第21話
下山し電車に乗り、瑛太と別れたその後、考え事をする暇もなく、自宅に着いてしまった。
玄関の前で一呼吸整える。
やっぱり向き合うのは怖い。
恐る恐る玄関を開けると部屋が散らかっていた。
皿の破片も床に散らばっている。
ここから先は何が起こるかわからない。
皿の破片を避けながらリビングに顔を出すとひどく酔いつぶれた親父の姿がそこにあった。
何もかも諦めたようなそんな目をしている。
「た……ただいま。」
「ゆうとか……」
こちらに何とも言えない目線を向けてくる。
「あのな……父さんな左遷になったんだ。埼玉に。」
「……ほんとに?」
とりあえず聞こう。
「だからしばらくは一人でこの家に住んでくれ。父さん向こうの寮に引っ越すから。」
「え……あ、うん。」
「ったく。あの新人クソ社員ども顔がうざいからって左遷にするなんて頭おかしいのか?俺は10年、10年だぞ。10年もやってきたのにこの仕打ち。どーなってんだ!!」
「……」
何も言えない。僕からアドバイスできることなんて何もない。
「つらくてつらくてしょうがないのに、帰ってきたら誰もいねーんだよ。おい、今日ゆうと晩飯担当だったよな。」
「……ごめん。」
「……あ?何してたんだ?」
「友達とミユの墓参りを……」
僕の横を何かが通り過ぎる。
ガシャンって音が部屋中に響き渡る。
「テメーふざけんじゃねーぞ。俺の心配よりも自分の友人の心配か?え?」
「……」
「チッ、そんなやつなんてどうでもいいだろ?」
「……は?」
「大体もう死んでるんだからそんなことしなくていいのに。金の無駄だ、無駄無駄。」
いくら親父でもそれは駄目だ。2回目だというのに冷静さを失いそうだ。
「あとな、お前のせいだからな。」
「…何が?」
「シカトすんじゃねーよ。お前のせいで、お前が生まれたせいで俺の嫁は亡くなったんだよ。」
数秒間、息をするのを忘れてたと思う。
何とも言えない憎悪がしたから込み上げてくる。
母は、僕を産んで死んだ。
原因は帝王切開らしい。
詳しいことは聞かされてない。
だから、そう思われるのもしかたない。
親父の愛人が僕を産むことによって亡くしたんだから。
それでも親父は男一つで育ててきてくれた尊敬できる父親だ。
前回はそんな父親に「僕の気持ちなんか分からないくせに。親父なんて死んでしまえ。」と言って家を出て逃げてしまった。
正直後悔してる。
だから、今回はそんな事はしない。
親父を支えられるのは僕しかいない。
「親父!ごめん。」
「……あ?」
「こんな情けない息子だから、親父のために何もできてなかった。」
「何だよいきなり……」
「だけど!親父がこの16年間僕を育ててくれた事は感謝でしかない。だから親父のために何にもできなくてごめん。」
「……」
「そして、ほんとにありがとう。」
勢いに任せて言ったけど我ながら何言ってんだ僕は。
酔いつぶれて座っていた親父が突然立ち上がり、僕の方へ足をおぼつかせながら歩いてくる。
僕の前まで来た親父が僕を抱きしめる。
「……ごめんな。」
鼻をすすりながら、親父は笑った。
でも全然笑えていなかった。
……泣いているのか。
「お前の言うとおりだ。ゆうと、お前にひどいことを言った。ほんとにごめんよ……」
「こちらこそ、いつも迷惑かけてごめん。」
「それはいいんだ……俺は、俺は…俺は……」
「……」
僕も親父を優しく抱きしめる。
「俺は!母が残してくれた唯一の息子に言い訳したんだ。本心じゃない。ほんとに……すまない。」
「……いいんだ。僕は。親父が大丈夫ならそれでいいんだ。」
親父はその後30分は泣いていたと思う。
僕はその間はいつまでも親父を抱擁していた。
「……ゆうと、もう大丈夫だ。ありがとう。」
「ならよかった。」
「皿、片付けないとな。けがはないか?」
「ぎり避けたから大丈夫。」
「よかった……」
親父は玄関の方へ破片を取りに向かう。
逃げなくてよかった…ちゃんと向き合えた。
最近は自己嫌悪で周りが見えなくなってて、今日だけでも気づけなかったことがたくさんあった。
だから、こんな形で後悔したことをやり直せてよかった。
さぁ、僕も親父の片付け手伝わないと……
ん?何の音だ?ギギギ?
ギギギ……カチチチチチチ……
この音って洞窟の音と一緒だし……
僕は唖然としてしまう。
何より、目の前の父親が倍速どころじゃないスピードで巻き戻っている。
……嘘だろ?




