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第767話 ボース村編入2

 蟻が象に喧嘩を売るとどうなるか。

~リンクス視点~


 ミア法王猊下が編入のご提案をされてから、半月程経過しました。そろそろ結果が出てる頃でしょう。それでボース村へ返事伺いに来ました。同行はチベル隊長ら、警備隊数名です。ここまで早馬を飛ばしてきました。私は馬を操れないので、いつもの様にチベル隊長にしがみついて来ましたが、長時間の乗馬でお尻が痛くなってるのは内緒です。あぁ、痛たた。


 チベル隊長と二人でザンナ村長に対峙したところ、表情が少し硬い様子……

 いつもなら、気さくな感じで挨拶するのにどうしたのでしょう? 

 いい返事だといいのですが……


 とりあえず確認しましょう。


「ザンナ村長、編入案の件、結果は出ましたか?」


「ああ、出たよ」


「それで?」


「編入に賛成だ」


「おお、そうですか!」(ほっ、良かった)


「但し!」


「えっ?」


「編入すると、法王国との交易がしやすくなると説明されていてな」


「ええ、それはその通りです」


「そのための道路整備を法王国でしてもらえる話になっている」


「ええ、聞いています」


「編入はその道路整備を条件としたい」


「ええと、それは編入()の話ではないですか?」


「いや、編入()だ」


「ええ! つまり道路整備後に編入したいと?」


「その通りだ」


「それだと、結構、先の話になりそうですが……」


「俺達は別に編入を急いでない。むしろ、条件がきちんと果たされるのを確認してから、編入したいんだ」


 ううむ、面倒な話になりました……どうしましょう……


「……わかりました。戻って法王猊下にそうお伝えします」


「悪いな。あんたらを信用しないわけじゃないが、村人にもいろいろ意見があってな。異論を抑えるには、これで帳尻を合わす必要があると思ったんだ」


 道路整備の時期までは詰めていなかったようで、押し込まれた感はありますが、大丈夫でしょうか? とにかく戻ってから会議ですね。


――――

――――――


~アレス視点~


 ミアから呼ばれ、ボース村から戻ったリンクスを交え

 三人で会議をする。


「はぁ、道路整備を先にやるよう言われたのですか?」


 と少し呆れ顔でミアが不快感を示し、


「ええ、その通りです」


 と言葉少なげにリンクスが答える。


「う~む……」


 これは少し予想外だな……


 僕もその場の様子を念視(リモート参加)で見てたから分かるが、ミアと村長との会談は悪くない雰囲気だったし、すんなり決まると思っていた。ひょっとしたら、その後の村の会合で厳しい意見が出たのかもしれないな。


 ミアが僕をチラ見する。道路整備をするのは僕だから、

 僕の見解を聞きたいんだろうな。


 しかし、相手の思惑がどうであれ、行動(結果)で判断しよう。

 それに対する僕の率直な感想はこうだ。


「普通に考えたら、あり得ない要求だな」


「……ですね」


 ミアが少し落胆した様子で答える。彼女はできうる限り礼節を込めて対応してきたからな。その返事がこれじゃ、落胆するよな。


「物事には順序がある。編入して国内地域になってから、道路整備するのが道理だ」


「その通りです。だから、私もあえてそこまで言及しませんでした」


「でも、それをあえて言ってきたことに意味がある」


「と言いますと?」


「先方は編入案に前向きではあるものの、リスクは一切取りたくないんじゃないかな?」


「……うう~む、村長さんはそんな感じには見受けられませんでしたけど」


「村長になくても、きっと村民にはあったんだろう」


「あの後の村の会合ですね……」


「最悪、編入案が没になっても、今まで通りだから、自分らにリスクが無いとでも考えたんだろう」


「そうかもしれませんね」


「ただ、それはうちも一緒なんだけどな。この条件を嫌って没にしても、何ら困らない。今迄通りの関係が続くだけだ。付かず離れずのね」


 ここで、リンクスが意見を述べる。


「それも悪くないように思いますが」


 まあ、確かにそれはそうだ。


「まあな。ここで没になっても、後々、ボース村が過度な要求をしてきたと主張できるから、こちらの立場も悪くならない。道義的にはこちらに分がある」


 僕は外交でも、内政でも、目先の損得より道徳性を重んじる。第三者からは交渉不調と判断される局面だろうが、道義性さえ確保できていれば、それ以外の事象は些末な事に過ぎないのだ。


「向こうはどうでしょう?」


 ミアが先方の状況に思慮を巡らせる。常に相手のことを考えられるミアらしい気遣いだが、ここでは客観的に分析してみよう。


「向こうは向こうで、自分達に有利に主張できたから、気分は悪くないだろう。むしろ、スカッとしてるんじゃないか」


「……では、どうされますか?」


「交渉経過を見ていると、君が先に譲歩(お礼・連邦メリット提示)して、それを受けて、向こうも譲歩(編入前向き)した様に見えたが、村人達との会合を受けて、押し返してきた感じだな。それで条件付けをしてきたと」


「う~ん、そうですね」


「このまま、先方の主張通り、編入前に僕が道路整備すれば、済む話ではあるが、それだと少し面白くない。いや、不愉快だ」


「押し返してきたからですか?」


「その通り。僕らに対する踏み絵だろうが、それが非常に気になる」


「……」


「仮にこの条件をのんだら、先方に誤ったメッセージを送ることになるだろう。法王国は押せば、いう事を聞いてくれると。それは双方の為にならない」


「確かにそうですね」


「喧嘩するつもりは毛頭ないが、僕らに踏み絵を迫るなら、彼らにも同じ経験をしてもらおうじゃないか。自分達が相手にどれだけ不愉快なことをしてるか、教えてやろう」


「陛下……」


「なに、大丈夫、教育的指導という奴だ」


 ボース村は法王国、ひいては僕の力をよく分かって()()()様子だな。僕は友好を重んじるが、舐められるのは好きじゃない。少しばかり現実を教えてやるとしよう。


 ギルフォード流交渉術

一、相手の情報不足、情報誤認識を正す。

二、先制譲歩で相手の出方を伺う。

三、相手に譲歩を促す。

四、譲歩取消しで相手の出方を伺う。

五、相手に道徳的優位性を主張する。(やんわり)

六、相手に道徳席責任を取らせる。(やんわり)


 の通り、一からスタートするのが理想だが、前回の交渉では、時間の制約もあり、この一が不十分だったため、三で相手の譲歩が不十分になったんだろう。しかも、こちらに踏み絵まで迫っている。


 しかたない。情報誤認識を正すのと、譲歩取消し(連邦メリットなし)したら、どうなるか、身を持って体験してもらおう。蟻が象に喧嘩を売ったら、どうなるか。教えてやらんとな。それは蟻のためでもある。


――――

――――――


ロナンダル大陸のある港町


 いつもの様にボース国が魚を荷揚げする。

 大量だったため、船員達の表情も明るい。


「今回は大量だったし、相当な金額になるだろう」


「そうだな。これで目当ての物品も買える」


 そう話していたら、徴税官が近づいてきた。


「ボース国の船だな?」(ジロリ)


「ああ、そうだが」(あん? いつもより態度が厳しいな)


「今回から、関税を二倍にするから、きちんと納めるように」


「えええ! いきなり倍って、どういう事だよ!」


「どうも、こうも、連邦でそうと決まったからだ」


「納得できるか!」


「ん? ここはロナンダル連邦だぞ。連邦の決まりに従ってもらう。それが嫌なら、他で商売しろ」


「そ、そんなぁ……どうしてこんな……」


 その後、売上金で物品を買う際も高い関税を払うことになったため、いつもより、ずっと少ない物品しか村に持ち込めなかったのである。


――――

――――――


 ボース村、村長宅に人が集まっている。


「村長、大変だ! 大陸の関税がいきなり倍に跳ね上がったぞ!」


「えっ!? 何でだ!?」


「知らん。とにかく突然だ。そのせいで、持って帰る物品が減ってしまった」


「「「大変だ! 」」」「「「どうしたらいいんだ!」」」


 村人達が大騒ぎする。


 ボース村は漁業が主力輸出業であり、その稼いだ金で、他の食料や生活必需品を購入するのだ。輸出先、輸入先とも大陸であり、大陸の関税が上がるのは死活問題であった。


「こんな事は今まで無かった。一体、どうしたらいいんだ……?」


「誰か連邦につては無いのか?」


「そんなものあるわけないだろ!」


「このままじゃ、生活に支障が出るぞ!」


 蜂の巣をつついたように村人達から意見が続出する。


 この様子を見ながら、村長のザンナは先日のリンクス司教にした返事が原因ではないかと思い始めていた。タイミング的にそうとしか思えないのだ。


 やがて、村人が一しきり、発言した後、村長に視線が集まる。

 どの村人も、この非常事態の解決案を持ち合わせていなかったのだ。


「ふぅ……」


 一息ついてから、ザンナが口を開く。


「おそらくこれは、先日の件が関係してるんだろう……」


「編入の件か?」


「あれなら、賛成したよな?」


「いや、賛成はしたが、厳しい条件を付けただろ?」


「ああ、先に道路整備しろって奴か……しかし、あれは村長が……」


「何を言ってる! お前達が俺をけしかけたんだろうが!」


「「「うっ……」」」


「まあ、いい。今は言い争ってる場合じゃない。とにかく、あの条件が気に食わなかったんだろう」


「じゃあ、それを引っ込めればいいんじゃないか? 簡単な話だ」


「ああ、あれはすべきでなかったんだ。とにかく法王国に連絡を取ろう。そうすれば、すぐに解決できるはずだ」


 こうして、ボース村は条件(踏み絵)を引っ込める方向となったのである。過去に法王国から来た聖騎士隊を、風の大精霊の加護により、追い払った武勇伝を聞いて育った村民達は、ひょっとしたら心のどこかで法王国を御しやすい相手と甘く見ていたのかもしれない。


 しかし、今回の件を受けて、村人達は現状認識を大いに改めるほか無かったのである。相手は自分達より弱くはない。そして御しやすい相手でもないと。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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