第27話 間章Ⅱ 不安の種、希望の芽生え。
中学でユウトくんを見つけてからは嘘みたいにあっという間に時間が過ぎた。
一緒にゲームをしたり、本について語り合ったり、何気ない話をしたり。
そんな普通の日々が私にとっては幸せだった。
気がつけば、周りは受験シーズン。
私もその空気に背中を押されるように、少しずつ受験と向き合うようになっていた。
少し前、ユウトくんが矢畑高校か漣高校のどちらに行くか迷っていると教えてくれた。
私は勉強が全然ダメダメで矢畑高校へいく頭なんてなかったから、漣高校にしようってユウトくんに必死に説得した。
ユウトくんも一緒の高校には行きたいって言ってくれて!
私とユウトくんは漣高校に一緒に行くと約束した。
でも、漣高校は偏差値五七ぐらいだったから、遅く勉強を始めた私にとってはとても簡単ではなかった。
ユウトくんに勉強を教えてもらったり、先生に居残りで授業をお願いしたり、とにかく必死に頑張った。
ぎりぎりだったけど、なんとかユウトくんと一緒に漣高校へ入学した。
入学してからも大変だった。
勉強は中学の比じゃないぐらいスピードも早く難しいし、環境もまだ全然慣れていなかったから、追いつくだけで精一杯だった。
何度も心が折れそうになったけど、ユウトくんがいたからなんとか心が折れずにすんだ。
勉強も落ち着いて環境に慣れてきた頃にはもう六月になっていた。
ユウトくんはテニス部のインターハイに向けて頑張りたいって言ってたから、時間が合わず一緒に帰ることも少なくなった。
ちょっと寂しいけど、ユウトくんが頑張る事は応援したい。
「期末は頑張るぞー!!」
私も負けてられない。
まだ慣れただけでこなせてないし、ユウトくんにはまだまだ頼りっぱなしだし。
ユウトくんが頑張ってるんだ、私ももっと頑張らないと!
自宅の玄関まで来たところで、ふと違和感を覚えた。
何やら騒がしい。
多分、いつもの口喧嘩かな。
帰った時に騒がしいとなんだか心配になる。
「ただいま!、……」
なんなの……これ。
あちらこちらで物は散乱しているし、かなり荒れていて、私の知っている家ではなかった。
両親の怒号も外で聞くよりもはるかに大きかった。
恐る恐るリビングへ足を運ぶ。
正直行きたくないけど、自分の部屋に行くためにはリビングを通らなきゃいけない。
「私の事じゃん!!何したってかまわないでしょ!!なんにもしてくれなかったくせに!!!」
「お前はそんな事を抜かすのか!?お前のせいだろ!!ふざけるな!!」
「金無し男が!!私が結婚してあげただけマシでしょ!?」
「……!、お前……ふざけんなよ!!何様だよ!!お前のために子供のために働いてる僕が馬鹿じゃないか!!いい加減にしろよ!!」
静かにリビングの端を何事もないかのように通った。
勉強で精一杯の私は、この事には関わりたくなかった。
階段へと続くドアのところで母の怒号と共に勢いよく私に向かって何かが飛んできた。
「いたい!!」
左腕にガラスのコップが当たったらしい。
ガラスの破片が刺さったのかとても痛い。
「おい!!何してんだよ!!おまえ!!」
「私にとってはそいつが金食い虫だからいい気味だよ!!」
「それでも母親かよ!!」
お母さんそんな風に思ってたんだ。
……あの愛情は嘘だったんだな……。
「ミユ、大丈夫か?」
「私……そんな風に……お父さん……痛いよ……。」
なんでだろ。自然と涙が溢れ出してくる。
たった一言聞いただけなのに。
「父さんが病院連れてくからな。立てるか?」
「うん……」
あれからあっという間に時間が過ぎた。
激痛だったからかもしれない。
治療してもらった帰り道。
お父さんは、少しずつ事情を話してくれた。
お母さんには、浮気をしていた相手がいたこと。
その相手に、お父さんが家族のために貯めていたお金やカードを渡してしまったこと。
そして、その人には逃げられたこと。
家には、もうほとんどお金が残っていないらしい。
とてもじゃないけど一緒に過ごせないと考え、離婚を決断して話したらあの喧嘩に勃発したらしい。
どうしてお母さんがそんなことをしたのかは、私には分からなかった。
「守ってやれなくてごめんな。父さん情けないな。」
「そんなことないよ。」
「離婚したら、父さんの所来るか?コウはこっち来るって言ってるけど。」
「場所はどこ?」
「父さんの実家の愛知の方に引っ越そうかなと思ってるよ。」
「……お父さんのところにいきたい気持ちはたくさんなんだけど……」
「どうしたんだ?」
「私……好きな人がいるの……一緒にいたくて。あんなことはされたくないけどユウトくんとは一緒にいたいの。」
「いつも話してくれたユウトくんか……父さんに話してくれてありがとう。けど辛くなったらいつでも父さんの所に来なよ。」
「うん……ありがとう。」
「父さん、生活するお金ぐらいしかミユに出してやれないけどな。ごめんな。」
「ううん、それだけで十分だよ。……ありがとう。」
こうして、藤咲家は崩壊してしまった。
私はお父さんに話した通り、お母さんと過ごすことになった。
以前住んでた一軒家とは違い、小さいアパートに二人で住むことになった。
お母さんとの生活は私が思うよりも少しずつ着実にひどくなっていった。
最初は反省していたのか、ご飯も通らなく虚ろな生活を送っていたお母さんだったけど、一ヶ月も経たないうちにケロッと元に戻った。
お母さんは喫煙を始め、お酒を飲む量も日にちと共に増えていった。
2ヶ月目に入った時はもう私の知っているお母さんなんてどこにもいなかった。
自分の事や家事などは全て私に押し付けられ、お気に入りの服も勝手にとられてはお母さんのものにされどうしようもなかった。
最近は夜になれば愚痴を聞かなければならないと言う娘に対しての対応とはとても思えないのだ。
二日前に話していたけどお母さんは風俗を始めたらしい。
その日を境にひどさが増した。
小さいアパートに男を連れてくるようになった。
お母さんには出てくるなとか、満喫へ行けとか、言われて仕方なくいかざるおえなかったけど学校がある私にとっては苦痛で仕方がなかった。
四ヶ月目には私が家事で家を片付けるような時間すらもなくなった。
二日に一回は男が泊まるようになった。
しかも毎回違う男の人が。
「ここがいいんでしょ」
「ちょっと、やめ……」
「嫌がってるけど濡れてるよ?」
「変態」
聞きたくなかった。
もう満喫に行くお金を出せないから邪魔するなと言われたけど、実の母の喘ぎ声や男のいか臭いにまみれ、汚くなったこのアパートに住みたくなかった。
私はお母さんのことを心底絶望していた。
もう母だとも思っていない。
九月の下旬のある日、お父さんから仕送りされた学費等のお金が銀行からなくなっていた。
私が使うはずがない。
だとすれば……
「お母さん、銀行のお金知らない?」
「あ!私のためにお金お父さんにもらってからもらってくれてありがとね!おかげでブランドのバックが買えたわ!」
「そうなの……それはよかったね。」
何も言い返せなかった。
もう言い返す言葉すら出てこなかった。
それから父に相談した。
前の銀行口座を使ってたから父さんが悪いって言ってたけど、お父さんには何度も謝った。
私の管理が甘かったからだ。
それからは口座を作り、絶対にバレないように、学校の先生に相談して金庫を貸してもらった。
もう二度とこんなことにはなりたくない。
そう誓った日でもあった。
その後も改善する事もなく、悪化することもない苦痛の日々は続いた。
やっぱりお父さんの所に行ったほうが良かったのかなって思う時もあったけど、私のユウトくんに対する想いを手放すことは絶対にしたくない気持ちが私を留まらせた。
十一月上旬ぐらいになった時、学校にも変化があったんだ。
靴箱には母親のキャバクラのプロフィール写真がぎっしり詰まってたり、ビッチって書かれるようになったり、女子からも避けられるようになった。
仲の良いチホちゃんから聞こうとしたら、チホちゃんですら避けられるようになった。
耳を立てて盗み聞きしたあたり母のことだろう。
キャバクラで働いていて男癖が悪い母親の子供だからきっと私の事もビッチだと思われているんだと。
今日は家に帰れる気がしなかった。
あの家に帰れば寝る暇なんてない……
あの河川敷に行こう。
私とユウトくんの思い出の場所、何かする時に必ず来たこの河川敷。
ここの桜は綺麗で、初めて二人で花見をしたのもこの河川敷だ。
「ユウト、私……どうしたらいいのかな……」
わかってる、こうなる事はわかってた。
ユウトくんと一緒に居たいけど、こうなっちゃうことぐらい……
私の選択は間違ってたのかな……。
「心が痛いよ……。」
「ミユ、大丈夫?」
「……え?え!」
ユウト……インターハイの部活の時間のはずじゃ、
「どうしたんだよ。」
「いや!何でもないよ!!」
今はダメ。
「でもさっき心が痛いって……」
「それは!二学期末のテスト近いから緊張してて!!あとさっき目にゴミが入っちゃってこうなっちゃったの、えへへ笑」
私がユウトの頑張りを邪魔しちゃう。
「……嘘つくなよ。」
「え!嘘なんかじゃ、」
え、ユウトが私を優しく包んで……
「辛かったんだろ。それぐらい僕にだってわかる。」
「え、いや……そんなわけ……」
「僕に何で言ってくれなかったんだよ。」
あ……ダメなのに。
今邪魔したら、ユウトくんの優しさに甘えたらダメなのに……。
ユウトくん……ずるいよ。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「ほんとに大丈夫か?」
「私……ユウトくんが……頑張ってるから……邪魔しちゃ……ダメって……」
「私の……せいで……ユウトくんを……困らせちゃうから……けど……けど!!」
「ありがとう、僕に気なんかに使ってくれて。けど、相談してよ、そういうのは。」
「だって……」
「だってじゃない。噂も耳にしてるから、そんなことぐらい分かるよ。」
「噂……信じる?」
「何バカなこと言ってんだ。信じるわけないだろ。逆だよ逆。そんな噂僕が消してやるっつーの。ほら、竜巻旋風脚的な感じでさ……」
「……物理じゃ無理だよ笑」
「ま!!とにかくそういうのはこれから僕に相談して。苦しんでる姿は見たくない。」
「ごめん……」
「……謝んなよ、頼ってくれ。」
「……ありがとう。」
「落ち着いた?」
「……うん。」
「ここ最近行ってなかったから懐かしいわ、来年またここで花見しような。」
「……うん!」
「元気出たか?」
「おかげさまで!」
ユウトくん、やっぱりすごいよ。私は諦めなくて良かった。
選択はきっと大丈夫。
ユウトくんがいる限りきっと大丈夫。
「あとさ、話したいことがあってきたんだよ。」
「どうしたの?」
「もういきたい大学が決まってて、東京にある楼蘭羌大学っていう場所に行こうと思うんだ。」
「大学もう決まったの!?私、応援してるね!」
遠くへ行っちゃうのか……。
「……で、なんだけど、うんとさ……ミユも一緒にいかないか?」
「へ?一緒に!?」
「そんな驚くことじゃないだろ。」
「だって東京じゃん。」
「行きたくないの?」
「ううん、行きたい。」
「じゃあ、決まりだな。」
「うん!」
「お互い頑張ろーぜ。」
「うん!!」
ここ最近で一番いい笑顔ができた気がする。
諦めなくてほんとに良かった。
「ユウト!!私、前を向いてみる!!」
「おう!」




