表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意天  作者: 安藤 兎六羽
二章 神
59/159

二十六、おひい様、≪神≫に願う



――森を割る轟音。続いてベキベキって木が倒れる音がしてる。

 それがどんどん近づいてくる。


……いや、てゆーか早くないっすか?

 さっきまで、かなり遠くに聞こえてたはずなのに、なんかもう、すぐ近くに――



 丘と森の境目、祭壇を挟んでシャンばあさんや俺たちが立つ場所と向かい合った、その森が内側から爆発した――

 折れた何本もの樹木――しかも丸太みたいな生木がそのままの形で宙を飛ぶ。咄嗟に龍を庇った玲華ちゃんの前に、俺は飛び出した。


 祭壇のすぐ傍にいたシャンばあさんの襟を引っ掴んで、後ろに投げる。

――生木の一本、直径50センチはあろうかって太い木が、祭壇を飛び越えてこっちに向かって飛んで来た。


 俺は≪異気≫を僅かに拡げて、エネルギー充填。

 ちょっと違和感。俺の≪異気≫が大気に溢れるエネルギーを吸収しようとすると、周りのヌメッっとしたの――たぶん≪神気≫が、邪魔してくる。

 エネルギーを綱に見立てた、綱引きってトコだな、こりゃ!


「よいしょお!」


 なんて掛け声と一緒に俺は≪異気≫で≪神気≫から、強引にエネルギーをむしり取った! そのまま、改めてエネルギーを全身に充填する。

 飛んで来た樹木をバレーボールのレシーブのごとく腕で受ける。

 俺の下手くそなレシーブじゃあ、勢いを殺し切れなかったらしく、俺の腕が当たった場所で、一抱えはありそうな木は「く」の字型に折れ曲がった。



 丘のところどころで、樹木が落下しながら転がる衝撃音が鳴ってる。

――でも、俺としてはそれどころじゃ無い。

 敵だ。俺の僅か目と鼻の先5メートルってところに、ソイツはいる。



――まず、俺の眼に飛び込んだのは「黒」だ。


 長い黒髪。頭部を覆い隠してあまりあるほどの頭髪。

 その頭頂、少し前頭部寄りから二本の角が伸びてる。立派な牡鹿が生やしてるのよりも、さらに節くれ立った角。それが後頭部に向かって枝分かれしながら伸びてる。

 伸びすぎた黒髪が少し掛かった身体は、燃えるように赤い鱗で蔽われてる。焔をそのまま固めたみたいな、そんな色だ。

 森から抜け出し切れてない身体は、その上太い。たぶん、蛟の母ちゃんぐらいの太さはあるだろ。

 そして、二本ある前肢の爪は四本。鋭い爪を地面に突き刺して、ソイツはブレーキをかけたみたいだ。地面が抉れてる――


――さっきの森が内側から弾け飛んだのは、爆発したってよりは、たぶん、コイツが勢いよく飛び出して来たから、その衝撃で内側から弾けたんだろう。


 長い黒髪――一本一本が4、5メートルくらいあんじゃないの、ってそれの隙間から、鱗と同じように赤く輝く瞳が浮いていた。

 そして振り乱した髪の奥に、よく見えないけど人と似たような造りの顔面があった。というか頭もデカい。

 俺が前に見た、あの≪生首≫ぐらいあんじゃねーの?



“≪二天≫に繋がりし≪神怪≫か”


 抑揚の無い、聞き覚えのある声だ。

 赤い瞳が、顔をすっぽり覆う髪のカーテンを透かして輝いた――


――やべえ、人間の眼とも動物の眼とも違う。なんにも読めねえ。……何してくるかわかんねえ!!


 俺は≪異気≫を展開して身構える。

 相手が仕掛けてくるタイミングがまったくわかんねーから、腰の剣を抜いてる暇もねー!



「――祭は類祭るいさいより創め、六宗りくそう禋祭いんさいし、初めて山岳に望祭ぼうさいす――帝域は九州に別たれ、南東は揚州ようしゅう、皐山は美玉多くしてそびえ、皐水こうすい清らかにして澄み――」


 おひい様の声だ。

 俺は、このぶっちゃけバケモンよりもバケモンじみた≪神≫とやらと対峙してるから、振り向けねえけど、おひい様が後ろのほうでなんか呪文みたいのを唱えてるらしい。

 お、なんかこの≪神≫が視線を俺の後方に向けたぞ? なんだ、おひい様を見てるのか?



“――祝詞を知るか”


 赤く輝く瞳が、祭壇を捉えた。


まつりの獣を知るか”



 ≪神≫の巨体が俺の眼の前から消えた――


――後方で衝撃音。なんかが落ちたみたいな音がした。

 振り返れば、竜みてえな全身を晒した≪神≫がいる。


 おいおい、瞬間移動っすか? 勘弁して下さいよ! もうちょっと物理法則とかもろもろに準拠して下さいよ! 心臓に悪いから。

 にしてもなんだ? なんでそっち行ったの?


……巨体の影で見えないけども、どうも呪文をぶつぶつ言ってるおひい様に興味があるらしい。

 いや、興味があるってーのはなんか違う。だって、≪神≫の行動にも、声にも全然感情っぽいものが感じられねーんだもの。

 なんか、やっぱ機械っぽい。バケモンみたいな姿なのに、マシーンっぽいってのはどうも妙だね。



「――もうは山険なり、険に留まるべからず。志応ずれば、蒙を破って『意』とおる。啓くべきかな、啓くべきかな……」


“祝詛か――巫咸ふかんよ、何を望む”


 おお、おひい様の呪文が効いてるらしい。

 なんか≪神≫が話しかけてるぞ!


「……皐山の≪神≫よ! 妾は≪禺氏≫が裔にして、≪皐陶こうよう≫公が末裔! そこな≪神怪≫は妾の僕じゃ!」


“神産みの≪禺≫と≪皐陶≫が系が混じったか。皐の裔よ――何を望む”


「僕の助命を願う!」


“その望みは叶えられぬ”


……え? 終わり? 俺の命は助からないの?

 マジっすか? ……早くないっすか?



「……無理か?」


 意外そうなおひい様の声。


“ほかの望みを陳べよ”


「どうしてもか?」


“ほかののぞ――”


……あれ? ≪神≫の言葉が止まったぞ?


 俺はおそるおそる≪神≫とおひい様が対峙しているところへと歩み寄る。

 ゆっくりと≪神≫の巨大な身体を回り込んで、おひい様と≪神≫が顔を向かい合わせてるのを横手から見学する。



――緋金の光が、≪神≫を縛っていた。



「おう、朱蝶。しくじったわ」


 いかにも簡単に、しかし兇悪な笑みを浮かべながらおひい様はそう言う。


「いや、まさか贄に宝玉、祝詞まで上げて、断られるとは思わんかったのう」


 いやあ、残念じゃ、とか言ってるけど、全然残念そうには見えないおひい様。

 むしろ明るい。おひい様の声がやけに明るい。

 とてもお願いを断られた直後には思えない。


「えーと? おひい様、何をしてらっしゃるんで?」


「ん? この≪神≫を≪竜眼≫で縛っとるのじゃが」


 おひい様はこっちを見ながら、親指を立てて「くいっ」て感じで≪神≫を指し示す。


「え? ≪竜眼≫って見て無くても大丈夫なんすか?」


 だって前回の、蛟と蛟の母ちゃんとの戦闘ではあんなに苦労したのに……。

 なんなの、その片手間感覚?


「≪竜気≫が通わぬ相手ならば、それほど難しい事では無い。いつもほかの者の動きを止めてしまうのは、妾の≪意≫ではなく、≪竜眼≫から漏れる力の為じゃしのう」


 へー……。



「いやあ、≪神≫の姿を拝見できる日が来ようとは!」


 停止する≪神≫様を拝む長双さん。


「おひい様! 早う片を付けましょう!」


 斧を握って、眼を血走らせてる尚。

……待て待て、尚は何をするつもりだ?

 なんか、≪神≫の身体の側面に回って、深呼吸してるけど。


「そうじゃな、尚。首を斬るか!」


 聴いてない!


「――待った!」


 おひい様の言葉を合図に、斧を振りかぶった尚の前に、俺は飛び出した――

 尚の斧が勢いよく俺に向かって振り下ろされる!


 止めろよ!!


――俺の額まで5センチってとこで斧の刃が止まった。


「しゅ、朱蝶どの! 危ないではないですか! おひい様が≪竜眼≫にて御止め下さらねば――」


――え? ≪竜眼≫を使った?



 瞬間――俺のすぐ後ろで衝突音が鳴り響いた。

 金属同士が触れ合うような金臭い音――


 振り返った俺の眼に、≪神≫の前肢の爪を剣で受け止めてる長双さんの姿が映った。

 その後ろで、おひい様が倒れてる――


――嘘だ――


 おひい様の頭から血が流れてる。俺を庇ったせいで?

 ≪竜眼≫を咄嗟に尚に使ったせいで、≪神≫に対する縛りが解けて、やられた?


「おひい様! ――」


 おひい様に駆け寄ろうとした尚が、長双さんが支えるのとは逆の≪神≫の前肢に弾かれた。

 俺の顔にぴちゃぴちゃって血が飛んで来た。


――え? 尚の血?


 思わず俺は尚の行方を目で追った。丘の端、森との境目まで飛んで行く尚。

 木を何本も折り倒して、森の深みに、なんか投げ捨てられた人形みたいに飛んで消える尚――


――俺のせい――



「朱蝶どの!」


 龍の呼び声――

――そうだ! こんなトコで思考停止してる場合じゃ――


「危ない!!」


――龍の警告とほぼ、同時。

 俺の身体を横殴りになんだか堅くて太いものが浚って行く。


 俺は体内に俺の骨が折れる音を聴く。

 まず、右腕。次いで、たぶん肋骨が何本か。


 ≪異気≫――拡げる――固める――筋肉――守る――内臓――


 俺の身体が浮く、浮いてそのまま飛ばされる。

 俺が霞む視界の端っこで確認したもの――俺に一撃をくれたのは、丸太。

 その先には丸太を抱えて振り抜いた玲華ちゃんの姿があった――

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ