第22話 間章Ⅰ Continue
「もう八年も経っちゃうのか〜」
自分の机に座って、足をパタパタしながらよくわからない柄の白い天井に向かってぼやいてみる。
金曜日な事もあって、賑やかだった教室は思ったよりすぐに黙り込んでしまった。
そう、私はユウトくんと出会ってからもう八年が経つ。
小学一年生の時に一度会っているけど、
ユウトくんはきっと覚えていないと思う。
けれど、私にとって救われた日なのだから。
小学一年生の私はクラスに馴染めずにいた。
この頃は病弱だったから、学校を休むことも多くて、女子のグループに入れなかったりした。
馴染めないことがとても怖くて、当時の私はクラスメイトと話すこともいつの間にかできなくなっていた。
そんな私がとても嫌いだったし、毎日気が沈むばかりで。
本を読んでただ、時間が過ぎるのを待つのが日課だった。
夏休みも近くなってきてた頃、昼休みに私はいつものように本を読んでいたら、急に手元から本が消えた。
顔を上げるとクラスの男子が本を持っていた。
「お前何読んでんだよ笑」
「ちょ……」
「うわ、これ文字多くね。きも!」
本を取り返そうとしたけどいざ立ち上がってどうすればいいか分からなくなって固まってしまった。
クラスメイトの女子は「やめなよ」とか言っているけど、ただ見ているだけ。
「ズル休みしててこんな本読んでたん笑」
「え、いや……」
「え?なに笑」
内心泣きそうだった。
なんでこんなことにならなきゃいけないのかもわからなくて、みんな見ているだけで……
「やめろよ。」
力強いけれど、冷たい口調の声が教室中に響き渡る。
「なに?ミユちゃんが好きなの笑」
「本返せよ。」
「なんで笑」
「こんなの面白くない。だから返してやれよ。」
「ちっ、はい!どうぞ笑」
その男の子はぶんどるように本を受け取ると私の右手を引っ張って、教室の外へ向かって歩き出す。
周りからは「なになに?」「告白?」などの黄色い歓声が上がる。
「いくぞ。」
私たちはそのまま校舎の外に出て花壇に腰掛ける。
「はい、これ。」
「……ありがと。」
「大丈夫?」
「うん……」
気が緩んだのか蛇口を開いたみたいに目から涙が止まらない。
「……これ、使う?」
男の子がポケットからハンカチを出して私に差し出してくる。
私は少し頷き、ハンカチを受け取る。
「ごめんなさい……」
「いいよ。」
「……あの……名前なん……て……」
「あずみゆうと」
「ユウト……ユウトくん……」
「あの……本当に……ありがとう……」
ユウトくんは少し照れくさそうな顔を見せたがすぐに微笑んで私に顔を向けてくる。
「……友達になろう。」
「……うん」
「じゃあ、よろしく。」
「……よろしく。」
この後もたくさん泣いた。
けれど、ユウトくんはどこに行く様子もなく、ただ私のとなりで微笑んで待ってくれていた。
……なんて優しい人なんだろう。
私はあの時、心からそう思った。
小学一年生にしては少し大人びていて、クラスメイトとは言っても初対面の私のために寄り添ってくれて……私を助けてくれて。
この日からユウトくんは私の初めての友達でヒーローになった。
けれどその一週間後私は突如パパの転勤で東京へ転校することになり、ユウトくんとはそんなに話せなかった。
ユウトくんとの出来事があってから、転校先ではクラスのみんなと喋れるようになったし、お友達もたくさんできた。
私はユウトくんのおかげでたくさん変わる事ができた。
小学校を卒業したあたりで、父の業務が落ち着き、また地元の神奈川へ帰ることになった。
家は前の地域と同じ場所に今度は一軒家で住むことになった。
家が広くなって興奮したことを覚えている。
そして、春。
中学に入学した時はとてもソワソワした。
地元の小学校は大体この中学に進学することが決まっているからだ。
あれから数年経ったけどユウトくんがいるのか必死に探した。
けど、見当たらなかった。
もしかしたら、私のいない間にいなくなったのかもしれないし、ほかの中学校へ受験したのかもしれない。
私は片思いの期待を消化しきれず、中学生のスタートをきった。
来る日も来る日も探してみるけど、中々見つからないし、学年も四百人近くいたからかなり高難易度でもやもやする日が続いた。
そして、中学一年生の梅雨入りした日。
放課後、私はほぼ諦めて投げやり状態で図書室で本を読んでいた。
私はやっぱり諦めきれないのか、無意識に周りを見渡してしまう。
ふと、となりの人の本が目にはいった。
私と同じ本を読んでる……
誰なんだろうとひっそりと顔を覗き込んだ私は目を見開いて、声を出さずに驚いてしまう。
……ユウトくんだ。
やっと見つけた。
私は恐る恐る声をかける。
「ねね、本ってよく読むの?」
彼はいきなり声をかけられたからなのか、肩を震わせてびっくりしていた。
「……うん。この本好きなんだ。」
少しだけ間が空いて返事が返ってくる。
「そうなの!?私もこの本好きなの!!」
やっと喋ることができた反動なのか、大きな声が出てしまう。
「あ……ごめんなさい。」
「いいよ気にしなくて。同じ学年?」
「うん、私はC組の藤咲ミユ。」
「僕はI組の阿生ユウト。」
「よろしく!」
「よろしく。」
さすがに覚えてくれてないよね……
小学生の時だし、やっぱり時間が空きすぎた。
こうなるとは予想していたけど、いざなってみるとだいぶ心に刺さるな……
私が不貞腐れていると、ユウトくんがチロルチョコを渡してくる。
「何があったかわからないけど、これで元気だしなよ。」
「……え、いいの!ありがとう!」
私は思わず笑顔になってしまう。
ユウトくん、相変わらずだな。
ユウト君って本当に優しいな。
私は時間を置いて初めて気づいた気がする。
私はどうしようもなくユウトくんのことが好きだったんだ。
私の長年のもやもやが晴れていく気がした。
「……ヤバい!そろそろいかないと!!」
私の声が殻の教室中にカラオケ並みに響き渡る。
今日もユウトくんと一緒にゲームをして帰る予定なんだ。
図書室で用事があるって言ってたから図書室にいるかな……
私はスクバを持って図書室の方向へ小走りで向かいだす。
……たくさんの思い出があったな。
改めて思い返してみたけど、私はユウトくんにたくさんしてもらってばっかりだ。
だから私ができることはユウトくんを笑顔にする事。
だから、今日も私は明るく元気な私でいるんだ。
「…ユウトくん!」




