第34話 間章Ⅲ 中身のない人形
「大学か……」
こないだユウトくんに東京にある楼蘭羌大学に行かないか?って言われた。
正直高校一年生の段階で大学なんて考えてなかったから、ユウトくんはとってもしっかりしてるし、未来をみてるなーって感心しちゃう。
「未来か……。」
こんな河川敷でのんびりしていていいものなのかな。
この間にもユウトくんはなにかしてるし、時間も進んでる。
私の家族の未来はなくなっちゃったし。
私は、未来をちゃんと見てるのかな??
不思議な気分だな。
けど、私のことをユウトくんは誘ってくれたんだ!!
ユウトくんは頑張ってるんだ。
私がその大学へ行けるぐらいにならないと!!
隣に立てるように頑張らないと。
だって約束だもん!!
「よし!!やったるぞ!!」
次の日から本格的に動き始めた。
私はまずは担任の先生に相談した。
母と二人暮らしで家庭環境が酷いこと、大学へ行きたいことを。
先生は親身になって相談に乗ってくれたし、たくさんの知識を教えてくれた。
まず、大学には奨学金があるけど入学のお金だけどうにかすれば大丈夫らしい。
担任の先生曰く、この大学には必死に勉強しないと今のまんまじゃ受からないとも教えてくれた。
まだ高校一年生だから巻き返すことができるって。
今のうちに成績を高くすれば、学校からの推薦も視野に入れられるから今からのほうがおすすめとも言っていた。
家庭環境は上手くやるしかないと言っていた。
確かに周りがどうこうした所で母が変わらなきゃ何も変わらない。
先生を困らせちゃった気がした。
けれど、先生に相談して、考えがまとまった。
勉強と資金集めを頑張ればユウトくんと同じ大学へ行けるとわかった。
やっと私の進むべき道がみえた気がした。
ここからはやることが単純になった分、前よりはスムーズに事が進んだ。
お父さんに相談してまず新しい口座を作ってもらった。
勿論お父さんにも大学の話はした。
お金は出してくれるとも言ってくれたけど、なるべく自分でやりたいと伝えた。
無理するなよ。の一言で承諾してくれた。
学校の女バレもやめた。
中学からずっとやっていたけど、これからのこともあるし、最近いけていなかったから部活は辞めることにした。
バイトは融通の利く、時給高めの場所を探した。
に担任の先生にも相談したがなかなか見つからなかったが、知り合いの瑛太くんが小田原駅にある時給一七〇〇円のコールセンターのバイトを紹介してくれた。
ここから地獄にも近い日々が始まった。
勉強はとても苦戦した。
予習に復習にテスト勉強、予想以上に時間はかかるし、量も桁違いに多い。勉強もやってこなかったから、やり方がわからなかった。
ユウトくんや知り合いに聞いて、なんとか食らいつくのが精一杯だった。
さらに、ここにコールセンターのバイトが入る。
マにニュアルを読むだけとか募集では書いてあったのに、いざ業務に取り掛かってみれば、マニュアルだけじゃ収まらないクレーマーたちの対応に追われた。
正直、辞めたいと思ったぐらいだ。
朝起きたら、小さな自分の部屋で
テスト勉強と各教科の復習をした。
時間になったら学校へ登校し、学校が終わったらコールセンターのバイトへ高校生の限界二二時まで働き、その後は朝の一時まで予習と復習で一日が終わる。
最初の一ヶ月、二ヶ月はとても辛かった。母のこともあるから逃げたかった。
けれど、ユウトくんと同じ大学へいけると考えたら、そんな小さな悩みはどうだっていいぐらいだった。
だからとにかく、ほんとにとにかく食らいついて頑張った。
冬に本格的に入り始めた頃、ユウトに一緒に帰ろうと誘われた。
だから、この日だけバイトを休むことにした。
「よっ、待たせたかな?」
「うんん、全然!!」
「じゃあ、行くか……うう、さむ。」
「そんな薄着で学校来るからだよ笑 いこ!」
「ごめんな、試合続きで忙しくて……。」
「全然、ユウトくんが頑張ってるなら私は応援したいから!!」
「ありがとう。」
「何しみじみしてるの笑」
「あとさミユ、最近大丈夫か?顔色ひどいけど」
「気のせいだよ〜笑 私は元気いっぱいなんだ!!」
「ほんとか笑 つらいならちゃんと言えよ。」
「そしたら素直に言うよー笑」
「まぁ、無理すんなよ。」
「わかりました〜。」
ユウトくんごめん、まだユウトくんを頼っちゃいけない気がするんだ。
待っててくれるかな。
用意ができたら、たくさん話したいな。
年明けも、同じ日々が続いた。
冬休みがあったから、前よりも働く時間が増えて効率よくお金を貯めることができた。
もちろん、辛いことには変わりなかったけど。
毎日が必死で、必死で。
もう環境や人のせいにしたくなかった。
周りに頼らなくてもしっかりしていける、しっかりしてるユウトくんの隣に追いつきたかった。
「今度こそは……今度こそはとなりに並ぶんだ……。」
私がこうして進んでいけるのはユウトくんのおかげだ。
ユウトくんがいなかったら何もできない自分だっただろう。
ユウトくんには助けられっぱなしだな。
気がついたら、春。
私は高校2年生になっていた。
今度はユウトくんと同じクラスになることができた。
やっとユウトくんとたくさん話せると思ったら嬉しくてたまらなかった。
こないだ全国模試で楼蘭羌大学の合格率は九十パーセントを超えた。
やっと勉強が身についてきて、少しだけホッとした。
けど、安心しきれない。
まだ高校生で学ぶ事が終わってない。
けれど、今までの復習が完了している事に少しだけ誇りを持てた。
今月には受験や入学金までだけど、貯金額百五十万円を超す予定だ。
けれど、まだまだだ。
新生活の諸々、あと百万円は必要だと担任から聞いた。
何もなかった自分がここまでできると思っていなかった。
自分でもびっくりするぐらいだ。
けど、私の戦いは終わっていない。
「なんだこの公式……??」
高校二年になってから勉強が格段に難しくなっていた。
だから、この環境になれるまではコールセンターのバイトの働く時間を少し抑えた。
最近は嫌だけど、自分のアパートで勉強することにした。
母に関しては最近は帰るのが遅かったから見る光景といえば、男と戯れてるか、泥酔して寝ているの二択だけだった。
今日からはまた家に長くいる生活になる。
けれどなんにも変わっていなかった。
男は二日に一回変わるし、実の娘の横で快楽に溺れていた。
だか、変わった部分といえば1週間のどこかで朝ごはんを作ってくれるようになった。
そして、寝ている時に懺悔をしているのか、ごめんねとうなされている母を見るようになった。
まだ母親の部分が残っていたのかと私は心のどこかで安堵した。
母も大変なのかもなと同情までする気持ちを覚えた。
嫌いになった母に同情か……。
「不思議なこともあるもんなんだな〜。ってこの公式早く早く覚えないと!!」
「あんたうるさい!!もうちょっと静かにして!!私の家なんだから。」
「……。」
母の家か……父が家賃を出してるんだけどな。
母はいつも通り、男とし始めた感じか。
私には関係ないけど。
「あとちょっと……」
今日は学校の金庫から通帳を持ち出していた。
新しいローファーを買うことにしたからだ。
いじめられた時にボロボロになっちゃったのをずっと履いていたが、学年も変わったことだし、やっと買うことを決断した。
私は通帳を靴のカバーと靴の間に無理やりねじ込んで、隠した。
「きっと大丈夫。」
4月下旬にまたユウトくんとまた帰る約束をした。
今日、大学に行けるようになったと教えるつもりだ。
「進級してからは初めてだっけ?」
「そうだよ!!楽しみにしてたんだから!!」
「こんな僕を楽しみって笑そんなうれしいことないよ笑」
「いじわるー笑」
「そういやさ、ミユ、新クラスで結構モテてるんだぜ。」
「そうなの?」
「自慢の娘だ。中学はあんなだっ……」
「おい!!それは内緒でしょ!!」
「ごめんって。」
「あのさユウト。」
「どうしたミユ?」
「うんとね…………やっぱなんでもない!!」
「なんだよ、フェイントか笑」
「違うしー笑」
その後は雑談が続くばかりだった。
今日はユウトがお父さんと映画に行くらしく、いつものゲームができなかった。
「なんでいえなかったんだろう……。」
私はその後もユウトに言うことができなく、そのまま別れ道に着いてしまい、結局何事もなく帰った。
やっぱり、まだ準備が足りなかったのかな。
「ただいま……。」
「あ!!ミユおかえり〜。今日は母さんが夜ご飯作ってあげるからね〜笑」
「……え?、あ、うん。」
「んふふ、早く手を洗いなさいよ。」
「お母さん、何かいいことでもあったの?」
「それはまたご飯の時に話しましょうね!!」
「……うん。」
母は何かあったのだろうか、やけに機嫌がいいし何より、見た目が一段と良くなっている。
部屋も片付いている。
本当にどうしてしまったんだろう?
「ご飯できたわよー。」
食卓には私が好きだったしょうが焼きと母特製のナムルがあった。
「お母さん、久々にしたかも……笑。今まで迷惑かけてごめんね、ミユ。私ちゃんとやり直すことにしたの。」
「はぁ……。」
「あとね、またあの一軒家で過ごせるわよ!!」
「……え?」
「ローンを組んだのよ笑。前より安くなってたし、あと再婚もするの、今度紹介するから……」
「ちょっと待って。再婚するの?ローンも組んだの?お母さん働いてないじゃん!!そんなの払えないでしょ!!」
「再婚相手が前よりも年収は低いけど笑けれどお金はあるんだって笑」
母親はそんなに若くない。
そんないい相手があんな環境で会えるわけがない。
「……そうなの?」
「ミユには感謝しかないのよ〜。あんなに貯金してたんだもん!!」
「……え?」
「だから私ここだ!!って思ってたくさん振り切っちゃったのよ笑。ほら、新しいブランド買ったのよ!!お母さん似合ってる??」
「お母さん……私のお金……使ったの??」
「ええ!!私のためにためてくれたんでしょ!!」
「通帳どこ??」
「はい、これ!!」
私は素早く、通帳の残高を確認した。
「二万……五千円……。」
「なんかね、全部使うのも勿体なく感じちゃってね笑。だから、少しだけ残したの笑」
嫌な予感が当たった。
はじめからこんな母親がいきなり優しくなるわけがない。
あの人はお金で優しく動いたんだ。
期待した私がバカみたい……。
「……んでよ。」
「ん??」
「なんでよ!!!!なんで私のお金使ったの!!」
「それは私のために、」
「違うし!!私は行きたい大学があって!!だから必死に一年近くかけてためたお金なのに!!なのに、なんで!!なんでよ!!」
「何その口!!私が産んだんでしょ!!感謝しなさいよ!!こうして、アパートにすましてもらってることも、なにもしていないことも!!感謝しなさいよ!!」
「んな!?なに逆ギレしてるの!!私が必死にお金なのに何でかって聞いてるの!!!!」
「関係ないでしょ。私が産んだんだもん、なにに使おうが、私の勝手でしょ。私のお金なんだから。」
「この人でなし!!」
自然と身体が動いていた。
母に平手打ちをしてしまった。
けれど許せなくて……どうしょうもなかった。
こんなに好き勝手言われて、今までの不満が抑えられなくなったそんな気がした。
「なにするのよ!!もう知らない!!」
母は通帳を握りしめて、ドアへと歩き始めた。
「通帳は置いてって!!!!」
「いやよ!!」
「痛い!!」
振り払われた反動で壁の角に背中を打ちつけてしまった。
「ふんっ、歯向かうからこうなるのよ!!」
母は言ってしまった。
私の全てを握りしめて。
「どうすれば……いいの……。」
なくなってしまった。
本当になくなってしまった。
私が大学へ行くために頑張った者全てが……なくなっちゃった。
あぁ、私何してるんだろう。
それから何日間か学校に行けなかった。
バイトにも休みの連絡を入れた。
どうすればよかったのか?
私は何のためにやっていたのか分からなかった。
ただなくなってしまったことしか、わからなかった。
お父さんにそのことを話したら親身になってくれたけど、お父さんも上司にパワハラを受けて、そのことを会社に報告したら、返ってお父さんが辞めされられたらしい。
だから、大学のお金を少しなら出せるけど、全て出す余裕はないって。
もう考えても分からなかった。
何をすればいいのか?
どうすれば上手くいくのか?
もう理由がわからなかった。
今日は学校に登校した。
久々の学校だったから、友達からはやつれた私をみて心配してくれた。
けれど、本当のことなんて話せるわけがない。
私は今できる範囲で精一杯明るく振る舞った。
今日は五月十日。
あの日から、もうそんなに日にちが経っていたのか。
私は日にちも把握できなくなっていたのか……情けない。
正直、正気ではないと思う。
だからかは分からないけど、学校にいても何も楽しくなかったし、むしろ辛かった。
そんな時にユウトくんが、一緒に帰らないかと誘ってくれた。
嬉しかったけど、ユウトくんにどんな顔をして帰ればいいかわからなかった。
気づけば五百羅漢駅。
ユウトくんは委員の用事があったから、遅くなるみたいで、待っていた。
「ミユ。待たせてごめん。」
「全然いいよ!帰ろー!」
結局、私は精一杯の笑顔で元気を作ることにした。
ユウトくんには迷惑をかけたくない。
今日は久々にゲームをすることになった。
「今日はどうしよっか!」
「こないだはT字交差点縛りしたし…今日は十字交差点縛りにする?」
「いいね!そうしよ!」
私とユウトくんはT字交差点がある所縛りで帰り道に帰った。
楽しかった。
ユウトくんといる時間はやっぱり楽しい。
こうして、絶望的な状況でもこれだけは変わらない事に私は嬉しくて、けれどつらくてたまらなかった。
ユウトくんには本音を吐けない。
きっと今もそうだ。
きっと本音を言ったらユウトくんは親身になってくれるけど、この楽しい時間はきっと終わってしまう。
ユウトくんごめんね。
私は本当のことを言えない嘘つきなんだ。
気がついたら、家の通路に続くT字交差点が三連になっている所に差し掛かった。
私は先導して動いている所は多かったけど、ユウトくんが後半は僕がって先導するようになった。
私たちの長いこの縛りゲームに終わりの瞬間が訪れる。
まだ続いてほしいと思ったけど、これ以上やったら、私の心が持たない気がした。
一つ、二つと超えた。
ユウトくんはいつものクールな雰囲気は消えていて、小学生のようにはしゃいでる。
そして、最後の3つ目に差し掛かった。
「一番乗りは僕ってことで!!先行くわ笑」
ユウトは勢いよく走り出した。
「ちょっと待っ、」
ボンッ。
一瞬の出来事だった。
赤い液体と一緒に宙に舞う、ユウトくんの姿を。




