プロローグ編015/復讐鬼【井上 笑媛】
【井上 笑媛】は復讐のためならば、何でも使う。
何でもだ。
例えば、【主人公】としての立場、【芦柄 吟侍の後継者】としての立場もだ。
【笑媛】は、【橋田 一樹】と言う男に近づいた。
この男は、直接の【祥吉】の仇では無いのはわかっている。
ただ、【大槻家】の襲撃のための情報を流した男だと言うのもわかっている。
あの惨殺のきっかけの1つを作った男。
それだけで、復讐の対象としては十分だ。
【笑媛】は、
「ねぇ、貴方・・・
私って綺麗?」
と声をかけた。
【一樹】は、
「そりゃ、君は、天下の若手の超有望株と言われる女優だし。
お近づきになりたいって思うのは自然な事じゃないか?」
と言った。
【笑媛】は、にっこり笑いながら、
「・・・私と付き合いたい?」
と言った。
【一樹】は、
「出来るものなら・・・
俺と付き合ってくれるの?」
と聞いた。
「・・・今のままじゃ無理ね・・・
でも、条件次第では・・・
考え無くもないわね・・・」
「それはどんな?」
「私はね・・・
英雄に憧れているの。
偉大な英雄にね。
貴方はなれるかしらね?」
「俺が?
無理無理・・・絶対無理だって」
「それがそうでも無いのよねぇ~って言ったらどうする?
挑戦する?
それとも私なんかと付き合うのにそんな事出来ないって思う?」
「そんな事無いって。
君と付き合えるなら命の1つや2つ、賭けられるって。
ホント、マジでそう思ってるから。
付き合えるなら何でもするよ。
教えてくれ。
どうすれば付き合って貰えるんだ?」
「・・・そう。
なら、これは【術式】による契約になるんだけど、後戻りは出来ないわ。
それでも出来る?」
「出来る。
君と付き合えるなら」
「・・・そう。
それは良かったわ。
実はね、私・・・【伝説の勇者】/【芦柄 吟侍】から、【後継者の証】ってのを貰っているの。
でもね、私・・・女優だし・・・危ない事出来ないから、代わりにやってくれる人、探しているんだ。
ちょっとしたクエストの2つや3つでも良いから、【クリア】してくれれば、私の役目も果たせるんだけどなぁ・・・
代わりにやってもらえないかな?
【後継者の証】を手にすれば、【誰でもそれなりに力】は付くんだよ。
でも、私、女優だから・・・
顔を傷つける訳にも行かないし・・・
代わりにやってくれる人が居たら助かるんだけどなぁ・・・」
「か、代わりにやったら付き合ってくれるの?」
「あらっ・・・
付き合うだけで良いの?
その後、何をしたいとか無いの?」
「き、キスとかエッチも良いの?」
「お望みとあれば・・・
どうしよっかなぁ・・・」
「やらせてくれるの?
君とやれるなら死んでも良い」
「本当に?」
「本当だ。
神に誓っても良い」
「そう・・・
じゃあ、本当に契約してくれるのね?」
「あぁ。
もちろんだ」
「じゃあ、クエストを1つクリアしてくれたら、ご褒美にキスしてあげる。
2つクリアしてくれたら、愛撫してあげる。
3つクリアしてくれたら・・・
その後はご想像にお任せするわ」
「ホント?
ぃやったぁ~っ」
「じゃあ、契約の儀式を済ませましょう」
「あぁ。
わかった。
すぐしよう。
すぐにクリアするから」
「そう・・・
ありがとう・・・」
と言った感じで、まんまと【笑媛】は【一樹】と【後継者譲渡の契約】を結んだ。
特殊な文字での【契約】なので、【一樹】には契約の内容がわからないが、内容としては、
【超難関クエストを突破するまで戻れない】
【死亡したら前契約者に後継者の権利は戻るものとする】
と言った文言が入っている。
つまり、【一樹】には到底不可能な【クエスト】をあてがい、【一樹】は死ぬまで元に戻れない契約をし、彼が死んだら、【芦柄 吟侍】の【後継者】の権利は【笑媛】に戻ると言うものだ。
人には器というものがある。
同じ、【クエスト】でもクリア出来る者も居れば、クリアは絶対に不可能な才能の無い者も居る。
【笑媛】は、【吟侍】の後継者として相当高いレベルの【クエスト】を任せてもクリア出来るだけの素質があると判断されている。
対して、【一樹】は才能は皆無である。
他者の嫌がる情報を流して、暴利を貪る様な小者であり姑息な悪党に過ぎない。
そんな悪党が、【笑媛】のレベルの【クエスト】をクリア出来るはずもない。
そう。
これは、【笑媛】の【クエストレベル】を使った【殺人】である。
【笑媛】から、【後継者の資格】を譲渡された、【一樹】は、【主人公/後継者】として、【超難関クエスト】に挑んだ。
が、全く語る事も無いまま、瞬時にそこに居た小者モンスターの餌となって人生を終えた。
悲鳴もなかった。
「・・・え?」
と言う言葉を発したのが最期だった。
【一樹】の絶命により、【主人公】/【後継者】の権利が戻った【笑媛】は、
「・・・気持ち悪い。
想像でもあんな男(【一樹】)と付き合うと思われた事が不快だわ・・・
空しいわね・・・」
とつぶやいた。
そこに死者に対する畏敬の念は全くない。
純粋なる嫌悪。
それしかない。
彼女は、【復讐鬼】と化している。
復讐のためならば何でもする。
何でも利用する。
【人生】でただ1人、愛する男性を失った彼女にとっては復讐する事でしか、生の実感が得られない。
悲しき存在となっていた。




