第769話 ボース村編入4
編入後の動き。
「陛下……少し厳しかったんじゃないですか?」
「いや、国と村の立場ははっきりさせる必要があるからな」
「しかし、あれだと不満を持ちますよ……」
「……だろうな」
「だったら」
「だが、いずれ、分かると思うよ」
「そうだといいんですが……」
ザンナ村長と編入について合意に達したが、会談後、ミアから苦言を呈される。確かに上から目線のきつい言い方をしたが、これにより、ミアではなく僕の方に不満を持ってくれるよう誘導したのもあるんだ。
家族が悪く思われるぐらいなら、
僕が悪く思われた方が何倍も気楽だ。
それに、どの道、その不満はすぐ解消されるだろう。
<ボース村編入案>
・ボース村を法王国に編入する。
・ボース村の自治を認める。
・ボース村から徴税、徴兵しない。
・二大政策(働く・悪事をしない)を守ってもらう。(努力)
・法王国(中心部)とボース村の間の道路整備
・編入はボース村からの希望による。(事実確認)
・編入後、法王を敬う。(努力)悪口禁止(義務)
・定期報告する。(三か月に一回程度)
理性的に考えれば、この編入案は大甘だ。余程の愚か者でない限り、分かるだろう。昔、僕が無人島を開拓して、王国から自治を認められた際も、徴税免除を獲得するために、多くの避難民の受け入れという条件があったからね。最初から無条件で徴税を放棄する国なんて、法王国以外ありえないだろう。
※参照※ 第53話(王城からの呼び出し)
間違いなく、この編入案、ボース村にとって、かなり有利な内容だと思う。村長は「対等」にこだわっていたが、この内容は法王国の国内地域より、いいかもしれない。なぜなら「自治」が認められているんだから。ボース村は名より実を取った形になる。
この編入により、法王国は島全体の統一、法王の権威向上という「名」を取り、
ボース村は交易の活性化、生活向上という「実」を取ったのだ。
双方、ウィンウィンの結果と言っていいだろう。
さて、関税の扱いを変えてやるか。
連邦事務局のイレーネに念話しよう。
――――
――――――
ロナンダル大陸のある港町
いつものようにボース村の船が荷揚げする。
法王国に編入後、初の荷揚げのため、船員達は
少し緊張している。
「前回は大変だったよな」
「ああ、あれには参ったよ」
そう話していたら、徴税官が近づいてきた。
「法王国の船ですね?」(にこやか)
「ええ、そうですが……」(前回と態度が全然違うぞ!)
「はい、伺っています。今回から関税免除です」
「おおおお!」
「やったな!」
その後、関税免除により、いつもより多くの売上金が残り、それにより、以前よりずっと多くの物品を購入できるようになった。購入時の関税も免除されたため、村に多くの物品を持ち帰ることができるようになったのである。
「こんなにいっぱい持ち帰れるなんて最高だ!」
「こんなに重いと船が傾くんじゃないか? あはは」
帰りの船中、村人達は終始、お祭り気分であった。
――――
――――――
~ザンナ視点~
ボース村、村長宅に人が集まる。
「村長、大陸の関税が免除になったぞ!」
「えっ、もうか?」
この前、法王城に行って、編入案に合意したばかりだぞ!
「しかし、関税免除って凄いよな。村に持ち帰れる物品の量が全然違うよ」
「そうか」
「しかも、手続きが楽になったし、徴税官の対応も柔らかくなった」
「ほぅ」
ボース村は法王国に編入し、向こうと上下の関係になったが、
連邦加盟地域になるメリットはやはり大きいんだなぁ。
ちょっと、みんなに釘を刺しておくか。
「いいか、みんな、聞いてくれ」
「何だ?」
「この前も説明したが、俺たちも法王国の一員になったわけだから、法王国の基本方針には従わないとならねぇ」
「ああ、あれだろ、法王猊下を敬う、悪事をしない、働く、だろ?」
「そうそう、それだ。悪事をしないと働くは当たり前だが、法王猊下を敬う、は気を付けてくれよな」
「気を付けるって?」
「気持ちの問題だから、各人の努力義務になるが、悪口だけは絶対に言わないでくれ」
「ははは、そんなこと言うわけないさ。法王猊下のお陰で生活が良くなるのに」
「本当に頼むぞ」
聖王陛下と会談した時は、上下関係をはっきり言われ、カチンときたが、結局、名より実が取れたようだな。村人が喜ぶ姿を見て、つくづくそう思う。
それに、今回、はっきりと分かった。
法王猊下には大きな後ろ盾がある。そう、聖王陛下だ。
あの御方は絶対に敵に回したらいけねぇ。会ってすぐ、関税を撤廃できるってことは、大陸でとてつもない権力を持っている証拠じゃないか。万一、怒らして、編入を解除され、関税を引き上げられたら……想像しただけでゾッとする。
今度、リンクス司教に礼儀作法を教えてもらうか。
村の為なら、頭ぐらい下げないとな。
しかし、この俺が人に頭を下げるなんてな。
何しろ、これまで自分より偉い奴なんて、
いやしなかったからな。まったく世界は広いもんだ。
――――
――――――
~アレス視点~
ボース村の編入合意を受け、
これから、法王国の重役会議を開く。
出席者は僕(聖王)、ミア(法王)、リンクス(司教・宰相)
司祭七名(内務、財政、外交、農業、土建、福祉、学問)
ジェシカ(聖騎士隊長)、チベル(警備隊長)
の合計十二名だ。
本来、僕はここの部外者だが、当たり前のように出席し、
当たり前のように会議を招集し、そして議長補佐まで務めている。
本当は自重した方がいいんだろうが、今回の件は僕も絡むから
出張らせてもらおう。
場所は執務室、全員で大きなテーブルを囲んで座るが、
上座の議長席にミアを座らせ、僕はその隣に座る。
「では、始めていいかな? ミア法王」
「はい、どうぞ、陛下」
「うむ」
議長であるミアの了解を得てから、議事を進行する。
形式的なものだが、こういう場では形式は重要だ。
さて、始めよう。
「すでに、リンクス司教から、一報がいってると思うが、先日、ボース村のザンナ村長と交渉し、法王国への編入が合意された」
「「「おお!」」「「編入!!」」
出席者から声が上がる。同じ島にありながら、数百年に渡り、別の道を歩んできた地域だ。長年、異端の村として、特別視(蔑視?)していたのも知っている。
だからこそ、あえて言おう。
「編入したからには、法王国の一部であり、我々の仲間だ。今後は特別視することなく、また『異端の村』等と蔑む言葉を使わないよう徹底してもらいたい」
「「「はい」」」
彼らの中では、異端の村は、法王国の一部、もしくは、一部であるべき、という認識があったのだろう。編入に驚きはあったものの、それに異論を唱える者はいなかった。まあ、リンクスが事前説明したんだろう。やはりリンクスを立ち会わせて良かった。
まあ、『異端の村』という呼称も以前の法王が勝手に異端認定したに過ぎないからな。正直、一般から見たら、どうでもいい話しなんだろう。
「編入により、法王国、ボース村、双方ですべきことができたが、我々はボース村まで道路整備をすることになった」
「えっ、ボース村までの道路整備ですか!?」
司祭の一人が言葉を発した。まあ、正直な感想だろう。
あの道は長いもんな。
「今後、ボース村との交易が増えるだろうが、それには道路整備が必要だ。現在はほとんど荒地のままだからな」
すると、ミアが口を開く。
「あの長さ全部は大変です。しかも、途中、狼が出ますよね?」
「そうだな。だから、狼の出る区間は僕が造ろう。それ以外は法王国の民に造ってもらいたい」
当初は僕がサクッと生産系スキルで全工程をやろうかと思ったが、それでは、民のためにならない。彼らには、農作業により体を鍛え、自立心を高めてもらったが、そろそろ次の段階に進んでもらいたいのだ。
「それでは道の法王国側は民が、ボース村側は陛下が分担されるということですね?」
「そうだな。キリがいいから、半々でいこうじゃないか」
このあたりの話はすでにミアと事前打ち合わせ済み、そのやり取りをこの場で再現してるに過ぎない。狼の出る危険な区間は僕が、安全な区間は民が、半々で分担しようってね。
僕の生産系スキルについては、今回出席している重役メンバーの前で実演してるから、余計な説明をしなくてよさそうだ。あれは説明困難だからな。事前に情報共有しておいて良かった。
※補足※ 第721話 聖王と法王
すると、司祭の一人が手を挙げる。
「あのぅ」
「何だい?」
「以前、聖王陛下の御力により、建物が次々に出来上がるのを見て、感銘を受けましたが、全工程をして頂くことはご無理なのでしょうか?」
ははは、やはり、この手の質問が出ると思った。
「確かに僕が力を使えば、全工程、あっという間に完成するだろう。だが、それだと、民は僕に依存してしまう。違うかい?」
「そうですね……」
「農作業もそうだが、この国をつくり、発展させるのは民の手である必要があるのだ。流石に全工程は長いし、狼の出る区間は危険だから、半分は僕が受け持つが、残り半分は民にやってもらいたいんだ」
「分かりました」
「それに、道路工事の専門家をロナンダル王国から連れてくるし、働いた分は俸給を支払おう」
「俸給? 通貨ですか?」
「この国は通貨の普及が不十分だから、連邦通貨で払おう」
「連邦通貨ですか!?」
「ああ、そうだ。インフラ工事をすれば、民の労働意識が増進し、国内環境が整備され、しかも連邦通貨の普及までできる」
すると、また他の司祭から手が挙がる。
「いいお話のようですが、その連邦通貨はどこから出るのでしょうか?」
もっともな質問だが、答えは既に用意している。
「ああ、僕が全額出す」
「「「えええ! 本当ですか!?」」」
法王国では連邦通貨は希少だろうが、大陸ではたくさん出回ってるし、第一、僕はたんまり持っている。国造りのインフラなら、喜んで出そう。
すぐに他の司祭が手を挙げる。
「連邦通貨の件は了解しました。ですが、この国では、それを使うのに十分な店がありません」
「ああ、そういうと思って、ギルフォード商会を出店させる予定だ」
「「「ギルフォード商会!?」」」
すぐ、司祭の一人が手を挙げる。
「ちょっと待って下さい。ギルフォード商会と言えば、大陸最大の大商会ですよね? そんな大商会がわざわざ、遠方のこの国に来てくれるのでしょうか? この地には特別な特産品もありません」
「ああ、大丈夫、心配しなくていいよ」
「いくら聖王陛下とはいえ、難しいのではないですか?」
「法王国だと大陸の情報が断片的なんだろうが、本当に心配ないぞ。僕が言えば、すぐ出店する」
「ええ? どういうことですか?」
「ギルフォード商会の会長は僕の娘だからな」
「「「えええ!!!」」」
「ふふふ、だから、大船に乗った気分でいてくれ」
こうして、少しバタバタしたものの、会議では次の通り決まった。
・ボース村への道を整備する。
・半分(ボース村側・狼が出る危険区間)は僕が、
半分(法王国側・狼が出ない安全区間)は民が工事分担する。
・道路工事専門家をロナンダル王国から招へいする。
・工事代金は連邦通貨で支払う。
・工事代金は連邦聖王が負担する。
・ギルフォード商会を法王国に出店する。
ギルフォード商会を出店させても、質素、節制を重んじる法王国らしく、取り扱いは生活必需品に絞ろう。その他、各方面との調整も必要だな。さて、何からやろう。腕が鳴るな。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




