背後におひい様がいた。



「避けろ、それでお前は、自由だっ!!」


 ≪四姐≫が足首を斬られて膝立ちになりながら、≪豪遷≫を振るって、そう言った。


――避けれない。俺は歯を食いしばって、仁王立ちになりながらレーザーみたいな嵐を受ける――

 皮膚が引き千切られ、肉が刻まれる感触。でも、俺はどかない。どくわけがねえじゃねーかっ!!!


「朱蝶っ! ――竜を弑しし、我が系、≪≫の名において奉る。老陰が元に少陰を滅し、老陽が元に少陽を滅す――」


 鳴り響く暴風の音の中で、おひい様の悲鳴と呪文がぼんやり聞こえた。

 同時に、剣から光が喪われ、俺の身体が治っていく。治ったそばから切り刻まれる。

 俺は踏みとどまる。耐える。その間にも≪異気≫で敵の≪異気≫を圧す。飛んでけ。剥がれろっ! ってばかりに圧しまくる。



――俺は壁だ。おひい様を守る肉の壁。……でも、だんだんその肉が削がれていくのがわかる。おひい様のヒーリングがまるで追いついて無い……。

 俺の身体が骨だけになる前に、俺の≪異気≫が≪四姐≫の≪異気≫を崩せるか。


 朦朧とする意識の中、急に、風が已んだ。

――いや、血の滲んだ目蓋に薄目を開けて見れば、正確には誰かが俺と、暴風の間に入ってる。立ちふさがってる。


――尚の背中――


「尚どのっ!!」


 俺は悲鳴を上げた! いくら頑丈な尚でも、この風とカマイタチの嵐の中じゃ……。

 そこで、ふと俺は気づいた。尚が何かを持ち上げて盾にしてることに。

 その盾が尚よりも若干小さい為に、尚は確かに傷を負ってるけど、その盾ほどじゃあ無い。


――尚に両脇を捧げ持たれ、風に切り刻まれて血塗れになった盾――



いもっ?!」


 ≪四姐≫も漸く、自分が攻撃してたのが妹だと気づいたらしい。

 直後、≪豪遷≫は消えていた――



「…………≪四姐≫は……最悪、だよ……」


 そう言って、尚に捧げ上げられて血だるまと化した、妹は気絶した。



「――いもっ! ……てめえらっ、よくもあたしの妹を――」


 そう言った≪四姐≫の顔に異変。

 なんか発疹、赤いぶつぶつが顔に浮び上がってる。


「……こいつはっ――」


 絶句する≪四姐≫。

 なんだ? どうしたってんだ?


「≪神気≫じゃねえかっ! ……なんでこんな邑の近くまで……?」


 絶望したような≪四姐≫の声に、俺も気づいた。

 どうやら、俺が≪異気≫を使って押しまくってた≪四姐≫の≪異気≫が、俺を探してどこぞの≪神≫が伸ばしてた≪神気≫に触ったらしい。


「――呪詛が、≪しゅうしん≫の呪詛が……」


 呟く≪四姐≫の顔は、増え続ける発疹まみれで、スゲえ痒そう。

 ≪四姐≫は両手で顔を覆う。


「――見るなっ! 見るんじゃねえっ!!」


 そう、言いながら≪四姐≫は≪異気≫を収めると、片足で跳ぶ。呆然とする俺たちを片足だけで跳び越える。

 信じられないぐらいの跳躍力のケンケン。


「あああぁーーんっ!」


 泣き声を上げながら、≪四姐≫は片足で跳躍しながら沈みかけた夕陽を追って行く。

 もの凄い移動速度で。


「――ぶっ殺してやるっ! ≪脩神≫の糞ヤローーっ!!」


 悪態をつきながら残照の中に消える≪四姐≫。



……あとに残されたのは、倒壊した幾つかの建物と、傷だらけの俺と尚、呆気に取られたおひい様。


 そして、最後に≪四姐≫に取り残されてしまった、血だらけで気絶してる悪神の妹……。


「……なんなのじゃ……いったい」


 そう、呟いたおひい様の声が、夜を迎えた南邑の町に溶けていた。



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