決戦、四面挿花!Ⅶ
決して見慣れない光景というわけではない。
平日の夜9時くらいのドラマとかではよく見かける光景だ。
ただ、俺は高校生だからこんなところに来たことはないだけだ。
ここは酒場だった。
店内は薄暗く、今となってはもう古い小型のブラウン管のテレビが辺りを怪しげに照らしていた。
――本日2回目の客とは、これはこれは珍しいものだな。
カウンターの向こう側にいる、長い髪をした背の高い女性のシルエットが目の前に映し出された。
聞き覚えのある声に、見覚えのあるシルエット。
この薄暗がりの中、俺の視界には彼女の姿がはっきりと映し出されたわけではないが、彼女の声とそのシルエットは、俺の脳裏に契約書の印鑑のように鮮明に昂然として、はっきりと焼きついていたのである。
「何かそれは、俺がお前に会いたかったがために来ているみたいであまりいい表現じゃないぞ、パル。ところで、また呼び出しなんて何か変わったことでもあったのか?」
俺はダルそうな表情でカウンター手前にある丸椅子に座った。
「そのようなつれないことを神様相手に面と向かって話すとは……だからこそ、かわいがりがいがあるというものだ。ところで、せっかくここに来たのだ。何か注文でもしたらどうだ?」
パルピーナはそう言うと、側に立ててあったメニューの一覧表を俺に手渡しする。
俺はそのメニューの一覧表をありがたく受け取ると、しばらくの間、一覧表を眺めていた。
その隙に、パルピーナは俺のコップに氷を入れて冷水を注いだり、お手ふきを用意したりして飲食店の一通りのサービスをさっと済ます。
それにしても、この一覧表。
どう間違えたらこうなるのだろうか……。
俺は呆れた表情で溜め息をつく。
何故なら、ここのメニューの一覧表にはこんなことが書かれていたからだ。
メニュー1、ラブラブハートでラブキッス。
何だ、この意味不明なネーミングセンスは……。
メニュー2、思い出せ!! 君のあの子に片思いだった頃の甘酸っぱい青春の1ページの味を!!
これは何かのデザートなのだろうか?
メニュー3、いいのよ? もしもあなたが私のあっつぅいキスを受け止めた頃には、きっとあなたは私の熱に魅了されてしまっているのだから。
もはや、原型を留めてねえだろ!!
メニュー4、駄目よ、そこは駄目。だって、そこは女の大事なところなんだから! でも、どうしてもと言うのなら、仕方がないわね。いいわよ、しっかり私を味わって食べなさい。
…………!
「どうだ、春人? この中から何か食べたいものはあるか?」
「いや、それ以前にこんなふざけたメニュー表でまともな注文が出来る方がおかしいわ!!」
「何? このメニュー表はせっかく私が春人が気に入ると思って精魂込めてメイド喫茶風にアレンジして作ったというのに、一体何がいけなかったんだ!?」
「いや、何がって……そもそも文字の横に写真でもないとこんなの分からないし、それに……」
「それに?」
「俺にこんなメイド喫茶趣味はねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「何だと? だが、春人。お前はいつも少女ゲームばっかりやっていたではないか?」
「いや、ゲームの中の美少女と現実世界の女はまるっきり別物だぞ。何故なら、ゲームの中の美少女は俺に暴言を吐かないし、部屋だっていつもきれいだし、嫉妬深くないし、おならだってげっぷだってしないし、まさに汚れのない理想なエンジェル。これこそ、俺達の求めていたロマンなんだよ。したがって、現実世界のメイド喫茶のメイドという中途半端な存在とゲームの中の完璧に研ぎ澄まされたヒロインとを一緒にしないでもらいたい」
俺は何となく熱く語ると、熱を冷ますかのように、コップに入った冷水を一口だけ口内に含んだ。
「そうか、そうだったのか……いつの間にか春人は私が知らない間に少女ゲームというものに洗脳されていたというのか!?」
「いやいや、確かに俺はさっきゲームのヒロインは完璧に研ぎ澄まされた理想の存在だと言ったが…………誤解だ。それでも、俺は現実世界の美少女だって悪くないと思うことだってあるんだぜ?」
「そうか、それを聞けてよかった。さもなければ、私が体で現実世界の女の良さを春人に教えていただろうから」
その話を聞いた俺は、あろうことかパルピーナが俺に、あんなことやこんなことをしている姿を想像してしまうのだった。
ひょっとして、俺はさっきの考え方をつらぬいていた方が良かったんじゃね?
そうすれば、俺とパルは一気に18禁ルートに……。
いや、何を考えているんだ俺は!?
こんなことは駄目に決まっている。
絶対に駄目だ。
とにかく、結婚するまでは潔癖であることをつらぬこうと俺は決めたんだ。
一体、何を血迷っているんだ、俺は!!
「なあ、ところで気になるんだが……この5つのメニューって何と言う料理なんだ?」
「ああ、これか。メニュー1のラブラブハートでラブキッスは、ハート型オムレツ。メニュー2の思い出せ!! 君のあの子に片思いだった頃の甘酸っぱい青春の1ページの味を!! は、いちごのショートケーキ。メニュー3のいいのよ? もしもあなたが私のあっつぅいキスを受け止めた頃には、きっとあなたは私の熱に魅了されてしまっているのだからは、ウォッカ。メニュー4の駄目よ、そこは駄目。だってそこは女の大事なところなんだから! でも、どうしてもと言うのなら、仕方がないわね。いいわよ、しっかり私を味わって食べなさいは、鳥の胸肉のからあげ。本当に私に聞くほどメニューが分からなかったのか?」
「悪いな、メニュー1から4まで全滅だ」
あんなもん分かる方がどうしてるわ!!
「それで、どのメニューにする?」
「いや、水だけでいい。それより、重要な話がある」
「……?」
「何故、俺をまたこんなところに連れてきたんだ?」
俺は、パルピーナにもの問いたげな視線を向けた。
「それは、春人の次のバトルが6対2という非常に危険なバトルになるからだ。まあ、これを見てくれ」
パルピーナはそう言うと、壁際の方を指差しした。
俺は指差しされた方に顔を向ける。
すると、そこには俺や他の味方や敵の名前や、顔写真の入った表らしきものが壁に貼られていたのだった。見れば、そこには江戸川春人VS鈴鹿凛と記されていて、俺の顔写真の横には○マークが、鈴鹿凛の顔写真の横には×マークがある辺り、さっきのバトルによる組み合わせと勝敗結果が分かる表のようだ。
「なるほど。これはさっきのバトル結果な訳だ。それで、何故こんなものを?」
「それは、この表を見てバトルに勝ち残った味方が6人中2人しかいないという致命的な事実を知ってもらうためだ。ちなみに、さっきのバトルで春人が勝った鈴鹿凛についてだが、あれは幻影だ。それも、沙姫の特殊な魔術により生み出された本物と同等レベルに強い幻影だ。だから、敵側はまだ6人も残っているという訳だ」
「まだ6人も……確かに不利だな」
「そこで、私はそこのテレビを使って今から春人にさっき戦った鈴鹿凛を除く5人の敵の戦闘を見てもらいたいのだ。まあ、この手は多少卑怯かもしれないが、相手もそれ相応に不正を行っているのだから、春人も文句はないだろう?」
「そうだな、確かに奴らの情報は多ければ多いほどいいからな。さっそく見せてくれないか、パル?」
「いいだろう。それでは、まず誰のバトルから見たい?」
「そうだな。それじゃ、まずは亜利沙のバトルからだな。俺自身、亜利沙とは何度か手合わせしたことあるし、あの強い亜利沙が負けるとは一体どんな相手か気になるしな」
「分かった」
パルピーナは手短にそう言うと、側にあったリモコンを操作すると、亜利沙のバトルに切り替えるのだった。




