第26話
「あそこ行くか。」
五百羅漢駅近くのコンビニから10分ほど歩いて、河川敷まで来た。
「懐かしいな。」
ここはミユとの思い出の場所、狩川だ。
暇な時、本を読みたいとき、雑談したいとき、日向ぼっこしたいとき、家まで道路縛りゲーム以外で何かミユとしたいときは、大抵近くの本屋かここの河川敷にきてたくさんの思い出を作った場所だ。
今年の春もミユと2人で花見に行ったな。
ミユに誘われて中2の時に2人でいったのがきっかけだっけ。
温かい思い出ばかりだ。
だからなのかな。この場所に来ると落ち着くっていうか、なぜだかとても安心する。
「あぁ、ほんと……楽しかったな。」
河川敷に腰を下ろす。
少し整理しよう。
1日は3時間で戻ってる。
人に触れると轢かれたぐらい痛い。
水やドア、火など物理的なものはほぼ全てがこの現象とリンクしてる。
ぐらいか。
基本一人だということ。
こればっかりは辛い。
というか、改めてこの世界ってめんどくさいな。
ふぅ……飯、食うか。
僕はさっき買ったウインナーパンとシーチキンマヨネーズをパクリと一瞬で食べてしまった。
思ったよりお腹空いてたな。
やっぱり、このゆったりした空間はいいな。
周りはうるさいけど、僕は好きなようにゆったりできる。
最高だ。
「逃げてるのかな……」
眩しくなっていく空を見上げながらそんな事が口から漏れ出てしまう。
多分僕の領域では追いつけない視点で見てみた時、きっと僕は逃げてるんだろうな。
到底理解しきれないと思うけどな。
「狭いな。僕の領域は……僕の世界は。」
あぁ……口元が緩むな。
何なんだろうな……僕は。
顔を伏せようとしたときに違和感が視界にはいる。
人が動いてる……
倍速、じゃない……
見た感じ女性だ。
この世界には僕だけじゃなかったのか??
そんな事はどうでもいい。
多分、ここで声をかけないと必ず後悔する。
そんな気がしてしかたがない。
「あの!!!」
僕は立ち上がりながら川のむこうにいる女性にむかって叫ぶ。
「君は……なんで!!」
何を言おうとしたんだっけ。
彼女はこちらに気づいたんだろう。
見られている気がする。
僕は川沿いのできるだけ近くへと向かい出す。
「あなたは……誰なんだ!!」
いきなり動いたからか、心臓の鼓動が激しい。
呼吸もとてつもなく浅い。
視界がぼやけるな。
「あの!!」
彼女からの声だ。
僕はめいいっぱい息を吸って、呼吸を整えて前を見上げる。
「私は……!!」
彼女はこちらを向いた途端に言葉を紡ぐのをやめる。
僕も唖然どころか、言葉すら出てこない。
この甘くて、ハキハキとした元気な声。
髪は肩にかかるぐらいの長さで、いつも元気を与えてくれる……
……ミユ……ミユ……なのか。
どうして?
どうしてミユがいるんだ……。
僕が殺してしまったミユが、なんで……なんでいるんだ。
なぜか聞こうとしても声が出せない。
思考が追いつかない。
なぜ??なんでだ??
ミユも言葉を出せずに唖然として固まってる。
もう、なんなんだ。
この現象、この異世界みたいな経験。
あ……くそ。
言葉も出ないし。
頼むからでてくれ。
「……おまえはミ……」
「あの、ごめんなさい!!」
……は?
ミユが……河川敷を走って登り始める。
訳がわからない。
どうしていってしまうんだ。
どうしてまた消えてしまうんだ??
「……おい!!なんで!!」
河川敷の頂上で彼女はこちらを振り向く。
「あなたはあなたでいて!!自分を信じて!!きっと大丈夫。」
「待ってくれ!!待ってくれ!!!」
彼女は姿を消してしまった。
「頼む……待ってくれよ……。」
目の前の視界がぼやけてきたな、、
あぁ……こういうのは性に合わないんだけどな……。
「世界も僕と一緒に泣いてくれるのか……逆さだけどさ。」
雨は雲に吸収されるように上にあがっていく。
僕とは真逆の方向に。
「これじゃあ、僕がこの世界にハブられたみたいじゃんか。」
…………
「なんでだよ!!」
理由のわからない感情が下から込み上げてくる。
いろんな感情が混ざりに混ざって、なんなんだ。
こんなの……どう処理したらいいんだよ。
……とりあえず帰ろう。
エコバッグを持っておぼつかない足取りで歩き出す。
「あぁ……なんなんだ、僕は……僕はなんのために!!……」
なんでだ、僕は一体何なんだ。
ーー何をしてきたんだ。
気づけば自分のことばっかで、また人のせいにして……最低なやつだ。
ミユは……なんでぇ……あなたはあなたでいてって……信じてって……。
そんなの……できないよ。
ミユを殺した張本人だぞ。
とうの本人にそれを言われても……
どこいったんだよ……ミユ。
また僕の前から消えるのかよ。
はぁ…ぁ…ぁ…。
上がっていく水滴を気にせずに家に帰った。
何回、人にぶつかったかはわからない。
ただミユの事を、隅々まで思い当たる場所をめいいっぱい捜したのに……いなかった。
あれは、幻だったのかな……この世界ならあり得そうだよな。
僕だって……疲れてるし。
けどそんなのたちが悪すぎる。
もうこのままでいいって思えたのに。
逃げてしまえそうだったのに……。
なんでミユは僕を……進めようとするんだ??
「くそ……クソクソクソ!!」
裏ポケットに勢いよく手を入れて取り出す。
「こんなものがあるから!!」
腕をめいいっぱい振り上げる。
――自分を信じて!!
「……くっ、クソ。」
駄目だ、やっぱり無理だ。
こんな大切なもの、投げられないよ……。
「あ……もうなんで……あぁ、あぁ……」
ミユ……ごめん。
気持ちを踏みにじりかけた。
僕の気持ちが弱いから……ごめんよ。
ガラじゃないのに……涙が止まらないよ。
…………。
「もう……どうしたら。」
自分の部屋のベットへ倒れるように寝転がる。
きっと、神の悪戯の延長に過ぎない。
――幻だったんだ。
僕への戒めだろう。
この世界いいと思った僕がばかだった。
全然良くない。
むしろ最悪だ。
住みづらいし、うまくいかないし、あんなの起こしてくるし。
ドアもめんどくさいし。
またはいるのに苦労した。
ほんとなんで僕なんだろう。
他の人だってたくさんいるのに。
もうどうにでもなれ。
可能性があるなら、願ったりだけど。
目の前が真っ黒に……いや真っ白に染まっていく。
ミユの気持ちより、自分を優先した自分自身を呪いたい。
もうそれ以外はどうだっていいよ。
……もう、いいよ。
…………
……
……カチン。




