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決戦、四面挿花!Ⅷ

 パルピーナは亜利沙のバトルに切り替えようと、テレビのリモコンを操作する。

 すると、操作を誤ったのかパルピーナはテレビの電源を切ってしまうのだった。

 室内を明るく照らしていた唯一の光源が消え、辺りが真っ暗になる。

 

 すると、生々しくてくすぐったい感触が俺の額へと伝わる。


「よく考えてみるべきだったが、この6対2という絶望的な状況。春人の実力を十全に発揮するには十分な状況だ」

 パルピーナはいくらか熱を含んだ調子で言った。


 俺の瞳孔が暗闇に反応して、大きく見開かれる。

 すると、何故か俺の目の前には、唐突にパルピーナのくちびるが現れた。


 さっきの生々しくてくすぐったい感触はひょっとして……、


「なあ、パル……ところで、さっき俺の額に」俺はここで一瞬言葉をためらったが、遅れて続けた。「キスしただろ?」

 俺は恥ずかしそうにほおを赤らめながら尋ねた。


「それは、春人の戦闘ステータスの全てを完璧に使いこなしてもらうためだ。さっきの私のキスで春人はプログラムにとらわれることなく、本当の実力を発揮することが出来るのだ。今の春人ならば6対2だろうと、100対2だろうと同じことだ。さあ、今から仲間のかたきを討つ時間だ。ここからは晴れ舞台だ、本来の力を余すことなく、強敵にぶつけてくるといい。朗報を待っているぞ、春人」

 パルピーナはひまわりのように明るい満面の笑みを浮かべて言った。


「ああ、待ってくれよ。パル」

 俺は自信に満ちた余裕のある笑みをパルに送った。




「あら? まさかあの中で一番弱そうなあなたが勝ち残ってくるなんて……意外ね?」

 ルリアは小馬鹿にするように軽く言った。


「確かに意外だったな。俺自身、他の奴らが負けるなんて思ってもみなかったところだ。油断は出来なさそうだな」

 俺はいくらか余裕のある笑みを浮かべて言った。

 そして、手前にそびえ立つ、まるで8メートルを超える巨人のために作られたような、立派な門に身体を向けた。


「この奥に、四面挿花のメンバーがいるのね……」

 ルリアがいくらか気後れしたように呟く。


「ああ、これから6対2の壮絶な戦いが始まるらしい……、準備は出来ているか? ルリア」

「私の名前を気安く呼ばないでちょうだい。それに、何で上から目線なの……腹が立つわ。とにかく、あなたはおとなしく私の後方支援をやりなさい。その間に私が6人全員を相手にしておくから。まあ、せいぜい足手まといにはならないでね」

 ルリアは、言葉の端々(はしばし)にとげを含ませながら、意地悪く言った。


「ああ、分かった」

 だ れ が お前の好きにさせるか!

 今回のバトルは俺の本調子がどれだけすごいのかを実験するためのバトルだ。

 だから、お前に譲るわけにはいかないんだよ。


「それじゃ、あなたは下がってて。私が前に出て敵を狩るから」

 言うと、ルリアは静かな足取りで門に近寄り始める。

 そして、門がギギーッという重い音を立てて開き始めた。

 門の向こうには、確かにパルピーナの言うとおり6人の人影があった。


 なるほど、6対2か。

 確かにこれでは不利だということになるな。

 だが、この不利な状況……、

 試すのに好都合だ!


 俺は門が開きかけた瞬間、その場から一気に飛び出した。

 よし、まずは手始めに千倍速からだ。


 すると、俺に対する時間の流れが遅くなり、あらゆる視界上の動きがスローモーションに見え始める。


 これが千倍速の世界か……1秒が千秒ということは、すなわち、俺にとっての1秒は約15分ってところだな。

 パルのお陰で、倍速を完璧にコントロール出来るぞ!

 俺は右手に、凛を倒した時のさっきの小型のサーベルを具現化させる。

 俺は敵の表情を確認した。

 見れば、敵方6人の表情は、俺がその場から消えたように見えたのか、驚いたように大きく目を見開きかけている。

 もちろん、この光景もスローモーション映像のようであり、おそらく俺の目には1分半かけて彼女達の目が大きく見開かれるように見えるはずだ。

 この速度なら、このままの勢いで6人全員を倒すことも容易たやすい。

 だが、せっかくパルが俺のために全力を出し切れるようにしてくれたんだ。


 だったら、ここは俺の限界速度を試してやるぜ!

 奥義、10億倍速!


 さらに、周囲の動きに遅れが見え始める。

 パルから聞いた話だと、俺がどんなに強化されてもこれが俺の出せる限界の速度らしい。

 それにしても、これはこれで恐ろしい世界だ。

 何せ、時間が動いている気がしないのだから。

 1秒が10億秒……、これはつまり、相手にとっての1秒が俺には30年の時間になるわけだ。

 自分で言うのもなんだが……何だこの恐ろしい世界は。

 とにかく、俺は0・00000009秒で6人に魔法を無効にする剣で10回程度切っておくことにした。

 俺は倍速設定をOFFにする。


 すると、敵全員がその場で倒れるのだった。


 俺が扉の前から移動してから敵を倒した時間は0・00500009秒だった。

 ルリアが本当に驚いたように大きく目を見開いてみせる。

 通常、人がまばたきをして、視界が暗黙状態になるのは0・1秒くらいだ。

 ところが、俺は彼らを倒した時間はその20倍も早い。

 人間の目には分からない、或いは、時間間隔では計れない絶対領域。

 ルリアの目には、気づけば俺が全員倒していたということになっているに違いない。


「一体……何をしたの? 江戸川春人……あなたは一体何をしたって言うのよ!」

 ルリアは衝撃のあまり取り乱して、思わず声を荒げた。


「ちょっと、全力っていうのがどういうもんか試してみただけだ」

「あれが、あなたの全力? 何ておそろしい能力なのよ……、まさか時間でも止めたわけ?」

 ルリアはおどおどした様子で尋ねた。


「いや、たぶんそれよりもタチが悪い……」

 実際、そう考えるほかない。

 何故なら、もし相手が時間を止める能力を持っていたとしても、この桁外れな素早さがあれば、相手に認識される前に、能力を発動される前に勝負がついてしまうからだ。

 相手が発動というタイムラグを発生させるのに対し、こっちはただの能力値だからそのタイムラグがない。

 何と言うチートさ……。

 あまりのチートさに言葉が出ないな。


「なあ……ところで、今倒れているこの6人は確か四面挿花とかいうこのゲームの超能力を悪用した犯罪者メンバーだったよな。それで、彼らにはどういう処置が下されるんだ?」

「彼女達は、おそらくアカウントを強制剥奪はくだつされ、このゲームに関する一切の記憶も消去され、一生このゲームでは永久追放の処分が下るわね」

「永久処分……、まあ、当然と言えば当然か」

「これは私の想像だけどね。おそらく、そうなると思うわ。まあでも、四面挿花として世界の有名な美術品を盗んで置きながら、刑務所行きとならないのが彼女達の悪運の強さを感じるわね」

 ルリアは溜め息混じりに呟いた。


「刑務所行きにならない……どういうことだ?」

 俺はルリアの発言に首を傾げた。


私達管理者オフィシャルは現実世界でも能力が使えることは知っているわね? 私達管理者オフィシャルの中には、現実世界のあやまちを全世界の人々の記憶ごと消去してしまう能力者がいるのよ。だから、彼女達の過ちはなかったことになり、警察に捕まらないわけね」

「なるほど、これまたタチの悪い能力だな」

「さて、そろそろ私達管理者オフィシャルが到着する時間ね。とにかく、この場は私達が引き受けておくから、あなたはログアウトでもしたらどう?」

「そうだな。今日は色々と疲れたし、そろそろ、ログアウトするよ。お疲れ」

 俺は力なさげに笑いながらルリアに言った。


「お疲れさま、春人」

 ルリアは満面の笑みで俺のログアウトを見送るのだった。

 


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