第32話
今日はやたらと夜風が気持ちいい、ちょうどいい気温だ。
夜といえば最近は満喫や部屋にこもりっぱなしだったから、新鮮味を感じる。
壊れかけの電灯、少し地面を照らしてくれる三日月、遠くには駅前の明かりの塊が見える。
いつもみていた光景なのに、なぜだか美しく、きれいに感じる。
歩いていると聞こえるコオロギの鳴き声も心地良い。
今まで気づきもしなかったけど、僕は夜が好きなんだろうな。
こうやって好きなものを見つけて、少しずつ、前を向いていこう。
きっとミユは僕の幸せを願っているんだから。
河川敷は昼とは違って、とても暗く、川の流れる音が聞こえるだけの場所になっていた。
「あいつどこにいるんだ?」
視界が少し悪い場所ではあるから、近くまで来てくれないと、とてもじゃないが瑛太の姿なんてみえっこない。
「瑛太ー。どこだー?」
「…………。」
「あいつ……嘘ついたのか?」
「よっ!!」
「んあ!!!!ってびっくりさせんなよ……。」
「驚き方相変わらず面白いな笑わりーわりー。」
「いいけど、今日はどうしたんだ?」
「まぁまぁ、河川敷沿いで座りながら話そうぜ。」
「そうだな。」
「やっぱりここの芝生はふわふわだな笑」
「そんなこと意識したことねーよ笑」
「意外と視点を変えてみるのもいいかもしれねーぜ笑」
「確かにな笑」
「で、ほんとにどうしたんだ?僕お前のこと殴ったりしたか?」
「なんでそんな心配するんだよ笑心配しすぎだって笑笑」
「夜に呼び出したりしてごめんな笑学校では話しづらくてさ。」
「どうしたんだよ、そんな改まって。お前そんな真面目キャラじゃないだろ。」
「……何だよ!!俺がバカなキャラだとでも言うのかよ!!」
「否定はしない……笑笑」
「おまえーこのやろー笑笑」
「痛い痛い……痛いって笑」
「お前が悪いんだよー笑」
「悪かったよ笑」
「で、本題にに入る前に……最近大丈夫か?」
「あぁ、何も問題ないと思うけど。」
「違う違う、お前の精神的な話。悩んでたり、内気になってないかなって気になってさ。」
「そんな心配するなよ笑、僕は大丈夫だって。」
「ほんとか??」
「ほんとだよ笑」
「ならいいんだけどさ。昼も話した通り、元気ならいいんだけどさ、周りや俺のために無理にそういう風にして迷惑かけないようにしてるのかなって思っちゃって。」
「そんなことないって。そんな無理もしてないし、だったらちゃんと相談するって笑」
「……。」
「まぁ、今は大丈夫だって。」
「まぁいっか笑。でさ、本題にはいるけどさ、お前に返したほうがいいかなってものがあってさ。」
「返したいもの?なんか瑛太に貸したっけ?」
「いや、これはお前のもんじゃないけど……ちょ暗くて……どこだ。」
「はい、明かり。」
「お!サンキュー気が利くねー笑」
「これぐらい自分でしろ笑」
「うんと……あ、あった。はい、これ。」
「なにこれ……ってこれ、シチオウじゃん。瑛太がなんで持ってるんだ?」
表紙のカバーが逆になってる……どこか見覚えがあるような……。
気のせいか……?
「これ、ミユが持ってた小説なんだ。」
「……え?」
やっぱりだ。
中学生の頃に一緒に買った小説”シチオウ”。
ミユと初めて買い物に行った時に買った”下”の方だ。
その時、僕が下巻を買った。
ミユと買いに行った後にこの河川敷でシチオウを読み進めた。
その時ミユは同じ小説が多いからなくさないように!!って事で上巻の表紙のカバーを逆向きにセットした。
僕も一緒になって下巻のカバーを逆向きにした。
当時はお金がなくて、上巻はミユ、下巻は僕が持っていて二人で河川敷で集まっては交換したり、一緒に読んだりして楽しんだ。
そして高校に入った時に、僕の下巻とミユの上巻を記念にとっかえっ子した。
だから僕の手元にはミユの上巻がある。
そして、今下巻を持っているのは瑛太だ。
なぜ、瑛太が下巻を持っているんだ?
「いやな、ミユに小説おすすめのあるって聞いてさ、そしたらこの小説おすすめしてくれて貸してくれたんだ。交通事故に遭う前に。」
「そうなのか……。」
「上巻はユウトが持ってるから、もし気になるならユウトに貸してもらってねってさ。そう言われてたんだ。」
「ミユが?」
「あぁ、そうだ。もう返す場所がなくなっちゃったから、返すならお前かなって思ってさ。」
「……。」
「はい、受け取れよ。」
「……あのさ、それ瑛太が持っとけよ。」
「なんでだよ?」
「だって、ミユが最後に渡した人は瑛太何だろ、だから。」
「いや、困るって、俺なんかが持ってても……」
「ミユもそのほうがいいと思ってるよ。きっと。」
「なわけ、」
「僕とミユはもう終わったんだ。あいつは死んじゃったけど、ミユは僕の幸せを願ってる。忘れてもいいって言ってくれたんだ。」
「…………。」
「だからお前が持っててくれ。僕はいった通り、今が楽しいし、明日も学校へ行きたいと思うぐらい楽しいんだ。ミユはそんな前を向いた僕の背中を押してくれてるんだ。だから、僕はそのしょうせ、」
「おい、」
「なんだ、」
直後、右頬に衝撃が走り、左手に吹き飛ばされた。




